第23話 ボロぞうきん?
俺はセシルと一緒に、再びオウデーンの街へ訪れた。
目的は、新たな領民のスカウトだ。
……というか、そもそも領民ってスカウトして集めるものなのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。
しかし、何もない僻地のグレイウルフ領で指をくわえて待っていても、勝手に人がやってくるとは思えない。
ひとまず『火起こしが得意でグレイウルフ領に住みたい』という奇特な人間がいないか探すことにしたのだ。
「ねぇフェル。あの建物が冒険者ギルド?」
石造りの大きな建物を指さし、セシルが目を輝かせる。
「ああ、そうだ。以前、俺たちのヴァルガノスの素材を剥ぎ取る手伝いをしてもらった冒険者たちもたくさん居るはずだから、顔見知りも多いんじゃないかな」
そう。グレイウルフ領にいた大型魔獣のヴァルガノスを討伐した際、俺たちだけでは手が回らず、この街の冒険者たちに素材の運搬や剥ぎ取りを頼んだ経緯がある。俺たちの住居を建てる際にも力を貸してもらい、何かと世話になっていた。だが、この冒険者ギルドの建物の中に足を踏み入れるのは、俺もセシルも今日が初めてだ。
少し気がかりなのは、セシルが冒険者たちから絶大な人気を集めている点だ。
明るく誰とでも打ち解けるセシルは、荒くれ者の多い冒険者にとって癒される存在なのだろう。その気持ち自体は俺にもよく分かる。
変な厄介事に巻き込まれなければいいのだが……
そんな事を考えていると、セシルはウキウキしながら冒険者ギルドの扉を開けて入っていってしまった。俺も慌てて後に続いた。
ギルドの中は酒場とギルドの受付カウンターが併設されている、ごくありふれた冒険者ギルドの構造だ。
酒場からは、木製のジョッキを打ち合わせる音や騒がしい笑い声が響いていた。
安酒と香ばしい肉の匂い、昔自分が冒険者として各地を飛び回っていた頃の記憶が蘇り、懐かしさを感じる。
いや、懐かしがっている場合じゃ無いな。今日は目的は領民のスカウトだ。
気持ちを切り替え、セシルの隣に並んで受付カウンターへと向かった。
「いらっしゃいませー! 冒険者ギルドに何かご用でしょうか?」
カウンターに立つ受付の少女が、明るい笑顔で声をかけてきた。
「ああ、実はその……スカウトをしたくてね。火起こしが得意な冒険者を探しているんだけど、誰か心当たりはないかな?」
「火起こし、ですか……?」
受付の少女は、困惑したように眉をひそめた。
俺だって自分で何を言っているのか分からなくなってくる。だが、こう尋ねるしかないんだから仕方がない。
「冒険者の方なら皆さん、一通り火起こしはこなせると思いますが……そういう意味ではありませんよね?」
「そうなんだ。日常的に火起こしが得意な人が望ましいんだけど」
「うーん……申し訳ありません、私にはちょっと分かりかねますね。すみません」
「そうか。変な事を聞いたね、無理を言ってすまなかった。ありがとう」
やはり、そうだよな。やっぱりそう簡単にはいかないらしい。
人手に頼らないとすれば、火起こしを簡単にする道具を揃えるべきかもしれないな……
現状は火打石を使っているが、火種を作ること以上に、燃やしやすい資材を揃える手間のほうが大きい。
資材の質に左右されずに着火させるには、強い火力が必要だ。
手軽に強い火力を出せる道具なんて、何があるだろうか?
そんなことを考えていた時、ふと隣の気配が消えていることに気づいた。
「あれ、セシル?」
周囲を見渡すと、セシルはギルドの壁に設置された大きな掲示板の前に立っていた。
ぎっしりと貼り出された依頼書を、興味深そうに眺めている。
確かに、あの依頼表は面白いものがたくさんある。
見たこともない素材の採取依頼や、魔獣の似顔絵が描かれた討伐依頼、ひときわ目を引く高額報酬の紙片など、眺めているだけでも飽きない。
「セシル、何か気になる依頼でもあったのかい?」
「うーん。火起こしに役立つ依頼や情報がないかなと思って探してみたんだけど……」
まあ、無いだろうな……
『火起こしが得意です』なんて張り紙を出している冒険者なんて見たことがない。
「セシル、次は道具屋に行ってみないか? 何か役に立つ道具が見つかるかもしれないからね」
「道具屋!? 行く行く! ……って、うわぁ!?」
「大丈夫か!?」
セシルがこちらに駆け寄ろうとした瞬間、足をとられて大きく体勢を崩した。
俺は咄嗟に手を伸ばし、転びかけたセシルの体を両腕でしっかりと受け止める。
「あ、ありがとうフェル……!」
「怪我はないか? 一体、何に引っかかったんだ?」
俺は視線を下げて、セシルの足元を確認した。
床の上には、使い古された大きな雑巾のような布切れが転がっている。
「なんだ、これは?」
首をかしげつつ、その汚れた布の端をつまみ上げてみた。
「うわっ!?」
思わず声を上げてしまった。
なんと、雑巾だと思ったものに、小さな顔があったのだ。
いや正確に言うと、大きな雑巾に見えたのは、ボロボロになったローブを着た子どもだった。
「おい、大丈夫か!? どうしてこんな場所で倒れているんだ!?」
「うっ……お……」
「……お?」
「お……なか……すい……た……」
「……お腹が空いているのか?」
「は、はい……」
ボロボロのローブを着た子供は、しおしおになった表情でそう応えた。




