第28話 オルドと偵察
申し訳ございません! 下記は28話ですが、30話を先に公開してしまっていました。
いったん30話を削除し、28話を投稿させて頂きます。(感想で教えて頂きありがとうございます)
オルドから帝国軍進軍の報告を受けた俺たちは居間に集まり、今後の方針について話し合っていた。
「しかし情報が少なすぎるな。帝国軍が北から来ている、というだけじゃ俺たちも動きようがないぞ」
テーブルの上には簡素な地図が広げられているが、それを見たところで敵の正確な位置が分かるわけでもない。
トラーグ砦のように敵がどこから来るのかが分かっている状態であれば別だが、敵の規模も進軍ルートも不明なままでは迎え撃つにしても罠を張るにしても手の打ちようがないのだ。
「フェルレイド隊長のおっしゃる通りです……ですが、実は『良い場所』がございます!」
オルドが自信ありげに胸を張った。
「良い場所?」
「はい! グレイウルフ領とモノネリ領の境目にある北の山、あそこからなら遠く帝国が来るであろう方面の道が見渡せるのです。大軍勢であれば、距離があっても土煙で分かるはずでしょう!」
オルドの言葉に、俺は地図上の北の山脈へと視線を落とした。
確かにこの位置なら、北の平野部まで見渡せるはずだ。
「なるほどな。よし、オルド。今から俺と二人で偵察に行くぞ。準備をしてくれ」
「お、拙者もですか!? い、いえ、もちろん喜んでお供いたしますぞ!」
大声で上ずりながらも、オルドが力強く頷いた。
俺はテーブルの向かいに座る、セシルとルーアへ視線を向けた。
「セシル、ルーア。俺とオルドで少し北の山まで様子を見に行ってくる。留守の間、グルルとイピカの事を頼めるか」
「わかった。任されよう」
ルーアは短く答え、静かに頷く。多くは語らないが、その落ち着いた声には確かな安心感がある。
ルーアがいれば、逃げる事に対して万全だろう。
「フェル……」
対照的に、セシルが不安そうな顔で俺の袖をきゅっと掴んできた。
小さな手から、セシルの緊張が伝わってくる。
「帝国軍って、フェルたちがずっと戦ってた相手なんでしょ?」
「ああ。だが今回は戦いに行くわけじゃない。敵の数と位置を確認しに行くだけだ。心配はいらないよ」
「絶対、無茶しないでね? フェルなら大丈夫だってわかってるけど……それでも、やっぱり心配だから……」
セシルの青い瞳が、不安げに俺を見つめている。
トラーグ砦での過酷な話を聞かせすぎたかもしれないな。
俺はセシルを安心させるため、努めて明るい声を出した。
「わかった、わかった。怪我一つしないでちゃんと帰ってくる。約束するよ」
俺がそう断言すると、セシルのこわばっていた頬がようやく緩む。
「約束、破ったら承知しないからね」
「今までセシルとの約束を破ったことなんて、一度もないだろ?」
「それはそうだけど……!」
言い返せなくなったセシルの頭を、俺は軽く撫でた。
さらさらとした金髪の柔らかい感触が手に伝わる。
「それじゃあ、行ってくる。留守番、頼んだぞ」
「うん! 絶対に気をつけてね! 行ってらっしゃい!」
——————
俺とオルドは馬に跨り、オルドの案内で北の山を目指した。
しかし、その道は街道とは呼べないほど険しかった。
岩がゴツゴツと転がる荒れた斜面を、馬が荒い息を吐きながら一歩ずつ登っていく。
ひんやりとした山の空気が肌を刺し、周囲には鬱蒼とした木々が立ち並んでいる。
「オルド、この道は一体どこで覚えたんだ?」
「若い頃、この山で修行として彷徨っておりましてな! まさかこんな所で役に立つとは、拙者も驚きですぞ!」
先に進むオルドが、馬の上で豪快に笑い声を上げた。
岩がゴツゴツと転がる荒れた山道を、馬は苦労しながら進んでいく。
道中は長く、とても一日で着くような距離ではない。
夜になれば簡易なテントを張り、交代で見張りをしながら眠る。
そんな行程を、三日間ほど繰り返した。
「フェルレイド隊長、そろそろですぞ。あの尾根を越えれば、北の地が一望できるはずです!」
三日目の昼過ぎ、俺たちはようやく目的の場所へと辿り着いた。
冷たい強風が吹き抜ける尾根から眼下に広がる景色を見下ろした瞬間、隣のオルドが短く息を飲んだ。
「あ、あれは……!?」
オルドの驚愕の声に、俺も思わず言葉を失う。
遥か遠く、森と平野の境目あたりに、黒い影の集団が密集して蠢いている。
無数の兵士たちが足並みを揃えて進むことで、巨大な土煙が空高く巻き上がっているのだろう。
間違いない。あれは帝国の軍勢だ。
帝国の軍勢は、すでにモノネリ領へと侵入していた。




