新たな旅立ち
静まり返った演習場に、軍靴の重々しい足音が響く。
観閲席から階段を降りてグラウンドへと歩み寄ってきたのは、歴戦の重鎮、ヘンドリック将軍だった。
その背後には抜刀した憲兵隊と、エドワードへ冷たい視線を向けるセシリア、心配そうに駆け寄ってくるカリンとミアの姿がある。
「レオナ様ぁぁぁっ! すごかったっす! かっこよすぎっす!!」
「レオナちゃん、怪我はない!? 無茶ばっかりして……!」
ミアが尻尾をブンブン振りながら抱きついてきて、カリンが俺の全身をくまなくチェックする。
セシリアもまた、ほっと胸を撫で下ろしながら、誇らしげに口元を綻ばせていた。
「……っ、へ、ヘンドリック将軍!」
土煙の中で泥まみれになりながら、エドワードが這いつくばって将軍の足元へすがりついた。
「ご覧になりましたか!? この小娘はやはり化け物です! 我が技術局の最高傑作をあんな悪魔のような力で破壊するなど……今すぐ捕縛を――」
「――見苦しいな」
ドスッ、と重い一喝。
ヘンドリック将軍の鋭い眼光に射抜かれ、エドワードの言葉が喉に詰まった。
「模擬戦にかこつけて実戦兵器を投入し、あまつさえ制止も聞かずに試作重機甲を暴走事故に見せかけてぶつけたな。技術局主任ともあろう者が、私怨で軍の規律と兵器をドブに捨てるとは……」
「ひ、ひぃっ……!?」
「この男を連行しろ。軍法会議にて軍規違反および殺人未遂の罪で厳しく裁く。――技術局の膿を出し切る良い機会だ」
「はっ!」
憲兵たちに両腕を掴まれ、エドワードは無様な悲鳴を上げながら引きずられていった。
騒動が片付き、ヘンドリック将軍はゆっくりと向き直り、俺の前に立った。
見上げるほどの大男だ。だが、その瞳には先ほどのような怒りはなく、純粋な戦士としての敬意が宿っていた。
「小娘……いや、レオナと言ったな」
「おう。……って、セシリア隊長に怒られるか。レオナだ、将軍のおじさん」
「くくっ、構わん。貴族のへつらいなど聞き飽きているからな」
将軍は豪快に笑うと、太い腕を組んで俺を見据えた。
「机の上の理論しか知らん技術局の石頭どもを、実力一つで黙らせた痛快な一撃だった。……前線報告書の通り、いや、それ以上だ。貴様ほどの腕を持つ者が、なぜ王国の正規兵にもならず燻っていた?」
「……俺はただ、田舎で気楽に機械いじりして暮らしたかっただけだよ」
俺は肩をすくめ、サファイアブルーの瞳を将軍の双眸へと真っ直ぐに向けた。
「軍の階級だの出世だのには興味ないし、戦いたいわけでもなかった。……けど、帝国の連中は俺の故郷の村を焼き、母さんを攫っていった。平穏な暮らしを奪われた以上、黙って引き下がる気はないさ。」
「俺は母さんを必ず助け出す」
一切の怯みもない、澄み切った覚悟。
それを聞いたヘンドリック将軍は、満足そうに深く頷いた。
「良い目だ。本物の戦士の目だな」
将軍は懐から一通の羊皮紙と、王家の刻印が刻まれた白銀の認識票を取り出し、俺の手のひらに握らせた。
「これは……?」
「『王国軍特務独立遊撃隊』の設置許可証と、その隊長たる貴様への全権ライセンスだ。帝国領への潜入捜査、およびアイギスの単独専属運用を王国軍第3軍団の名において全面的に認める」
「と、特務遊撃隊……!?」
カリンが息を呑み、セシリアも目を見張る。
「補給や正規軍との連携、前線の通行権は我が第3軍団が全面的にバックアップしよう。……無論、帝国に連れ去られた貴様の母親の手がかりも、軍の情報網を使って追ってやる」
「……へぇ。ずいぶん気前がいいじゃねえか。俺にそこまでしてくれる見返りは何だ?」
「簡単なことだ」
将軍はニヤリと猛禽のような笑みを浮かべた。
「帝国の連中に、我が王国に最強の『勝利の女神』がいるということを骨の髄まで刻み込んでこい。――暴れ回ってこい、レオナ」
「……へっ、言われなくてもそのつもりだぜ」
俺は認識票をポケットにねじ込み、不敵に笑い返した。
こうして、技術局との査問会は完全勝利で幕を閉じた。
青空の下、演習場のゲート前には、カリンによって装甲と居住スペースが徹底的に強化・改修された大型整備トラックが停車していた。
「さあ、みんな! 準備は完了よ!」
「ウチ、どこまでもレオナ様についていくっす!」
「まったく……近衛のわたくしが遊撃隊など……ですが、仕方ありませんわね。あなたのお目付役は続けてあげますわ」
笑顔で手を振るカリン、飛び跳ねるミア、呆れつつも嬉しそうに微笑むセシリア。
「よし――行くぞ!」
銀髪を風になびかせ、レオナたちの新たな旅が始まるのだった。




