第13話 四十五日目
金は中庭で渡した。
出納方が箱を並べ、隊ごとに数えて封をする。封の上に隊の名を書き、隊長が受け取って自分の名を書く。書く欄があり、書く者がいて、書いた紙が残った。
翔は端に立ってそれを見ていた。四十五日目の午前で、天気は悪くなかった。
ハウザーは四番目に来た。
「四隊分でございます」
「19,500です」
翔が言うと、隊長は封のほうを見ずに、翔のほうを見た。
「数えられました」
「数えました」
「では、確かめません」
ハウザーは名を書いて、箱を担ぐ者に何か言った。それから、去る前に一度だけ振り返った。
「四十二日前、こちらへ伺いました」
「伺いました」
「あのとき、見込みは立っていないとおっしゃいました」
「はい」
「立ちましたな」
翔は返事をしなかった。立ったのではない。四十五日ぶんの穴を、四十五日かけて埋めただけだった。埋めた穴の隣に、同じ形の穴がもう一つ開いている。
ハウザーはそれ以上言わずに出ていった。
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控えのない六隊が来たのは、昼前だった。
七千四百人分。王国の側に契約の写しがない六隊で、隊長がそれぞれ自分の持っている証書を持ってきた。翔はそれを一枚ずつ確かめた。
日付があり、人数があり、王の印がある。読める限りでは正しかった。
「支払日はいつになっていますか」
「月の初めでございます」ひとりが答えた。
次の隊長は月の終わりだと言った。その次は、遠征のあいだは止めて戻ってから数え直す、という書き方だった。
六隊で三通りあった。
翔は六隊分を渡した。渡してから、自分が何をしたのかを考えた。相手の持っている紙だけを見て、こちらの紙と照らさずに払った。金額は正しいかもしれない。正しいと言える根拠は、こちらにない。
「写しをいただけますか」
最後の隊長が、少し間を置いてから言った。
「今日でよろしければ」
その場で書き写した。エリスとルカで一時間かかった。六隊分の控えが、今日から王国にある。
四十二日前に頼んでいたら、金が用意できないから確かめていると読まれた。今日は、払ったあとだった。
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全部を渡し終えたのは昼過ぎだった。
合わせて120,000グルデ。遅配の二か月分80,000と、当月分40,000。
出納方の主任が最後の封の記録を持ってきた。翔はそれを受け取って、財務府に戻った。
卓に紙を広げて、四十五日分を書いた。
開始(実測) 254,500
四十五日の歳入 + 90,000
通常の歳出 −139,315
傭兵への支払い −120,000
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85,185
借りていない。四十五日、一枚も借りずに済んだ。
そこだけは、こちらから言えることだった。国庫が減ったのは払ったからで、借りて埋めたのではない。埋めていたら、この85,185は見せかけになる。
紙の隅に、保留の欄がまだ残っていた。王領地の95,000。去年の暮れに麦を売った分がいくら含まれているかは、まだ届いていない。王領地の役所から写しが来るのに、あと十日ほどかかると言われている。
来たときに、この1.53はまた動く。
それから、割った。
85,185 ÷ 55,783 = 1.53
一か月と半分。日に直すと四十六日
四十五日かけて、次の四十六日を買ったことになる
五日目に六・一と書いた。十八日目に五・〇にした。十九日目に四・七になった。今日、一・五三になっている。
減った理由の大半は、払ったからだった。120,000を渡せば、それだけ減る。当たり前のことが当たり前に起きただけで、そこに発見はない。
翔は紙の端を指で押さえた。
二日目にギレスに聞いたことを思い出した。あなたが十二年やってきたのは、時間を買うことですね、と聞いた。長官は次の半年を買ったと答え、その次は、と聞くとその次の半年を、と答えた。
四十五日を買った。
買った時間で何をしましたか、とあのとき聞いた。今、同じことを自分に聞くことになる。
四十五日でやったのは、数え直しだった。利息の差額、債務の総額、貨幣の中身、伝票の承認欄、麦の値、馬の頭数、目録と実測、歳入の見込み。全部、すでにあったものを数え直しただけだった。一つも増やしていない。
増やさずに払えたのは、十八日目に32,000を取り戻したからだ。取り戻した代わりに、組合の利率が上がった。年に21,200。
差し引きがどうなるかは、来年になれば分かる。
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日が落ちてから、壁の前に立った。
38には線を引いてある。45にも引いた。
その下の7も済んでいる。三十八日目から四十五日目まで、七日あった。何ができるかは分からないと書いて、実際に何もできなかった。組合の利率が上がり、それを止められなかった。
いちばん下の線は、まだ空だった。
七千四百人の支払日。今日、六隊の写しを取った。三通りの書き方があると分かった。分かったが、いつなのかはまだ数字にならない。月の初めが二隊、終わりが二隊、遠征基準が二隊。それぞれの隊が今どこにいるかを、翔は知らない。
炭を持ったまま、しばらく立っていた。
書ける数字はまだなかった。
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書簡が届いたのは、その夜だった。
封蝋が二つ。表に名前が書いてある。
バルドウィン・レーグ
エリスが差し出したとき、彼女は差出人を見ていた。
「徴税請負人の組合の方です」
「ご存じですか」
「名前だけです」
翔は封を切った。紙は一枚だった。文字は少ない。
地租四十二万は、今年も納めます。
ただし、条件がございます。
その下に日付があり、その下は空いていた。条件は書いていない。
翔は紙を裏返した。裏も白かった。
「返事を出しますか」
エリスが聞いた。
「出しません」翔は言った。「条件を書いていない手紙に、返事はできません」
紙を卓に置いた。壁の炭の字が、燭台の光の届かないところで暗くなっていた。
四十二万。歳入1,110,000のうち、いちばん大きい数字だった。
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