二つの銀
白銀機甲の調律を終えた俺たち護送部隊は、王都手前の最大の難所――『ゲオルグ峡谷』へと差し掛かっていた。
両脇に切り立つ赤茶色の断崖絶壁。狭い一本道を大型装甲キャリアーが慎重に進んでいく。
「ここを抜ければ、いよいよ王都ですわ。全機、警戒を怠らないように――」
先頭を進むセシリア隊長の通信が入った、その直後だった。
――ビシュッ、ドゴォォォォンッ!!
峡谷の崖上から放たれた高出力の魔導狙撃弾が、キャリアーの眼前を吹き飛ばし、巨大な土煙を巻き上げた。
『敵襲ぅぅッ! 崖上、帝国の狙撃型!』
『数が多すぎる! 伏兵か!?』
断崖の頂上付近から、黒塗りの帝国機甲が四機、狙撃銃を構えて陣形を敷いていた。
先日のヴァルター隊の残党が、王都手前で退路を断つべく待ち伏せしていたのだ。
「総員、散開! キャリアーを死守なさい!」
セシリア隊長が白銀機甲を駆り、タワーシールドを展開して雨あられと降り注ぐ魔導弾を弾く。
だが、高所からの十字砲火は圧倒的に不利だ。
崖上からの激しい撃ち下ろしに、護衛の王国機甲が次々と装甲を削られ、防戦一方に追い込まれていく。
『くっ……! 崖が高すぎて、こちらの射撃が届きませんわ……!』
「右上の三番機が主砲チャージに入ってる! 狙いは隊長さんだ!」
トラックの屋根に駆け上がった俺は、叫びながらアイギスの布カバーを一気に引き剥がした。
「レオナちゃん、まさかまた生身で……!?」
「大丈夫、派手な大技は使わないよ。……ちょっと高いとこまで跳ぶだけさ!」
ドクンッ、と魔力をアイギスへ直結。
俺は身の丈一メートル半の鉄塊を両手で構えると、排熱フィンを全開にして地面へ向けた。
「隊長さん! 頭上におじゃまします!」
『えっ……ちょ、何を――!?』
ドンッ!!!!
アイギスの放熱ブラストを地面に叩きつけて大跳躍。
そのまま空中で身を翻し、セシリア機のタワーシールドの天面を足場にして、さらに高く、天高くへと跳び上がった。
『なっ……生身で跳躍高度三十メートルですの!?』
セシリア隊長の驚愕の声を置き去りにし、俺は一気に断崖の高さまで到達する。
狙撃姿勢を取っていた帝国の機甲兵が、目の前に飛び出してきた銀髪の少女を見てギョッと目を見開いた。
『な、なんだこのガキはぁぁっ!?』
「よぉ、特等席から撃ち下ろす気分はどうだい?」
空中でアイギスを一閃。
高密度魔力を纏わせた鉄塊の平打ちが、狙撃銃のロングバレルを根元からへし折る!
バキィィィンッ!
『ぐわあっ!?』
「隊長さん! 今だ!」
『――言われずともっ!!』
俺が狙撃手を無力化し、陣形に穴を開けたその一瞬の隙。
地上で構えていたセシリア隊長の白銀機甲が、先ほど俺がチューニングした右脚を力強く踏み抜いた。
ラグの一切ない超加速。
ブーストを吹かして崖壁を垂直に駆け上がってきたセシリア機が、魔導サーベルを一気に抜き放つ。
『よくも私を上から見下ろして!!……あの世で猛省なさい!!』
閃光のような白銀の斬撃が、残る狙撃機甲二機を一瞬で切り裂いた。
ドゴォォォォンッ!!
爆炎が吹き荒れる中、俺はセシリア機の肩口にフワリと着地。
アイギスを肩に担ぎながら、コックピットのカメラアイに向けて親指を立てて見せた。
「右脚、いい感じでしょ?」
コックピットから聞こえてきたのは、息を呑む気配と、それから小さく吹き出すような声だった。
『……まあまあですわね。……感謝はいたしますわ』
峡谷を抜ける風が、立ち込める黒煙を吹き飛ばしていく。
崖の下では、カリンと護衛兵たちが歓声を上げていた。




