アイギス
「通りすがりの……美少女……?」
数トンはある重装甲機甲をドロップキック一発で壁にめり込ませた俺を見て、白衣の女性研究者――カリン少尉は、目を点にして絶句していた。
「放心してる場合じゃないって! お姉さん、立てる!?」
「え、ええ……っ! でも、護衛の兵士たちが……!」
見回せば、ドック内を包む炎と煙の向こうから、さらに三機の黒い機甲が赤いバイザーを不気味に発光させながら迫ってきていた。
『先遣隊がやられたか。たかが人間の小娘一匹、容赦するな! 殲滅せよ!』
マシンガンの銃身がこちらへ向けられる。
ちっ、さすがに生身で銃弾の雨を正面から浴びたらハチの巣だ。
(何か武器は――!)
視線を走らせた俺の目に留まったのは、ドック中央の保持フレームに鎮座する、あの武骨な巨大デバイス――『アイギス』だった。
身の丈150センチオーバー。内部フレーム剥き出しの巨大な鉄塊。
「これだ……!」
俺は迷わず『アイギス』へと駆けだし、その武骨なグリップへ手を伸ばした。
「待ちなさい、それは!?」
カリンが青ざめた顔で絶叫する。
「外骨格とセットで使う大型デバイスなの! 外骨格の制御ユニットなしで生身で触ったら、過圧された高圧魔力が逆流して肉体が弾け飛ぶわ――!!」
「――それを早く言っ……!!」
忠告を聞いた時には、俺の手はすでにガシッと『アイギス』のグリップを力任せに握りしめていた。
ドゴォォォォンッ!!!!
瞬間、視界が真っ白な光に染まる。
雷が直撃したかのような凄まじい衝撃。激しい青白い魔力スパークが爆発し、俺の全身を駆け巡る。
「きゃあぁぁっ!?」
あまりの衝撃波に吹き飛ばされそうになりながら、カリンが悲鳴を上げる。
激痛。だが、脳が狂いそうなスパークの中で、自分の感覚は異常なまでに冴え渡っていた。
(魔力が……見……える……!?)
体内を巡る高圧魔力と、アイギスから流れ込んでくる奔流のような波形。
乱れ飛び、破裂しようとする魔力の周波数を無意識のうちに捉える。
(合わせる……! 流れを…少しずつ少しずつ大きな川に沿わせるように……!!)
ドクンッ!!
身体の奥底から湧き上がる強烈な鼓動と共に、青白いスパークがピタリと収まった。
アイギスの剥き出しのケーブルや装甲の隙間から、澄み切った青い光が脈動するように走り始める。
「……は? うそ……」
カリンがヘタリと膝をついたまま、信じられないものを見る目で俺を注視していた。
「制御コアも外骨格も通さず……生身でアイギスの魔力過圧をねじ伏せて直結した……!? あなた……一体何者なの……!?」
激しいスパークの残り香の中、俺は重厚なアイギスを右手に握り締め、フッと息を吐いた。
「なんかわかんないけど……死ななかったんだから成功だよな!!」
『今の…あの娘からか!?』
『構うな、撃てぇぇッ!』
たじろぐ帝国兵たちが、一斉にマシンガンを掃射する。
迫り来る激しい弾幕。だが、今の俺の目には、その弾道すらスローモーションのように見えていた。
「重いけど……上がる!!」
身体に感じる魔力を全開にし、俺は150cm超の鉄塊を一閃させた。
ガァァァンッ!!
鉄塊が激しい光の軌跡を描き、迫り来る銃弾をすべて叩き落とす。
「なんとでもなるじゃん!」
地蹴り一閃。
踏み込んだ足元からドックの岩肌が砕け散る。
一番手前の帝国機甲の懐へ潜り込むと、下から突き上げるようにアイギスを振り上げた。
ズドォォォォンッ!!
『バカな……一撃……!?』
少女の一撃は、帝国兵の機甲を右脚から肩口まで一直線に両断していた。
爆炎を上げて崩れ去る帝国機甲。
残る二機の帝国兵は、恐怖に慄きながら後退する。
『化け物め……!!早く伝えろ!!王国の最新鋭機起動!!』
『信じられん……補助バッテリーもなしであれほどのエネルギーを!!』
煙を吹くアイギスを肩に担ぎ、彼女に向けて叫んだ。
「よっし!!俺らもさっさと逃げよう!!!」




