ブラッド・オーガ
――グォォォォォォンッ!
地下工廠の空気を激しく振動させ、三機の量産型改修機甲が一斉に駆動を開始した。
無骨な鉄板を継ぎ接ぎした重装甲。手にした重機関砲の銃口が、救護処置を続けるカリンとリリィたちへ容赦なく向けられる。
「死ねェッ! ネズミどもめ!」
鉛の弾幕が放たれる――その刹那。
――キィィィンッ!
澄み切った高周波のスラスター音とともに、白銀の影が射線へと滑り込んだ。
「王国の騎士たるわたくしがいる前で、非戦闘員に銃口を向けるなど……万死に値しますわ!」
セシリアの駆る『白銀機甲』が、背部スラスターから青白い粒子を噴射して高速機動。
左腕の対機甲シールドで機関砲の弾幕を弾き飛ばすと同時に、右手に構えた長身の魔導レイピアが閃光となって繰り出された。
ズバッ、ズバババッ!
「なっ……速い!? 装甲が――」
敵パイロットが悲鳴を上げる間もなく、シルフィードの刺突が改修機甲の関節駆動シリンダーとメインカメラを正確無比に撃ち抜く。
流れるような三連撃。先頭の機甲は武器を落とし、火花を散らしながら膝から崩れ落ちた。
「残るは二機! レオナ、ここは通しませんわ! 元凶を討ちちなさい!」
「おう、任せたぜお嬢様!」
セシリアが瞬く間に取り巻きの注意を引きつけ、戦線を分断する。
背後を完全に任せられる安心感の中、俺はアイギスを構え直した。
「おのれ、おのれぇぇぇッ! 生意気なガキどもがァッ!」
作業デッキの上で、漆黒の巨躯『ブラッド・オーガ』が暴虐の雄叫びを上げて立ち上がった。
全高七メートルを超える怪物じみた機体。
右腕には巨大な破砕鉄球、左腕には広角魔導火炎放射器を備え、胸部の生体炉からは不気味な赤紫の蒸気が噴き出している。
「あの生体炉を奪われたとはいえ、機体に蓄積された魔力だけで貴様らを挽き肉にするには十分だ! 死ねぇぇぇッ!」
ボォォォッ!!
ブラッド・オーガの左腕から、工廠の岩壁すら溶かす超高熱の紅蓮の業火が放射された。
逃げ場のない直線通路を、灼熱の火炎が津波となって押し寄せる。
「レオナちゃんっ!?」
「レオナ様っ!!」
カリンとミアの悲鳴が響く中――
――ズシンッ!!
俺は一歩も引かず、アイギスを両手で構えて正面から火炎の奔流を受け止めた。
刀身の魔力障壁が展開し、紅蓮の炎が左右へと激しく弾け散る。
「……あ?」
コクピットのベルク子爵が目を剥いた。
火炎の幕を両断して現れたのは、煤ひとつ付いていない銀髪の少女。
サファイアブルーの瞳は、機甲の構造をレントゲンのように冷徹に見通していた。
「……外装だけ帝国製で着飾ったところで、中身はただの粗大ゴミだな」
俺はアイギスを片手で軽々と担ぎ直し、冷たく言い放った。
「急ごしらえで繋いだ生体炉のバイパス配管、過熱に耐えきれずに継ぎ目から魔力が漏れてる。初歩の整備もなってないぜ!!」
「だ、黙れぇぇぇッ! ただの生身の小娘が生意気な口を利くなァッ!!」
激昂したベルク子爵が、右腕の巨大破砕鉄球を頭上で激しく回転させ、俺の頭上へ向けて猛然と叩きつけてきた。




