迫る刻限
――ズガガガガガッ!
大型整備トラックのフロントに取り付けられた強化排土板が、鉱山中層のバリケードを粉砕した。
「くそっ、坑道が入り組みすぎてやがる……! カリンさん、反応はどっちだ!?」
「地下への正規ルートは完全に落盤爆破で塞がれてるわ! 旧鉱区の迂回路を抜けるしかない……けど、ここから先は道幅が狭すぎてトラックじゃ入れない!」
「なら走るまでだ!」
俺はトラックの屋根から飛び降り、アイギスを構えて闇の坑道へと駆け出した。
背後からセシリアとミアが続く。
だが、曲がりくねった岩肌の通路の先々には、時間を稼ぐためだけに配置された私兵たちの毒ガス弾と防衛トラップが幾重にも張り巡らされていた。
「チッ、罠だらけだ……! ミア、嗅ぎ分けられるか!?」
「ダメっす、硫黄と毒ガスの匂いが充満してて鼻が利かないっす……! でも、この奥から嫌な魔力の振動が響いてくるっすよ!」
「急ぎますわよ! 一秒でも早く……!」
セシリアがサーベルで立ち塞がる私兵を切り伏せ、俺がアイギスで岩盤の障害物を薙ぎ払う。
だが、どれだけ焦燥に駆られて足を速めようとも、複雑怪奇な地下迷宮は無慈悲に時間を削り取っていった。
一方その頃――地下最深部の秘密工廠。
蒸気と異様な生体電流の励起音が渦巻く中、毒々しい赤紫色の光を放つ巨大な円筒型装置『生体魔導炉』が脈動していた。
装置から伸びる太いケーブルの先。
並んで設置された二つのガラスカプセルの中に、リリィとテオの姉弟が固定されていた。
「ひゃははは! 見ろ、この素晴らしい同期率を! やはり血を分けた姉弟の生体魔力は極上の過圧を生み出す!」
作業用デッキの上で、ベルク子爵が脂ぎった顔を歪めて狂喜の声を上げる。
足元のコンソールでは、魔力抽出ゲージが危険域へとぐんぐんと針を進めていた。
「う……あぁぁぁぁっ……!」
「テオ……っ、テオぉぉ……!」
全身の血管に突き刺さった吸引針から、二人の生命力そのものが容赦なく吸い上げられていく。
テオの肌は陶器のように透き通り、指先から黒く壊死が始まっていた。
リリィの瞳からも次第に光が失われ、涙すら枯れ果てていく。
「お……ねがい……だれか……たす……け……」
擦り切れた唇から漏れる、途切れ途切れの祈り。
だが、その声に応える者は誰もいない。
響くのは、冷酷な機械の駆動音と、デッキの上からの下卑た嘲笑だけだ。
「無駄だ無駄だ! お前たちのような泥水啜りの奴隷を助けに来る者など、この世のどこにもおらんわ!」
ベルク子爵が愉悦に浸りながら、最終起動シーケンスのレバーへと手をかける。
「我が究極の機甲『ブラッド・オーガ』の贄となれ! お前たちの命の灯火、最後の一滴まで吸い尽くしてやるァッ!!」
――ガチリ。
レバーが無慈悲に引き倒された。
――キィィィィィィィィィィィィンッ!!!!
鼓膜を劈くような超高周波の過圧励起音が工廠を満たす。
カプセル内の閃光が限界まで跳ね上がり、テオの小さな身体が糸の切れた人形のようにガクリと項垂れた。
リリィの視界が急速に闇へと呑まれていく。
(レオナ……さん……)
背後に聳え立つ漆黒の重機甲の胸部炉心が、二人の命を喰らって不気味な真紅の光を放ち始めた。
救いの手は、まだ届かない――。




