生体炉の地獄
――ピキピキ……パリンッ!
テオのカプセルのガラスに、過圧の負荷で亀裂が走る。
少年の心音モニターの波形はほぼ平坦になり、リリィの瞳からも完全に光が失われようとしていた。
「ひゃーっはっは! 吸い尽くせ、搾り尽くせ! 我が覇道の礎となれェッ!!」
ベルク子爵が歓喜の絶叫を上げる。
漆黒の重機甲『ブラッド・オーガ』の魔導炉が不気味な脈動を速め、胸部の真紅のクリスタルが暴虐の光を放った――その、刹那。
――ズドォォォォォォォォォォンッ!!!!
地下空間全体を揺るがす、天地崩壊のような大爆発が工廠の背後で炸裂した。
厚さ半メートルを超える対機甲用隔壁が、粉々にひしゃげた鉄屑となって弾け飛ぶ。
吹き荒れる爆風、舞い散る火花と黒煙。
突入地点にいた数十人の私兵部隊が、衝撃波だけで作業デッキごとまとめて吹き飛ばされ、悲鳴を上げて鉄骨へと叩きつけられた。
「な、なんだぁぁぁッ!? 坑道は落盤で埋めたはずだぞ!?」
ベルク子爵が手すりにしがみつき、目を剥いて絶叫する。
もうもうと立ち込める粉塵の奥から響いてきたのは――低く、重く、大地を軋ませる足音だった。
「落盤ごと、ぶち抜いてきたに決まってんだろ」
煙を裂いて現れたのは、銀髪を夜風のように逆立たせ、身の丈を超える無骨な鉄塊を担いだ少女。
サファイアブルーの双眸には、絶対零度の殺気と、限界を振り切った怒りの劫火が宿っていた。
「……れ、レオ……ナ……さん……?」
薄れゆく意識の中、リリィの瞳にその銀色の影が映る。
「よく耐えたな、リリィ。――もう大丈夫だ」
レオナの言葉と同時に、影のように飛び出したセシリアが白銀のサーベルを一閃。
空気を切り裂く鋭利な剣気によって、カプセルへと繋がっていた魔力吸引ケーブルと拘束具が一瞬で全て両断された。
ガシャンッ!
崩れ落ちる二人の身体を、跳躍したミアが滑り込むように抱き留める。
「ふたりとも息はあるっす! カリンさん、早く!」
「任せなさい! 高濃度魔力中和剤と蘇生アンプルを直結するわ!」
突入と同時に展開したカリンが、救護キットを広げて即座に処置を開始する。
完璧な連携による、電撃の救出劇。
「き、貴様らぁぁぁぁッ!!」
目の前で最高傑作の起動シーケンスを邪魔されたベルク子爵は、顔を真っ赤にして血管を浮き上がらせた。
「私の……私の究極の機甲を! よくも邪魔をしてくれたなァ! おい、出撃だ! 私兵機甲小隊、あのネズミどもを肉片一つ残さずミンチにしろッ!!」
子爵の狂乱の号令とともに、工廠の奥の格納庫から地響きが鳴り響く。
重装甲で固められた三機の量産型改修機甲が、重機関砲とチェーンソーを構えて一斉に姿を現した。
さらにベルク自身も作業デッキを駆け上がり、『ブラッド・オーガ』のコクピットへと飛び乗る。
「セシリア!」
「ええ、分かっていますわ!」
セシリアが背後の通路へ向けて通信機を掲げた。
「カリン、トレーラーから『白銀機甲』を射出なさい! 取り巻きの屑鉄は、わたくしが全て片付けます!」
「了解! 近衛仕様機甲『シルフィード』、射出ハッチ開放――発進どうぞッ!」
工廠を貫くレールから、白銀の流線型装甲を纏った高機動機甲が滑り込んでくる。
セシリアがコクピットへと飛び乗ると同時に、白銀の巨人が美しい抜刀姿勢をとった。
俺はアイギスを構え直し、単眼を赤く発光させながら立ち上がる『ブラッド・オーガ』を見据える。
「さて、クズ貴族。――てめえのその悪趣味なオモチャ、跡形もなく解体してやるよ」




