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第20話 逆賊は許さぬ



「な、なんだ貴様は!? 吾輩が誰か知っての狼藉か!」


 第二王子の使いと名乗る男が、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 唾を飛ばさんばかりの剣幕だが、ベルグラン卿は冷たい視線を全く崩さない。むしろ無言の圧力が増していく。じりじりと、第二王子の使いが後ずさりを始めた。


 男の額には脂汗が滲んでいる。無理に虚勢を張っているのが丸わかりだ。

 

「私は第一王子ルーファウス殿下より正式に承っている、このグレイウルフ領の隣地であるモノネリ領の領主、ベルグラン・モノネリ伯爵だ」

「は、伯爵だとっ!? な、なんで隣の領地の領主がここにいるのだ! これはあくまで第二王子のシドニス殿下の采配の話し。貴殿には関係の無い話しだ!」

「関係が無いだと? これを見ても、そう言えるか?」


 ベルグラン卿が懐(ふところ)から丸まった羊皮紙を取り出し、ばさりと音を立てて広げた。


 あれは見た事があるな。

 俺がこのグレイウルフ領を統治しろという辞令が書かれていた紙にそっくりだ。


 俺は首を傾げながら、ベルグラン卿の持っている紙をじっくりと見つめた。

 

 ……あれ?

 あれは俺のグレイウルフ領の辞令、そのものじゃないか!?

 

 グレイウルフ領の名前と、フェルレイドという俺の名前までしっかりと書き込まれている。

 いったい、どういうことだろうか。

 

 俺は目を凝らしてさらに文字を追う。すると、1点だけ明らかな違いを見つけた。

 

 それは、『認可印』だ。

 俺の辞令に押されていた認可印とは、紋様の形が違う。


 俺が疑問に思っていると、ベルグラン卿が静かに口を開いた。


「これはフェルレイド殿がグレイウルフ領を正式に統治するという辞令だ。そして、この認可印こそ、第一王子ルーファウス殿下より承りしもの。フェルレイド殿が管轄外のシドニス殿下の命令を聞く必要は無い!」

「な、なにぃ!? これは……!?」

「元より、この地はルーファウス殿下の納める土地。何か文句があるか? シドニス殿下の使いよ」

「ぐぬっ!」


 ギリギリと歯ぎしりする音が、第二王子の使いの口元から漏れる。


 それにしても、ベルグラン卿はどこからあの辞令を手に入れてきたのだろうか。

 だが、とりあえず、そんな疑問は後回しでいい。

 

 第二王子の管轄じゃないということは、あんな無茶苦茶な横暴の命令を俺が聞かなくていいということになる。

 心がふっと軽くなるのを感じていると、ベルグラン卿がさらに声を張り上げた。


「ここは第一王子殿下の直轄地だ。その地で正当な理由なく法を捻じ曲げ、その領主を侮辱することは、第一王子殿下への明確な反逆だ! たとえ第二王子の使いであっても、王家の法を乱す逆賊は許さぬ! これ以上、邪魔立てすれば斬り捨てるぞ!」

 

 ベルグラン卿の怒気に満ちた言葉に、第二王子の使いはすっかり怯えきり、目を泳がせている。

 さらに、ベルグラン卿の後ろではオルドが腰の剣に手をかけ、いつでも抜ける体勢で凄みを聞かせていた。

 

「ふ、ふん! 覚えていろ!」


 負け犬の捨て台詞を叫び、第二王子の使いは顔面を蒼白にして馬車へと駆け込んでいった。

 御者が慌てて鞭を打ち、馬車はドタドタと激しい土煙を上げながら慌ただしく去っていく。

 

 俺はただ茫然と、土埃が流れていくのを見送っていた。

 

 なんだったんだ、あいつは……?


「フェルレイド殿。間に合って良かったです」

「ベルグラン卿。助かりました。しかし、どうしてその書状を?」

「はい。この件についてですが……一度、私の屋敷にて話しをさせていただいても良いでしょうか? 今回の政務報告において、色々な事が起こっておりまして……」


 先ほどの堂々とした態度から一転し、ベルグラン卿はひどく困り果てた顔をしていた。

 


 ——————


 ベルグラン卿の屋敷の応接室。


 俺はソファに腰を下ろし、出された温かい紅茶をひとくち飲んだ。

 豊かな茶葉の香りに、張り詰めていた緊張が少しだけ解けていく。

 

 隣では、セシルも同じように紅茶を口に運び、再びカチャリと小さな音を立ててソーサーに戻す。


「いやはや、急にお呼び立てして申し訳ない」


 向かいの席に座るベルグラン卿が、申し訳なさそうに頭を下げる。

 同じテーブルには、オルドも同席している。

 

 ルーアとグルルをこの場に連れてくるわけにはいかず、留守番してもらっている。

 今ここにいるのは俺とセシル、ベルグラン卿とオルドの四人だ。


「ベルグラン卿はお戻りになっていたのですね。オルドから、政務で遠方に行っていると聞いていたので」

「ええ。つい先ほど戻ってきたばかりです。いったいどこから話していいのか……そうだ! まず最初に、フェルレイド殿にお礼を言わせていただきたい!」

「え……お礼、ですか?」


 突然のお礼という言葉に驚き、ベルグラン卿の顔を見返した。

 ベルグラン卿に助けてもらったばかりで俺からお礼を言うことはたくさんあるが、逆にお礼を言われる事などあるのだろうか?


「あの魔獣の素材の事です! まさかオウデーンに戻ってきたら、街はお祭り騒ぎ。さらには商業において民全員が恩恵を受けているのです。いったい何事かと聞いてみれば、フェルレイド殿が討伐した魔獣だというではないですか! 代表して、私からお礼を言わせていただきたい」


 あ、ヴァルガノスの素材の件か。


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