重機甲ゴライアス
静寂が、広大な第1地上演習場を支配していた。
土煙がゆっくりと晴れていく中、グラウンドの端まで吹き飛ばされた五人の強化外骨格兵たちは、装甲をひしゃげさせ、白目を剥いて完全に沈黙している。
地面に打ち込まれていた魔導磁界杭は根元からへし折れ、青白い火花を虚しく散らしていた。
観閲席に詰めかけていた数百人の正規軍兵士や将校たちは、誰一人として言葉を発することができない。
彼らが見たのは、華奢な銀髪の少女が、身の丈を超える巨大な鉄塊を片手で軽々と振り抜き――たった一撃で精鋭小隊を粉砕したという、物理法則を無視した光景だった。
「……な、なんだ……今のは……?」
「あんな小娘が……外骨格を一撃で……!?」
ざわめきが波のように広がる中、観閲席の中央で腕を組んでいたヘンドリック将軍の目が、ギラリと猛禽のように細められた。
「……ふん。魔力波だけで、外骨格のフレームごと衝撃を貫通させて脳を揺らしたか。見事な技量だ」
将軍の低く重い呟きは、隣にいた副官たちを戦慄させるのに十分だった。
「ひ、ひぃぃぃっ……!?」
グラウンドの中央で、エドワードは腰を抜かして泥の上にへたり込んでいた。
全身をガタガタと震わせ、泡を吹きそうな顔でレオナを見上げている。
「おいおい、もう終わりか?」
俺はアイギスを地面にズシンと突き立て、呆れたように肩をすくめた。
「最新型の外骨格って言うから期待したけど、あんなペラペラなおもちゃじゃあなぁ」
「き、貴様ぁぁぁぁッ……!!」
レオナの挑発に、エドワードのプライドは完全に焼き切れた。
顔を真っ赤にし、血管を浮き上がらせて立ち上がると、狂気に満ちた目で懐から通信用の魔導端末を取り出し、怒鳴り散らした。
「格納庫の第4班! 今すぐ『ゴライアス』を起動! 演習場へ突入させろッ!!」
その言葉を聞いた瞬間、カリンの顔から一気に血の気が引いた。
「なっ……!? エドワード主任、正気ですか!? ゴライアスは、帝国重機甲に対抗するために作られた開発中の試作大型機甲……実戦用の重装甲と魔導主砲を積んだ危険な機体です! 模擬戦で使うような代物ではありません!」
「ぅうるさぁい!!」
エドワードは唾を撒き散らしながら絶叫した。
「あの小娘は危険だ! 魔導兵器を素手で歪める化け物だ! ここで処分しなければ我が技術局の――いや、王国の脅威となる! 」
「これは……そう、機甲のテスト中に起きた『不幸な暴走事故』だ!!」
――グォォォォォォォォンッ!!
演習場の奥にある大型格納庫の重厚な防壁扉が、重々しい警告ブザーと共に開かれた。
立ち込める黒煙と排熱の熱波を突き破り、地響きを立てて姿を現したのは――全長六メートルを超える、全身を漆黒の増加装甲で覆った巨大な鋼鉄の巨人。
王国製試作重機甲『ゴライアス』。
右腕には城壁すら穿つ巨大な魔導回転削岩機、左腕には連装魔導カノン砲を装備した、まさに歩く要塞だった。
コクピットには技術局お抱えの息がかかったテストパイロットが乗り込み、マニピュレーターを威嚇するように激しく駆動させている。
「あ、あんな重機甲を……生身の相手にぶつける気か!?」
「狂っているぞ、技術局は!」
観閲席の将校たちからも怒号が飛ぶ。
ヘンドリック将軍が立ち上がり、腰の重軍刀に手をかけようとした――その時。
「待ちなよ、将軍のおじさん」
凛とした鈴のような声が、グラウンドを吹き抜ける風に乗って響き渡った。
「……む?」
将軍が視線を向けると、グラウンドの中央で、レオナがアイギスを軽々と肩に担ぎ直し、向かってくる巨大な重機甲を真っ直ぐに見据えていた。
「レオナちゃん! 逃げなさい! あれはさっきの外骨格とは桁が違うわ!」
「そうですわ! いくらなんでも重機甲を相手に生身で受けて立つなど――」
カリンとセシリアが叫ぶ。
だが、レオナの翡翠色の瞳には、恐怖など微塵もなかった。
あるのは、獲物の急所を瞬時に見定める、メカニックとしての冷徹な好奇心と闘志だけだった。
「こいつに勝ったら、もう誰も文句なんかないだろ?」
レオナの視界の中で、ゴライアスの内部構造が透けて見える。
脚部のサスペンションの歪み、背部魔導炉の冷却ライン、そして装甲の隙間に露出した過圧バイパス弁――
レオナは不敵に笑うと、アイギスのグリップを握り直し、全身から凄まじいオーラを立ち昇らせた。
「――ご自慢の重機甲がぶっ壊れるさまを、特等席で見せてやるよ」




