第31話 爆破しよう、そうしよう
「し、証拠はあるのか! お前らが領主だの、領主代行だのという証拠は!」
防衛隊長が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。
うん、確かに俺たちの身分を証明するものは何一つ無い。
「俺たちの身分を証明できる証拠は無いな。だが、後で分かるだろ。お前たちをルーファウス殿下に差し出せば」
その言葉を聞き、縛られた兵士たち全員の表情が青ざめていく。
だが、焦りを見せていた防衛隊長は怯むことなく吠え続けた。
「小癪な……! だが、ここには直に帝国軍が来る! 我らを差し出す余裕などないぞ、観念するのだな! はあーはっはっは!」
「へえ? やはり帝国軍が来ること、知っているんだな?」
「あっ!? ぐっ……!」
高笑いを上げていた防衛隊長が、はっとしたように口をつぐむ。
焦れば焦るほど、いらない事を口に出してしまうタイプらしい。
防衛隊長は俺を睨みつけながら言葉を続けた。
「お前らが誰だかは知らんが、終わりには変わらん。我らの縄をすぐに解け。命だけは助けてやる」
「おいおい、随分と余裕そうだな。どの口が言うんだよ」
「ふん。どちらにせよ、お前ら二人では帝国軍に適わんだろうが!」
威勢を失わない防衛隊長。気骨はあるようだが、その方向性が問題だ。
これがちゃんと国家防衛のために使われていれば良かったのにな。
「フェルレイド隊長! 設置が完了いたしました!」
背後から、オルドの大きな声が響いた。
「ああ、終わったか。ご苦労さん」
「こちらが導火線になります!」
オルドから紐を受け取る。
この紐には火薬がたっぷりと練り込まれている。黒い粉の独特な匂いが鼻を突いた。
紐の先は、川に架かった立派な橋の上へと続いている。
兵士達が、導火線の先を呆然と見つめていた。
「な、なんだアレは!?」
防衛隊長が叫ぶ。
「花火でも打ち上げようと思ってね。倉庫にあった物騒なモンを使わせてもらうぜ」
オルドが設置していたのは、樽に入っていた大量の爆薬。
それを橋の上の一定間隔に配置してもらったのだ。
俺たちは気絶した兵士達を縄で縛った後、この待機所の倉庫の中身を確認していた。
倉庫の扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていたのだ。
中には、樽に入った大量の火薬が山積みになっていた。
火薬だけではない。
保存食の入った木箱や真新しい武器、馬の飼葉まで、防衛隊の50人が使うには余りに多いほどの備蓄が詰め込まれていた。
倉庫に入った瞬間、すぐに理解した。ここが帝国軍のための補給基地であることに。
帝国軍が、なぜあれほど凄まじい速度で進軍できていたのか。
その理由が、これでやっと分かった。
一定距離にこういった補給所をあらかじめ用意し、余計な荷物を持たずに身軽な状態で進軍していたのだ。
だから俺は帝国軍の進軍を物理的に止めるため、オルドに火薬爆弾を橋に設置してもらったってわけだ。
「や、やめろ! そんな事をしたら……!」
「そんな事をしたら、どうなるんだ?」
「……くっ!」
帝国軍が進軍できなくなってしまう、という言葉までは決して言わない防衛隊長。
ここまでやっておいて保身をするというのは、さすがに遅すぎると思うが。
「まあいい。オルド、松明をくれ」
「はっ! こちらに!」
オルドから松明を受け取る。
火の熱気が顔に近づき、チリチリとした熱を感じた。
「お、おい! やめろ!」
防衛隊長が叫ぶが、俺はその火を迷わず導火線に着けた。
ボシュッ!と勢いよく火薬に火がつき、赤い火花が橋へと走っていく。
シューっという火が燃え進む音が、次第に遠ざかる。
やがて、火が最初の樽爆弾へと到着した。
——ドオォォォォン!
最初の火薬が爆発し、凄まじい轟音が響く。
足元の地面が直接突き上げられる感覚を伴って大きく揺れた。
——ドォン! ドォン! ドォン!
——ドドドドドン!!!
次々と設置された爆弾が破裂していく。
爆風が巻き起こり、熱風と土煙がこちらの顔にまで吹き付けてくる。
やがて橋を支えていた太い支柱も折れ、橋全体がバキバキと凄まじい音を立てて倒壊し、川の中へ崩れ落ちていった。
「これは盛大ですなぁ!」
「ああ。だが、あれほどの立派な橋を壊すのも気が引けるな。作るだけでも相当の日数が掛かったろうに」
オルドは腕を組み、満足そうに盛大な花火に魅入っている。
だが縛られた兵士たちは、橋が消え去った光景をただ唖然と見つめていた。
さて、次だ。
これで安心して終われるわけではない。
「オルド。じゃあ計画通り、馬を数頭連れて行って応援を連れて来てくれ」
「承知しましたが……本当にフェルレイド隊長を一人残してもよろしいので?」
「ああ、大丈夫さ。こっちの事は任せておけ」
さすがに二人で兵士50人を連行するのは不可能だ。
だから、軍の方から直接迎えに来て貰う事にした。
それに、この場所にルーファウス殿下の兵士を配備する事にも大きな意味がある。
帝国軍を止めるには、ここが恰好の防衛拠点となるからだ。
俺はオルドを見送り、崩れ落ちた橋の対岸を見ていた。
距離的には30メートルほど。橋はすでに破壊済みなので、こちらに渡って来れる方法は無い。
だが、決して安心してはいけない。
帝国軍が、どんな兵器を持っているのか。どんな実力者が来ているのか。そもそも何人いるのか。
川の流れる音が静かに響く中、俺と帝国軍の戦いが始まった。




