決意
鼻をくすぐる、消毒液とわずかなオイルの匂い。
ゆっくりと瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは粗削りな木の梁が組まれた見知らぬ天井だった。
(……ここは?)
身体を起こそうとするが、全身に鈍い痛みが走り、「いっ……」と呻き声が漏れる。
骨折こそ免れたものの、魔力の過圧放出による筋肉痛と倦怠感が半端ではない。
「……ん……レオナちゃん……?」
微かな声に横を向くと、ベッド脇のパイプ椅子に突っ伏していたカリンが、目をこすりながら顔を上げた。
白衣はシワだらけで、目の下にはくっきりと隈ができている。ずっと付き添っていてくれたのだろう。
「……カリンさん」
「レオナちゃん!!」
次の瞬間、勢いよくベッドに飛び込んできたカリンに抱きしめられた。
「うぐっ!? 傷口に響くって……!」
「よかった……本当に目を覚ましてよかった……! 二日間も眠ったままだったのよ!?」
「二日も!?」
慌てて周囲を見回す。
機能的に並べられた医療機器と、分厚い天幕。
「ここはユーベル王国軍の東部前線駐屯地よ。あなたの身体、軍医に診てもらったけれど……魔力回路に異常な負荷がかかっただけで、命に別状はないって」
「そうか……アイギスは?」
「格納庫で厳重に保管されているわ。……あのヴァルター少佐の機甲を叩き折った大剣として、駐屯地の整備兵たちが騒然としてるけれどね」
カリンは苦笑しつつも、すぐに真剣な表情へと戻った。
「ドムレミ村のこと、軍の偵察部隊に調べてもらったわ」
「……どうだった」
「村人は誰一人見つからなかった。でも、間違いなく全員が生きたまま帝国の後方拠点へ移送された痕跡があったわ。エレナさんも……きっと無事よ」
その言葉を聞いて、胸の奥につかえていた重い塊がすっと軽くなるのを感じた。
「そうか……生きてるんだな」
「ええ。でも、今の前線戦力だけじゃ帝国の防衛線を破って救出に向かうのは不可能なの」
カリンは俺の目をまっすぐに見つめた。
「駐屯地の司令官が、あなたの報告を王都の本部に上げたわ。『外骨格なしでアイギスと同期し、敵の指揮官機を大破させた謎の銀髪少女』――上層部は蜂の巣をつついたような騒ぎよ。すでに王都への特別移送が決まったわ」
「王都へ……」
「ええ。王都の最高研究機関でアイギスの本格的な調整と、あなたの『力』の解析を行うことになるはず。……長い闘いになるわよ。それでも、ついてきてくれる?」
俺は痛む身体を無理やり起こし、ベッドから足を下ろした。
自分の小さな白い手のひらをグッと握り締める。
母さんを助け出す。
そのためなら、王国の軍だろうが最新兵器だろうが、全部利用してやる。
「当たり前だろ」
俺はカリンに向かって、不敵にニヤリと笑ってみせた。
「1回死んでるんだ。もうこれ以上の無茶なんかないさ!」




