第13話 大収穫
「このお肉、おいしいねぇ!」
グルルが口いっぱいにヴァルガノスの焼いた肉を頬張り、満足そうに言った。
香ばしい肉汁が口の端から溢れ出ている。
「やっぱりヴァルガノスの肉は格別ですなぁ!」
「ほんと、凄い美味しい! もう一個食べていいかな?」
オルドもセシルも、我先にと香ばしく焼き上がった肉に食らいついている。
自分たちの取り分を確保しようと必死な様子だ。
だが対照的に、巨狼のルーアは静かに肉を噛み締めていた。
おそらく、ヴァルガノスの解体作業で疲れたのだろう。
硬い鱗のつなぎ目であり、刃が通る隙間を正確に切り裂くことで、ようやく解体ができる。
その巨体ゆえに手間の掛かる作業だったが、ルーアの手助けがあったおかげで迅速に終えることができた。
俺とルーアでヴァルガノスの解体を進め、その間にセシルとグルルが乾いた小枝を集めて焚火を起こしてくれた
オルドには、いったんオウデーンの街まで急ぎ戻ってもらっていた。
そして今、戻ってきたというわけだ。
「お、来たようですぞ!」
オルドが遠くから来る馬車を見つめ、大声で叫ぶ。
オウデーンの街から、手の空いている商人や冒険者たちを雇って呼んでもらったのだ。
この巨大なヴァルガノスの素材と肉を運ぶために。
「よし、皆に肉を振る舞いつつ解体の続きをやろう。素材はオウデーンへ運んでもらうか」
「え、お肉なくなっちゃうの?」
セシルは肉が無くなってしまうと思ったのか、不安そうな顔で尋ねてきた。
ずいぶんとこの肉が気に入ったらしいな。
「大丈夫だよ。俺たちの分は長期保存できるように加工するつもりだ。それに、こんな大きな肉は俺たちだけじゃ食べきれないからね。いくらか売って、グレイウルフ領の再建資金に充てようと思っているんだ」
「良かったぁ。また食べられるなら安心だよ!」
「グルルも、また食べたい! ……うわぁっ!?」
肉を口に運んでいたグルルを、ルーアが背中の毛皮を優しくくわえて持ち上げ、ヒョイと背中に乗せた。
「私たちは一度、家に戻ります。また何かあれば家まで来てください」
ルーアはそう言い残すと、素早い動きで駆け出していく。
遠ざかる背中の上で、グルルが「またねぇ~!」と、楽しそうに手を振っていた。
「……行ってしまいましたな」
「ああ。馬車がやって来たから遭遇を避けたのだろう。俺たちには姿を見せてくれたが、やはり人間と不用意に関わるのを避けているんだと思う」
「でも、すごく優しそうな狼さんでしたね。グルルも、すごく良い子だし」
セシルが笑顔でルーアとグルルの去った方向を見送っていた。
しばらくすると、何台もの馬車が到着した。
降りてきた商人や冒険者たちは、目の前に横たわる巨体を目にして恐怖に顔を強張らせ、身構えている。
すでに討伐済みだと伝えても、信じられないといった様子で互いに顔を見合わせていた。
呪われた魔境に初めて踏み込み、さらにいきなり巨大な魔獣を見れば、誰だって不安になるものなのだろう。
その中の一人の冒険者が、恐る恐る俺たちへ尋ねてくる。
「この巨大な化け物を、あなたたちだけで倒したんですか?」
「いやいや! 倒したのはフェルレイド隊長、おひとりでだ!」
「ひとりで、ですか? ……いやいやいや、オルドさん、冗談が過ぎますって!」
冒険者たちが、引きつった笑い声を上げた。
だが、オルドは笑わずに真剣な眼差しを向けた。
その雰囲気に押され、冒険者たちも言葉を失う。
「……噓でしょ。こんな化け物、攻城兵器でも持ってこないと無理ですって」
未だに困惑している冒険者たちに向け、俺はポリポリと頭を掻きながら語りかけた。
「コツがあるんだ。倒し方さえ分かれば、簡単に倒せるようになるもんだよ」
「え、コツがあるんですか? 一体、どのようなものですか?」
「簡単だ。口を開いた瞬間に飛び込んで、噛み砕かれる前に剣を的確に脳へ突き刺すんだ。……な、簡単だろ?」
俺の『誰でもできる、ヴォルガノスの倒し方講座』を聞いた冒険者たちは、腕を組んでウームと唸り始めた。
何か首をひねる部分があっただろうか。極めてシンプルな方法だと思ったのだが。
すると、ひとりの冒険者が閃いたようにポンと手を叩いた。
「なるほど! してやられました!」
「ん? 何かコツを掴んだかい?」
「アッハッハ! 何を言いますか! みんな! これも含めて俺たちへの冗談って事だ! 一瞬、信じそうになったが!」
周囲の冒険者たちがそれを聞くと、ホッとした表情を浮かべる。
そして口々に声を上げた。
「そ、そうだよな! こんな巨大な化け物の口に入って攻撃するなんて、ありえないもんな!」
「ああ、さすがに無謀すぎるだろ。いやぁ冗談を鵜呑みにしちゃうなんて、俺たちもまだまだだな!」
「すでに倒したとは言え、化け物を前にした俺たちの緊張をほぐすために冗談を言ってくれたんですね! 助かりました!」
あ、あれ? 本気で教えたつもりだったのだが、なぜか冗談として受け取られてしまったようだ。
まあ、場の緊張が和らいだのなら結果オーライということにしておこう。
今はやるべき作業がある。俺は周囲に聞こえるよう大声を出した。
「じゃあ皆、素材や食料をさっそく馬車に積んでくれ!」
冒険者と商人たちが、作業に取りかかった。
セシルも一緒に楽しそうに荷物を運んでおり、王女らしい雰囲気はすっかり影を潜めている。
その時、抱え込んだ荷物が重すぎたのか、セシルが足を滑らせて体勢を崩した。
そのまま地面へ倒れ込みそうになる。
俺はすぐさま踏み込み、倒れそうになったセシルの身体をしっかりと受け止めた。
「大丈夫かい、セシル」
「あ、フェル……うん! ありがと、大丈夫!」
俺の腕の中で、セシルがほっとしたように微笑む。
だが、すぐ横で積み込みを行っていた冒険者が、こちらを見て軽口を叩いた。
「ヒュー! 熱いねぇ!」
その声を聞いて、ハッと我に返った。
俺は年頃の若い女性を抱きかかえていたのだ。
「ご、ごめんセシル!」
「う、ううん! こっちこそごめんなさい!」
慌ててセシルの身体を解放し、その場に立たせて謝罪した。
セシルも顔を真っ赤にして、俯いている。
俺は長年の戦場に慣れきっていて、こうした女性の扱いに疎い自覚はある。
こういう配慮も、少しずつ覚えていかないといかんなぁ……




