護送行軍
ゴウン、ゴウン、と重低音を響かせながら、ユーベル王国軍の大型装甲キャリアーが王都へと続く舗装街道を突き進んでいた。
キャリアーの広大な後部デッキには、カリンの整備トラックと、厳重に布を被せられた『アイギス』。そして、周囲を警戒するように白銀の機甲部隊が陣形を組んで走行している。
「ふぅ……なんとか前線基地は脱出できたわね」
トラックの荷台でアイギスの状態チェックを終えたカリンが、汗を拭いながら俺の隣に腰を下ろした。
「王都までは、このキャリアーでまる一日ってとこ?」
「ええ。途中のゲオルグ峡谷さえ抜ければ、もう王都の防衛圏内よ。……でも、王都に着いてからが本当の戦いかもしれないわ」
カリンはどこか憂鬱そうにため息をついた。
「王都の『魔導技術局』はね、名門貴族出身の理論派学者たちが牛耳っているの。彼らは机上の計算式と血統の魔力量ばかりを重視して、私たち現場の整備士や前線兵士の意見なんて鼻で笑うような連中ばかりよ」
「あー……どこの世界にもいるんだねぇ、現場を知らない頭でっかちの上層部ってやつは」
前世のブラック企業や理不尽な元請けの顔が脳裏をよぎり、俺は苦笑いを浮かべた。
「アイギスが『欠陥兵器』として前線に回されたのも、彼らの机上の理論じゃ制御不能だったからよ。それを生身の平民の少女が扱ったなんて知れたら……相当な反発や政治的な横槍が入るはずだわ」
「へっ、机の上でしか機械を触れない連中に何言われたって痛くも痒くもないね。」
俺が不敵に笑っていると――。
ギギギ……キィィィィィンッ!
突如、キャリアーのすぐ右前方から、金属が激しく擦れ合う耳障りな異音が響いた。
先頭を走っていたセシリアの白銀機甲が、ガクンと大きく体勢を崩したのだ。
『きゃあっ!?』
通信機からセシリアの短い悲鳴が上がる。
白銀機甲は右脚を引きずるようにして緊急停止し、それに伴ってキャリアーと護衛部隊全体が急ブレーキをかけた。
「な、何事ですの!?」
「隊長機が停止したぞ! 周囲を警戒せよ!」
慌ただしく展開する護衛兵たち。
俺とカリンがトラックから飛び降りて駆けつけると、セシリアがコックピットから顔を真っ青にして降りてきたところだった。
「み、右脚のフットペダルが急にロックして……魔力の循環圧が完全に遮断されましたわ……!」
「ほら見ろ、言ったこっちゃない」
俺は腕を組んで、白銀機甲の右脚の関節部を指差した。
装甲の隙間から、シューッと焼けたオイルの白煙が立ち上っている。
「前線基地で言ったろ? 熱暴走して、シリンダーの魔力ダンパーが焼き付いたんだよ」
「くっ……! ぐ、偶然ですわ! たまたま部品の初期不良が重なっただけです!」
悔しそうに顔を真っ赤にするセシリア。
そこへ、部隊専属の主任整備兵が慌てて工具箱を持って駆け寄ってきた。
「隊長、すぐに応急処置を……!!」
「こ、これは……アルスハイム家特注の高密度魔導シリンダーが熱融着を起こしています! 王都の本部工場にある専用の魔導プレス機がなければ、現場の工具じゃ分解すらできません!」
「そ、そんな……! 予備の機体もないのに、ここで足止めを食らうというのですか!?」
ここはまだ前線と王都の中間地点。オルクス帝国の別動隊がいつ奇襲を仕掛けてきてもおかしくない危険地帯だ。
セシリアが絶望に目を見開く。
そんな彼女の姿を見て、俺は小さく息を吐いた。
「……ねえ、整備のおじさん」
「え? どうしたんだい、お嬢ちゃん?」
「ちょっとそこのレンチと『魔力バイパス用の導線コード』、それと3号ハンマーかーして!」
俺は整備兵の手から工具をひったくると、白銀機甲の焼き付いた右脚シリンダーへ向けてスタスタと歩き出した。




