第21話 さすが領主
「あの魔獣の素材の事です! まさかオウデーンに戻ってきたら、街はお祭り騒ぎ。さらには商業において民全員が恩恵を受けているのです。いったい何事かと聞いてみれば、フェルレイド殿が討伐した魔獣だというではないですか! 代表して、私からお礼を言わせていただきたい」
あ、ヴァルガノスの素材の件か。
俺は照れくさくなり、頭をかきながら返答する。
「いやいやいや、俺の方こそオウデーンの街の皆さんに協力いただいたので大助かりでしたよ。おかげでグレイウルフ領に家も建ちましたし、なんとか生活できています」
俺とオルドは、これまでの経緯を順番に話していった。
オルドから先にベルグラン卿へある程度の説明はしていたようだが、念のため詳細を共有しておく事にしたのだ。
俺がヴァルガノスを討伐した事。
ヴァルガノスの素材を解体して採取するために、街のみんなに多大な協力をしてもらったこと。
素材の売買で得た資金でグレイウルフ領に家を立てられた事。
そして、グレイウルフ領がヴァルガノスによって汚染されていたものの、今はもう汚染の心配は無い事。
俺の言葉をじっくりと聞くベルグラン卿は、驚きを隠せない様子で何度も「す、すごいですな……」と呟いていた。
説明を終えると、ベルグラン卿はしばらく両目を閉じて、頭の中の情報を整理しているようだ。
「なるほど……まさか留守中に、そんな事があったとは……」
「ええ、まあこれで何とか私の方も領主として仕事が出来そうです。といっても、具体的に何をすればいいのかも分かっていませんが」
「あっ! その事です! まずは、この辞令を受け取っていただきたい」
ベルグラン卿が先ほどの羊皮紙をテーブルの上へ差し出した。
第一王子ルーファウスの認可印が押されている、俺がグレイウルフ領の領主としての新たな辞令だ。
手触りの良い上質な紙面には、はっきりと俺の名前が記されている。
「これはいったい、どういう事なのですか? 失礼ですが、この第一王子ルーファウス殿下の認可印は本物でしょうか?」
「ええ、本物です! ルーファウス殿下より正式に承って参りました。なぜかルーファウス殿下の土地が、第二王子の認可印で赴任されているという事実を王都で伝えたのです。すると、何か良からぬ事をされる前に正式にルーファウス殿下より認可してしまえば、第二王子から余計な手出しをされないだろうという結論に至りまして。私が代わりに受け取ってきた次第なのです!」
おお、なんという判断の早さだ。
俺はその羊皮紙を大切に受け取った。
「今回の件、俺はベルグラン卿に助けられたという事ですね。ありがとうございました。本当に助かりました」
「いえいえ、元はオルドを助けて頂き、今回は街まで救っていただいたのです。私も隣人の領主として、フェルレイド殿には助けていただいてばかりですから」
そういって、ベルグラン卿はにこやかに笑う。
第二王子の使いに気迫を飛ばしていた時とは打って変わり、温厚で優しい表情を見せていた。
「いやぁ、しかし今回の政務報告について、本当に色々な出来事がありました。どうやら王都は混乱しているようです」
「王都に何かあったのですか?」
ベルグラン卿の言葉に、セシルが身を乗り出して反応した。
やはり、かつて住んでいた王都での出来事には、何か気に掛かる事があるのだろうか。
セシルの瞳が、不安げに揺らいでいる。
「王都にも、王都以外にもありました。まず、フェルレイド殿とオルドに関係ある事なのですが……どうやらトラーグ砦が帝国の手に落ち、陥落したらしいのです」
「なんとっ! あのトラーグ砦が!?」
オルドが椅子から立ち上がり、部屋に響き渡るほどの大声を出した。
トラーグ砦とは、俺やオルドたちが5年間という長い歳月を守り抜いていた砦だ。
俺も驚いたが……交代した王都正規軍の兵士達があまりにも甘い考えを持っていたので、いつか陥落するんじゃないかとは予想していた。
だが、それにしてもあまりにも早すぎる。
そして、その陥落という情報を聞いて、俺は即座に理解した。
先ほどの第二王子の使いが持ってきた、俺への無茶苦茶な命令の内容の意図に。
「あのトラーグ砦は北方、第二王子の管轄ですよね。帝国との戦いに負けこんでいるから、戦費の補填として俺への命令が大金の納税だったり、人員の強制的な徴収だったということでしょうか」
「さすがフェルレイド殿。まさにその通りかと。もしやフェルレイド殿に何か不当な要求をされると思い、急いで帰還してきたのです。そうしたら、第二王子の印が入った馬車が街を通ったと聞き、すぐさまフェルレイド殿の元へ駆けつけたという次第なのです」
トラーグ砦が落ちたとしても、王都までの間にはまだ幾つかの関門が存在する。国がすぐに危機へ陥ることはないはずだ。
だが、砦のすぐ背後にあった近隣の村が心配だ。村人たちが無事に逃げおおせて、何事もなければいいが……
「なるほど……しかし、あの第二王子の使いはなんだったのでしょうか? 俺自身、かなり無礼な対応をしてしまったのですが、後々問題にならないでしょうか」
「ええ、それは大丈夫です。奴は貴族でもなく、第二王子の名前を盾に無礼な振る舞いをするだけの輩ですからな。ああいう手合いは多いのです。それに、無礼打ちにするよりも、なんの成果もなく手ぶらで帰還する方が社会的な死が待っておりますからな。心配ご無用です」
おお、ベルグラン卿はそこまで計算してあえて強気な態度に出ていたのか……
さすが領主だ。




