夜襲と人質
「捕らえろ! 手足の一本や二本へし折っても構わん!」
ベルク子爵の怒号とともに、私兵たちが一斉に引き金を引く。
だが――
「甘ぇよ」
俺は床を蹴り、先頭の私兵の銃身を素手で跳ね上げた。
放たれた銃弾が豪華なシャンデリアを撃ち抜き、破片が降り注ぐ中、カリンが投げ込んだ閃光弾が炸裂する。
――カァァァッ!!
「ぐわっ!? 目がぁっ!?」
「セシリア、窓から飛ぶぞ!」
「ええっ!」
視界を奪われた私兵たちを蹴散らし、俺たちは領主館のバルコニーから夜の闇へと飛び降りた。
物資集積所に停めてある大型整備トラックへ戻った俺たちは、即座に地下収容所の襲撃プランを練り始めた。
「テオくんが囚われている地下収容所は、鉱山の最下層です。警備は厳重ですが、通気ダクトから潜入すれば――」
カリンが簡易マップを広げて説明していた、その時だった。
ヒュルルルル……ドガァァァァンッ!!
トラックのすぐ外で激しい爆発音が轟いた。
車体が激しく軋み、警告アラームがけたたましく鳴り響く。
「な、なんすか!? 敵襲っすか!?」
「くそっ、もう嗅ぎつけてきやがったか!」
俺たちが武器を手にトラックの外へ飛び出すと、周囲はすでに数十人の黒装甲私兵と、毒ガス弾を装填した迫撃砲部隊に包囲されていた。
黄色い刺激臭のある煙が、集積所一帯に立ち込める。
「ふははは! ネズミどもめ、逃げられると思ったか!」
指揮を執るのは、先ほどの憲兵隊長だった。
装甲車の陰から卑劣な笑みを浮かべ、後ろに控える私兵たちに合図を送る。
私兵たちの手には――縄で縛られ、銃口を突きつけられた街の幼い孤児たちが握られていた。
「なっ……! 街の子供たちまで人質にするなんて……!」
「貴様ら、それでも王国の軍人かッ!」
セシリアが怒りで震え、サーベルを抜き放つ。
「動くなよ、近衛のお嬢ちゃん! 一歩でも動けば、このガキどもの頭を吹き飛ばすぞ!」
憲兵隊長の合図で、催涙ガスと粘着性の拘束弾が一斉に俺たちへ撃ち込まれる。
子供たちを盾にされては、アイギスの過圧噴射もセシリアの剣術も大振りに使えない。
「くっ……しまっ――」
視界が煙で遮られたその一瞬の隙だった。
背後から忍び寄った私兵のワイヤーが、トラックの陰で震えていたリリィの首元に巻き付いた。
「きゃあぁぁぁっ!?」
「リリィ!!」
「捕まえたぞ! こいつさえいれば子爵閣下の実験は完成する! 引け、全軍撤退だ!」
「待てぇッ!!」
俺が煙を切り裂いて突進した時には、すでに私兵たちは装甲車にリリィを放り込み、夜の闇へと急発進していた。
残されたのは、催涙ガスに咽び泣く街の子供たちと、硝煙の匂いだけだった。
「……っ、あの外道どもが……!」
俺は地面を殴りつけた。
石畳が粉々に砕け散る。
「レオナちゃん……」
「カリンさん、トラックの準備だ。」
顔を上げた俺のサファイアブルーの瞳から、完全に温度が消えていた。
「――あいつら、一人残らず叩き潰す」




