美少女(中身はおっさん)の仕事
「ちょっ、ちょっと何をする気ですの!? 勝手に触らないでくださ――」
慌てて止めに入ろうとするセシリアの声を背中に受け流し、俺は白銀機甲の右足首の下に潜り込んだ。
金属の焼けたツンとする臭い。シリンダーの熱膨張で、ボルト周りがギチギチに噛み合って固着している。
「専用のプレス機なんて待ってられないよ」
俺は借りた導線コードを素早く三つ編みに撚り合わせると、シリンダーの魔力循環パイプと冷却弁の間に直接バイパスとして噛ませた。
「おいおいお嬢ちゃん、そんな無理やりな配線したら魔力がショートして――」
「ショートさせるの」
「は……?」
主任整備兵が目を白黒させる。
俺は片手でコードの端を握ると、体内の魔力を指先からピンポイントで流し込んだ。
(一瞬だけ……冷却ラインを逆流させて、融着面の内側だけを急速冷却……!)
パチッ、と青白い火花が散った瞬間、金属の収縮する「ピシッ」という微細な亀裂音が響く。
「今だ!」
俺は間髪入れずに3号ハンマーを振りかぶり、シリンダーの支点を正確無比に引っぱたいた。
――カーンッ!!
甲高い金属音が響き渡り、さっきまでびくともしなかった焼き付きボルトが、ゴトリと音を立てて外れた。
「「なっ……!?」」
セシリアと整備兵の悲鳴のような声が重なる。
俺は素早く固着したスリーブを抜き取り、レンチで内部の減衰弁のダイヤルをカチカチと三段階緩めた。
(……セシリアの操縦、さっきから見てたけど踏み込みのタメが長いんだよな。騎士特有の踏み込み重視スタイルだ。なら、カタログスペックの規定値より、初期応答の逃がしを大きく取った方がいい)
「はい、バイパスを本線に繋ぎ直して……減衰圧をセシリア仕様にリマップ。これでよし!」
カチャリと手際よく装甲カバーを戻し、俺は膝の埃をパンパンと払いながら立ち上がった。
作業時間、わずか三分足らず。
「ほら、隊長さん。コックピット乗って右足踏んでみな」
「え……え? あ、あの……本当に直ったのですの……?」
半信半疑のまま、おずおずとタラップを駆け上がっていくセシリア。
コックピットハッチが閉まり、白銀機甲の魔導エンジンが再始動する。
フォォォォン……と澄んだハミング音が響き、機体の右脚がゆっくりと持ち上がった。
そして――。
ダンッ!!
鋭く大地を踏み抜いた瞬間、白銀機甲はまるで最初から不具合などなかったかのように、驚くほど滑らかにステップを踏んでみせた。
それどころか、以前よりも機体の追従性が跳ね上がり、動作のラグが完全に消えている。
『な……何ですの、この軽さは……!? 私の足の動きに、機体が吸い付くように反応しますわ……!?』
スピーカー越しに、セシリアの驚愕に満ちた絶叫が響き渡る。
「カタログの標準値なんてのは、運転手の平均的な数値で作られてるからね。乗り手の癖に合わせて現場で合わせてやるのが、整備士の仕事ってね」
俺はレンチを整備のおじさんにヒョイと投げ返した。
おじさんは口をあんぐりと開けたまま、手の中のレンチと俺を交互に見つめて固まっている。
タラップから降りてきたセシリアは、真っ赤な顔で胸元を押さえながら、信じられないものを見る目で俺を凝視していた。
「あ、あなた……本当に何者ですの……? 王立魔導工廠の主席技師でも、こんな即興の現場調律など……」
「だから、ただの通りすがりの美少女だよ」
俺がニヤリと笑うと、セシリアは言葉に詰まり、悔しそうにツンとそっぽを向いた。
「……ふ、ふん! 礼くらいは言ってあげますけれど……調子に乗らないでくださいまし!」
耳まで真っ赤にしながらそっぽを向くセシリア。
その様子を後ろで見ていたカリンが、クスクスと楽しそうに笑っていた。




