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“フリースペース”




 市内の大学に“フリースペース”という名前のサークルがある。

 フットサルやミニバスケといったインドアスポーツをゆるく楽しむのが、主な活動内容。

 表向きは。

 気楽なレクリエーションサークルを装っているが、その実態は悪質。

 所属する未成年者の飲酒、喫煙などはまだ可愛いもので、

 法に抵触しかねない薬物のやりとり。

 大学に馴染めない者を引き込んだうえでの恐喝……

 ――ないし、性行為の強要。


 サークルというよりは、もはや半グレとでも呼ぶべき集団。

 実際、現在の幹部の何人かは、札つきの不良上がり。

 ある程度勉学を身につけ、そこそこ教師にいい顔をしていたほうが()だと気がついた、不良。

 悪知恵と暴力、残虐さを併せ持ち、かつ無害を装える、下衆。


 さらにはサークルの長と、ナンバー2。

 彼らには権力と財力があった。

 正確には()の権力と財力だが……とにかく大学理事や公権力にさえ顔が利く。

 いまだサークルが野放しになっているのも、まさにそのせい。


 大学内でも黒い噂こそあれ、

 表立っての糾弾も、まして罰することも叶わない。

 ある種の不可侵。


 そんな(フリースペース)に対し、周囲が取れる行動は二つ。

 触らぬ神に祟りなし、とやり過ごすか、


 自らも加わり、その汚れた恩恵に与るか――



〈side:Taira〉



 市内にあるカラオケ施設。

 その物件は丸ごと“フリースペース”のサークル長の所有だ。

 ぱっと見は普通のカラオケ店であり、実際通常の営業もしているが……

 一番奥の一室。そこだけは特別仕様。

 完全防音の壁。

 各所に仕込まれた隠しカメラ。

 一見してわからない隠しドア。


 人を誘い込み、閉じこめ、

 かつ内部の人間は自由に出入りできる空間――


 有り体にいえばまあ、撮影も可能な“ヤリ部屋”だな。

 店員もグルなため助けも望めない。


 そんな場所に現在、

 ナツ、アカリ、ミノリ、チユキの四人は閉じこめられている。


 一応は備えられている、カラオケも出来るブース。

 そのソファに並ぶかたちで座らされている。


 施設内の他の部屋の、倍以上の広さ室内。

 ナツたちのほか、そこには四人の男がたむろする。

 ソファのドア側を塞ぐように一人。入り口と、そして隠しドアの前に一人ずつ。


『そんなに睨まないで。――そうだ、なにか飲みものでも持ってこさせようか?』


 そして四人の対面。

 ソファに並んで座る男が一人。


 “フリースペース”の長。

 俺、(たいら)公助(こうすけ)の復讐。その仕上げの協力者、と言ってもいいか。


『結構です。そもそもあなたたちはなに? いきなり押しかけて、こんなことしてただで済むと、』

『ハハッ、聞いてたとおり威勢がいいね。夏ちゃん、だったっけ?』

『――ッ』


 カメラ越しでくぐもり気味の音声。

 画面の向こうで名前を呼ばれたナツが薄気味悪そうに口をつぐむ。


 今俺がいるのはモニタールーム。店内のすべてのカメラをここで確認できる。

 ゲンさんとフジワラも一緒だ。幼馴染(あいつ)らを献上した見返りとして、これから起こる一部始終をここで見物する許可をもらえたわけだ。

 まあゲンさんフジワラは頃合いであちらに加わるつもりだろうが。それを想像してか、モニターにかぶりつく姿は鼻息も荒く。

 俺? もちろん加わる気なんて更々ない。

 あいつらがどんな目に遭おうが、助けない。それが復讐のひとつでもあるからな。


『アハハ、まあそんな硬くならずに。あ、もしかして飲みものになにか仕込むんじゃ? って警戒してる? 心配性だねぇ。――まぁ仕込んでるのは間違いないけど』

『っ!』

『クッ、ククク……! ああ、一応厚意のつもりなんだよ? 素面だとやっぱり苦痛が勝るらしくてねぇ……その点、あらかじめキメ(・・)とけば酩酊してる間に終わるから。むしろ普通にする(・・)より断然具合いもいいようだし』


 あきらかにヤバげな薬の入ったケースを、懐から取り出すサークル長

 その不気味な物言いに、さしものナツも怯えが見える。

 こういうのもなんかこう……そそるな。

 つくづく惜しい。あれで中古じゃなかったらなー。


『――あ、あのっ』


 不意に、そして意外にも。


『うん? 君は、あかりちゃんだっけ』

『その、どうしてこう……囲んで、閉じこめるだけなんですか? あなたたちなら今にでも、無理矢理それをその、私たちに飲ませることも、出来るんじゃ……』


 おずおずながらもそう問うたのはアカリ。

 こいつもこいつでなんか最近、外してくるよな、イメージを。

 ミノリにチユキはガチでビビッてて口も利けずに震えてる状態なのに。


 そのへんの性格とかはよく知らないだろうサークル長。

 気障ったらしく鷹揚に足を組み替えて、


『そうだねぇ、無理強いはあんま好きじゃないってのもあるけど』


 よく言う。強姦ヤリサー長の分際で。


『一応クライアント(・・・・・・)の要望だからね。向こう(・・・)のカタがついて連れてくるまで、手を出すわけにもいかなくて。見せつけたいんだってさ。まったく結構なご趣味で……』


 言いながらチラリと、視線を室内に普通に設置されてるほうの監視カメラへ。

 ――俺と目を合わせたつもりか。


『クライアント、って、まさか……』

『まあ、うん。想像どおりの人物なんじゃない? なんというか、キミたちも災難だねぇ』


 ああナツに勘づかれちゃったじゃねーか。いや他三人も思い至ってるな。

 俺の存在に。

 ま、べつに構わねえか。

 今更あいつらが俺になにか出来るわけでなし。それどころか……


『だからこうして悠長にしてるわけだけど、――ああそう、この部屋電波通じないから。さっきから何度か助け呼ぼうとしてるみたいだけどさ』

『!?』

『アッハハ、いいねえその顔! まあつまりは、ここにノコノコ入った時点で詰みなんだよねキミら。もっとも通報できたとしても……ククッ、動いてくれるかなぁ? 警察諸君。仲良くさせてもらってるからねぇ、僕らってさ』


 青ざめる四人の顔。不本意だがサークル長には同意。

 迂闊だよなぁ、あいつらも。

 カラオケのサービス券をお袋にもらったのは本当。

 ただその券はゲンさん、フジワラとともにとっくに使ってしまっている。

 あいつらに渡したのはサークル長が用意し、フジワラ経由で手に入れたもの。

 あいつらもお袋に確認くらいは取っただろう。

 けどそれもおそらくは通話のみで。券を直接お袋に見せていれば、そこからおかしいと気づくことも、あるいは出来たかもしれない。


 けど、現状このとおり。

 結局はお人好しなんだよな、あいつら。あと平和ボケか?


 人の悪意。

 俺の恨みの底深さを、

 すこしでも想像できていたのなら……


 ま、それこそ今更か。


『例の()――』

『!』

『キミらのお気に入りで、クライアントがお気に召さないっていう彼だけど……僕らの仲間に迎えに行かせてるよ。まぁ多少は? 気が早いヤツらだから、抵抗されると荒っぽい手段もとるかもしれないけれど……ま、そこは彼が素直に従ってくれればいいだけだから、心配するほどのことじゃないかなぁ』


 サークル長の言い草に、四人はますます不安そうに。

 あんな野郎の心配してるのは相変わらず業腹だが……実のところ、あの野郎がどう出ようと、痛めつけてから連れてくるのは既定路線だったりする。こっちがそう頼んだってのもあるが、


 サークル長の言う仲間。

 サークル幹部にしてフジワラの先輩でもあり、

 なんというか、かなりキレた(・・・)人たちだ。喧嘩慣れしてるし他人に暴力振るうのに躊躇いがない。

 それでも一対一なら……まー俺でも倒せはするだろうが、

 四人、いや五人だったか? さすがに無理だろ。囲まれたらどうにもならない。


 要はあっちもあっちで始めから詰んでるわけだ。

 斎藤は憐れにもボコされてここへ連れてこられ、

 その目の前で幼馴染(あいつ)らはヤリサー男どもにぐちゃぐちゃにされ、

 ――そしてそのザマを俺が、ここで高みの見物キメる。


 これぞ復讐の全容。

 寝取りクソ野郎も、裏切り幼馴染どもも、

 まとめて陥れ、貶める。


 しかし、いよいよ達成されると思うとワクワクしてくるな。

 正直ムラムラもしてくる。

 自分が食える(・・・)のが一番だったのは間違いないにせよ、

 昔から見知った美少女がクズモブ竿役に成す術なくいたぶられるっていうのも……

 それはそれで悪くねーよなぁ! かわいそうなのも抜けるクチだし、俺って。


(さすがにこの場で励んだり(・・・・)はしねーにせよ、録画の準備はバッチリだし……と?)


 コンコン。

 画面の向こうでノックの音。


『――さて、ウワサをすれば、かな?』


 反応するサークル長。

 目に見えてビクビクしている幼馴染たち。


 来たか。いよいよ。復讐の瞬間が。


『つか、なにノックなんてもったいつけて。サッと入ってくりゃいいものを、』


 ドアの前に立っていた男が招き入れるためかノブに手をかけ――


『…………』


 入ってきたのは無傷の斎藤(さいとう)(さい)


 ……無傷の(・・・)


『あ? なんだお前、一人……? つかあいつらは、』


 ドア前の男が訝り、


 かこん、と。

 なにか妙に拍子抜けする、軽い音。


『?! ……』


 ぐらりと傾いで、頽れる。

 そうして倒れた男を避けるようにして、


『まだなにもされてない、みたいだね。よかった』


 部屋に入り、後ろ手にドアを閉める斎藤。

 画面の向こうで、どこか呑気ですらある声で、そう言って――



〈side:Natsu〉



「斎藤、君……っ」


 思わず彼の名前を呼ぶ私、高根沢(たかねざわ)(なつ)

 視界がちょっとぼやけている。安心して泣くなんて、なんだか決まりが悪いけど。


 ドアの前に立つ彼。

 シンプルな私服姿。学校の時とは違って軽く整えられた髪形。

 格好そのものはデートの時のそれと近い。けど……


「……」


 長身から見下ろすような視線。

 大体いつも朗らかなのに、今はどこか冷たい圧を全身から放つかのようで――


 すこしだけ、ゾクリとする。

 ついでに体もちょっと疼いたような――ってそうじゃなくて!


 ともかく、初めて見る雰囲気の彼。

 もしかしなくても怒っている……の? これって。


「さて、出来ればこのまま、その子たちを何事もなく帰してほしいところなんだけど」

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― 新着の感想 ―
平が想像の数倍下衆野郎ですごい アンチハーレム系でもあまりいないタイプだと思う
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