表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

関わるべきじゃない


   ●


 ある日の昼休み、いつもの空き教室にて。


「いくらなんでも不干渉過ぎないっ?」

「え、っと?」


 俺、斎藤(さいとう)(さい)はクラスメイトの高根沢(たかねざわ)(なつ)嬢に、そう詰め寄られていた。


「その、あれ? そういうことで話がついたんじゃなかったっけ」

「そうだけど! でもこの一週間会話のひとつもないなんて寂、……その、徹底しすぎなんじゃないの? いくらなんでもっ」


 詰め過ぎた距離から彼女は半歩引き、気まずげに顔を伏せ、視線を逸らす。

 俺はというと、いきなりやって来られたのにまだちょっと面食らっている。この憩いの場のことは誰にも話していない。なのにここに来れたのはつまり、つけてきたのだろう。わざわざ。

 にしても、そうか。あの出来事から一週間経つのか。


「いやでも、まるっきり接点なかったんだから、いきなり雑談とかし始めたら不自然じゃない?」

「クラスメイトなんだもの、一言二言会話があっても自然よ。今日までみたいな、まるでお互いいないかのような振る舞いのほうが変だと思うわ」

「そう、かな」

「そうよ! この前だって――」


『お、おはよっ』

『あ、うん』


「――『あ、うん』ってなに!? せめて『おはよう』くらい返したら?!」

「あー、あれはうん、ごめん」


 そういえば一度、高根沢嬢から挨拶されたんだった。たまたま誰もいない廊下ですれ違った時に。

 じつはその時もちょっと面食らっていた。

 そもそもの話、彼女が俺に関わりたいなど、思ってもみなかったわけで。


「わかればいいの。挨拶にはきちんと挨拶で返す! 教室で顔合わせたときにも今後は、」

「あの、なんでそんな俺に関わりたいの? 言っちゃなんだけど、わりと退屈でしょ学校での俺って」


 なので実際に訊ねてみた。

 話を遮るかたちになってしまったからか高根沢嬢、一度きょとんとした顔。


「同じクラスに友達いないし、昼飯も、こんなところで一人で食うやつだしね。そっちはそっちで仲良しもいるんだし、今いる友達を大事にしたほうが、」

「――だって!」


 このままそれっぽい理由を並べて話を流してしまおう。

 そんな目論見が、今度は遮られ返される。

 思いの外大きな声が出たからか、自分にすこし驚いているような彼女は、


「気にしないなんて、無理よ。あ、あんなことした相手なんだから……」

「……それ出されると弱いなあ」


 恥じらいからか、また伏せられた顔。

 見下ろし、思わず頭をかく。きっかけはどうあれ受け入れたのは自分。そうでなくても、こういう事柄は男の側の責任と相場が決まっている。

 美少女と近しくなるのだってやぶさかでない。むしろ気乗りさえする。

 ……とまあ、心境としては、そうなんだけど。


「いや、やっぱやめたほうがいい。関わるべきじゃないよ、俺なんかには」


 あえて突き放す。


「どうしてっ、」

「遊び慣れてるって、高根沢さんの指摘どおりだから。結構ろくでもないんだよ、俺。少なくとも、優等生が関わっていい人間じゃない」

「でも、べつに不良ってわけでもないでしょう? 学校で問題起こしたりもしてないし……すごく普通じゃない、教室でのあなた」

「そりゃおとなしくしてるから。たんに気力に乏しいだけってのもあるけど」


 変に自分に関わって、むざむざ学校での評判を落とすこともない。

 そういった高根沢嬢への気づかいが、表向きの理由(・・・・・・)

 まあ()の理由だって、本当にたいしたことじゃないけど。

 ごく個人的な事情であって。

 ともあれ、これ以上話が長引くとさすがに断りづらくなってしまう。

 多少強引にでも話を打ち切ったほうがいい――


「とりあえず、高根沢さんの学生生活を邪魔する気はないってことで。それより、そろそろお昼にしないと時間が――」

「ッ!」


 そんな目論見は、あえなく破綻。

 いきなり胸に飛びこんできた高根沢嬢によって。


「……そんな、拒絶されるみたいなほうが、傷つく」

「いや拒絶っていうか、ね? お互い立場的な、適切な距離感というか……」

「この距離感が、適切?」


 結構な勢いを、怪我させないよう柔らかく殺して、受け止める。

 受け止めてしまう。

 腕の中の彼女のほうは、上目遣いで。


「揚げ足取らない。あのさ、一応は君のためを思って、俺も、」

「私の都合を勝手に決めないで。どうしてそう、勝手なの? あなたも、公助も」

「……」


 あ、今一緒にされたの、結構効いた。

 なんでだろな。俺は彼のこと、わりと一目置いて気に入ってるつもりなんだけど。


「べつにちょっと親しくしようってだけよ? あくまでクラスメイトとして」

「こうみえて結構臆病なもんで。波風立つ可能性は、わずかでも排除しときたいかなって。てかまさに、いちクラスメイト同士のふれあいじゃないでしょう、今」

「揚げ足とらないで。べつにいいじゃない。誰も見てないし」

「誰も……いや、うん」


 言いかけて、やめた。あるいは都合がいいかもしれないから。

 彼女の頭越しに空き教室を眺めながら、思う。

 女子特有の甘い匂い。よくない。これは。


「誰かに理由聞かれたって、いくらでもごまかせる。たとえば帰りにたまたま一緒になって、思ったより話が弾んだ、とか。ほら、嘘は言ってない」

「いやまあ、まわりのことは正直建前、……なんかまさぐってない? 手」

「! そんなべつに――ッ」


 接触がきっかけか、徐々に雲行きあやしい感じ。

 見下ろせば高根沢嬢、

 あ、これ、もうほとんどその気(・・・)の顔。

 てか、薄々そんな気はしてたけど……


「もしかしなくても高根沢さん、たんに欲求不満?」

「!? ――な、なんのことかしらわ、私はだから、淫乱とか尻軽とかそういうあれじゃ」

「自分で解消したりしないの? 恥ずかしいかもしれないけど、我慢は体によくないし、」

「あなたのっ!」


 ばっ! と、俺の胸を突き放すかたちで一旦離れる彼女。


「――あなたのせいでしょうッ! じ、自分でもしたことなんか全然なかったのよ? 私ッ」

「え? 嘘。そんな高校生いる?」

「しょうがないじゃない実際そうなんだから! ……そりゃ試したことくらいあるわよっ。けど恐いし痛いし、なんか虚しいしで、全然……」

「あー、そういう」


 思わぬ告白に思わず天井を仰ぐ。

 さすがに責任を感じざるをえない。新雪を汚すどころかペンキぶちまけて春画でも描いてしまった、みたいな? 感じ?

 でもまあ、そういうことなら、


「!?」


 今度はこちらから抱き寄せてみる。

 驚きはすれど抵抗はなし。どころか寄りかかり身を預けるような素振りまで。

 そんな彼女に軽く応じつつも、言う。


「手伝う? 解消」

「っ! だから私は、」

「この期に及んで意地張らなくても。いや俺もそこまで初心とは思わなかったし、わかってれば多少手心も、……いやどうかな、久々だったし結局加減できなかったかも。――まあとにかく、初心者相手に刺激強くしすぎた責任くらいは、ね」

「ちょ、ちょっと、あれ? 今ってそういう話だっけ……?」

「先に抱きついてきたのはそっちだけど」

「~~~ッ」


 俺のせいというのであれば、そこだけは責任を取ろう。する(・・)こと自体はもとより歓迎だし。

 互いの体の密着度合いが深まる。高根沢嬢からはかすかな抵抗の素振り。それも振りほどくには到底足りない、弱々しい力でしかないけれど。


 ただ、うん。

 その前に確認すべきことは、二つ。


「あらかじめ言っとくね」

「な、なにを」

「俺、恋人をつくる気はないから。お互い本気にはならないこと」

「! なに、それ……」

「変に情が湧かないように、教室でも親しくしたりしない。欲求が溜まったら、会って解消する。そういう関係なら、喜んで受け入れるよ」

「…………」


 まずひとつ。この時点で高根沢嬢、絶句。

 嫌ってくれたら御の字、という狙いもあるにせよ、個人的には譲れないとこでもあるので。


「……すごい、最低なこと言ってる自覚、ある?」

「ある。幻滅した? ろくでもないんだよ俺。そっちも最初からある程度わかってたと思うけど」

「そうね。そうなのよ。今更だけど、とんでもないやつに引っかかったわね、私も……」

「はは。今更だけど、ごめんなさい」


 案の定呆れ果てた様子の彼女。

 それでも俺の腕から逃れようとしないのが……まあ、現時点でも結構危ういところはあるよね。わかってたけど。


 で、もうひとつ。

 じつはこっちのほうが喫緊で。


「でね? 仮に高根沢さんがそれでも構わないってなったとして……でも今からここでっていうのは、ちょっと遠慮したいなって」

「それは、そうでしょう。学校だし、昼休みも長くはないし」

「うん。それ以前に、ね……」

「?」


 抱き合ったまま俺は、それとなくそちらを見る。

 彼女も気づき、視線を追うように空き教室のドアへと振り向き、


「へ?」


 気の抜けた声。

 ガタッ、という物音も、同時に。

 よくよく見ればすこし開いたドア、隙間からちらりと覗くのは――


「あかり?!」

「ひゃいっ」


 今度こそバッと体ごと振り返る高根沢嬢。

 動きを邪魔しないよう両手をホールドアップする俺。

 ややあって、おずおずという感じでドアは開いていき……


「ご、ごめんねなっちゃん。覗くつもりは、なかったんだけど……」


 恐縮しきりに現れた姿は“ハーレムグループ”の一員。

 桃枝(ももえだ)あかり嬢。

 可憐な顔に、後ろめたさとほんのり混じった好奇心という、いわく言い難い表情を浮かべて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ラブコメハーレムにやり手エロゲ主人公がぼんやりと介入!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ