必殺の一閃
――ズズゥゥゥゥゥンッ!
大地を激しく揺らしながら、漆黒の巨躯『ゴライアス』が演習場の土埃を巻き上げて突進してくる。
右腕の巨大な削岩機が甲高い回転音を立てて火花を散らし、左腕の連装魔導カノン砲がギラリと青白い励起光を放った。
「化け物めがァァッ!!」
拡声器越しに叫ぶエドワードの号令とともに、連装カノン砲から二条の超高圧魔導光線が発射された。
空気を焼き、大地を穿つ破壊の光が一直線にレオナへと着弾する――はずだった。
――シュバッ!!
着弾の瞬間、轟音と共に巻き上がった土煙を裂いて、銀色の影が真横へと直角に滑走した。
「なっ……!? 消えた!?」
コクピットのテストパイロットが絶叫する。
レオナはアイギス後方の排熱スリットから魔力を瞬間噴射させ、質量をゼロにするような鋭角機動で光線を紙一重でかわしていた。
「遅い」
空中でくるりと身を翻し、軽やかにグラウンドへと着地するレオナ。
翻るショートジャケット、風に揺れる銀髪。その姿はあまりに可憐で、けれど対峙する鋼鉄の巨人にとっては死神そのものだった。
「ちょこまかとカトンボがあぁぁぁッ!!」
パイロットは焦燥に駆られ、右腕のドリルパイルを最大回転数まで引き上げた。
轟音を轟かせ、城壁すら粉砕する質量と回転エネルギーを乗せた一撃が、レオナの頭上めがけて猛然と振り下ろされる。
――ガゴォォォォォンッ!!
巻き起こる爆風。
観閲席の兵士たちが「終わった……!」と息を呑んだ。
だが――ドリルパイルの先端は、地面に届くことすら許されていなかった。
「な……に……!?」
煙の奥で、パイロットは己の目を疑った。
超重量のドリルパイルの直撃を、レオナはただ片手に構えたアイギスの側面一枚で、完全に受け止めていたのだ。
火花が激しく散る中、レオナの足元の大地がわずかに陥没しているだけで、彼女の細い腕はミリ単位たりとも揺らいでいない。
「……設計ミスだな」
火花の照り返しの中、レオナは冷徹なサファイアブルーの瞳でドリルパイルの基部を見据えた。
「回転力を上げるために、駆動シャフトのギア比を無理にいじってる。魔力伝達の同期がコンマ五秒遅れてるせいで、トルクが逃げてるんだ」
「ひ、ひぃぃっ……化け物……!」
俺の意識が、アイギスの深層回路へと力ずくでダイブする。
機構の奥底に封じられていた安全制御弁、魔力過圧防止リミッター――そのすべてを、俺自身の意志で塗りつぶし、上書き(オーバーライド)していく!
カチリ、と頭の中でスイッチが切り替わる音がした。
――【SYSTEM OVERRIDE : LIMIT BREAK】――
――キィィィィィィィィィィィィンッ!!!!
演習場の空気を震わせ、ジェットエンジンのような凄まじい励起音が青空へと咆哮した。
アイギスの刀身全体が眩いほどの蒼光を放ち、全排熱フィンから吹き荒れる青白い光の奔流が、俺を中心に爆発的に吹き荒れる。
「……な、何だあの魔力圧は……!?」
観閲席の研究員たちが悲鳴を上げた。
だが、レオナはもう止まらない。
ドォォンッ!!
地を蹴った瞬間、暴風を巻き上げてレオナの身体が虚空へと跳躍した。
超重量の慣性エネルギーと、蒼い魔力ブーストを乗せた渾身のフルスイング!
「――ぉぉおおおらぁ!!!!」
ズドガァァァァァァァァンッッ!!!!
演習場全体を揺るがす、耳を劈く激突音。
アイギスの鉄塊が叩き込まれた瞬間、ゴライアスの誇る右腕の巨大ドリルパイルが、まるで飴細工のように根元から粉々に砕け散った。
それだけでは止まらない。
振り抜かれた鉄塊の超質量と衝撃波は、そのままゴライアスの重装甲胸部を直撃。
分厚い装甲板を飴のようにひしゃげさせ、内部フレームと魔導炉ごと一撃で粉砕した!
「ぎゃあああああっ!?」
数トンの重機甲が木の葉のように吹き飛び、グラウンドの土煙を激しく巻き上げながら地面を転がっていく。
やがて演習場の端の防壁に激突し、火花と黒煙を盛大に噴き上げながら完全に沈黙した。
「ふぅ……っ」
飛び散った鉄屑の雨がパラパラと降り注ぐ中、俺はアイギスを地面にズシンと突き立て、息を整えた。
あの森の時とは違い、身体の魔力制御に少し慣れたおかげで、今回は気絶せずに立っていられる。
「…………っ」
観閲席の何百人もの兵士たち、将校たち、そして技術局の研究員たちが、総立ちのまま顎が外れたように固まっていた。
もはや声すら出ない。
王国の最高技術を結集したはずの最新鋭重機甲が、生身の小娘の一撃で文字通りスクラップへと解体されたのだ。
その圧倒的な静寂を破ったのは――
――パチ、パチ、パチ。
観閲席の最前列から響いた、重く乾いた拍手の音だった。
「……見事だ。実に見事な一撃だったぞ、小娘」
ヘンドリック将軍がゆっくりと立ち上がり、獰猛な笑みを浮かべてグラウンドのレオナを見下ろしていた。




