悪夢の始まり
あれは気のせいだあれは気のせいだあれは気のせいだ
「ーおい、おいってば。」
「え?」
知らないうちに、友人が隣の席から話しかけてきていた。
「どうしたんだよ。さっきから机に向かって黙り混んじゃってさ。」
「ごめん。何でもないんだ。心配してくれてありがとう。」
そうだ。あまり思い詰めてはいけない。
それが悪化してしまったら、余計に囚われてしまうかもしれない。あの幻覚に。
わすれよう。あの天使のことは。
そう、降りきろうとしたのに。運命は意地悪だ。
「みなさん席についてください。これから転校生を紹介します。」
その転校生というのが、天使のあの子だった。
「はじめまして。」
笑顔で挨拶する彼女を見て、僕も思わず口角が上がる。
もちろん、恐怖によるもんだ。
気のせいだと思ってた。幻覚かもしれないとは思ってた。
だけど、彼女は今現実にいる。
「ーで、これからよろしくお願いします。」
自己紹介も聞き逃してしまった僕は、彼女について何も知ることができなかった。
天使、なのか?そんなまさか。
コスプレ?そんなことをする奇人には見えない。
じゃあ、やっぱりあの羽根は幻覚なのか。
何にせよ、僕にとって彼女は悪魔のような存在だった。
「落ち着け、落ち着くんだ。」
必死に言い聞かせながら、なるべく彼女と距離をとる。
関わるな。関わったら余計に怖くなる。異なる世界に目が歪んでしまうことが。
そうし続けて何日たっただろうか。
いつもと変わらない、普通の毎日を送っていた僕に、隣の友人が声をかける。
「なぁ、本当にどうしちまったんだよお前。」
「え?何が?」
「何がって、、、無視してないで、反応してやれよ。いくらなんでも、この子がかわいそうだろ。」
え?
「この子って?」
「だから、この子だって。ずっとお前のこと呼んでるだろ。」
友人の手をかけたらしきそこには、誰もいない。何もない。
理由は、すぐにわかった。
「転校してくる前にも、あったことあるのか?」
そうか。
これは僕がおかしいんだ。
あの転校生が、見えなくなっている。
僕はまた昔のように、現実と空想の区別ができなくなってしまった事実が突きつけられたのだ。
「おいどうした!顔色が悪いぞ?」
「ダメだ。もう駄目なんだ。」
もう何も信じられない。あんな思いは沢山だ。
「おい、しっかりしろ!おいって、、、、ー。」
目を瞑った訳でもないのに、目の前が暗くなる。
声が、音が消えていく。
何もない、真っ暗闇の空間に
僕はその身を投げたのだった。
「もう、何も見たくない。」




