なにが起きてる?
感想、評価、ありがとうございます。
まだもうちょっと続きますよ。
「どういう、ことだ? ゲンさん……」
「ヒィッ!? お静まりくだされ平氏っ、どうか穏便にッ」
両手を合わせて頭を下げる友人の様子に、すこし頭が冷える。
そうして努めて冷静に詳細を聞けば……
一昨日土曜、隣町の俗称ヲタロードをゲンさんが歩いていると、チユキが見知らぬ(少なくともゲンさんには見覚えのない)男と一緒にいたのを見た、と。
さらにはその後、近くの公園を通りかかった際、その男とチユキがマンガかなにかを読んでいたのも見かけたと。
レジャーシートなどを敷いて、寄り添いあって、
いかにも仲睦まじそうに……?
「いや、いやいや……は?」
「お、抑えてくだされ平氏ッ、波動が、殺意の波動が漏れていますぞっ」
「いや悪い。でも、え……?」
視界がぐにゃぐにゃする。昨日と同じに。
脳が理解を拒んでいるのか?
だが実際意味がわからない。
なんでナツのみならず、チユキにまでそんな話が上がってくる?
なんだ? なにが起きてる?
「……あー、その、混乱してるトコわりーんだけどよ」
もうひとりの友達、フジワラが不意に話に割りこんでくる。
いかにも言いにくそうな様子。
猛烈に悪い予感がする。
やめろ、その先を言うのは――
「オレもさ? じつはそのォ、見たンだよな……たわわ、じゃなくて日永ちゃんがさ、なんかイケ好かねー男と歩いてんのを、よ」
咄嗟のことで制止も間に合わず、フジワラから放たれた言葉。
今度こそ目眩に襲われ、ベンチで項垂れてしまう。
「……確か、なのか? たまたま居合わせてただけ、とかでなく?」
「あー、連れ立ってた、としか言えねェな……日永ちゃんバッチリめかし込んでたし、デートにしか見えなかったわ」
「…………」
念のため、そんな確認も無駄に終わる。
……なんでだ?
なんで今になって。
あいつらに男の影なんか、今まで気配すらなかったのに。
なんだ? いったいなにが起きてる……?
「あー、うん。そうだよー、デート。楽しかったー……ふふっ」
放課後、昨日と同じ校舎裏で。
呼び出して訊ねれば、問い詰めるまでもなくあっさりそう白状するミノリ。
しかも、なんだよ、その、
心底幸せそうな笑顔は……!
「なん、なんでそんな、急に、男と」
「急に? んー、私にとってはむしろずーっと待ち焦がれてたことでー……夢にまで見たしー、何度もー……」
いつものおっとりが五割増しとろけたような朗らかさのミノリ。
だがそれを魅力的と感じる余裕は俺にはなく。
「ずっと……? 前からつきあってたってことなのか? 俺に隠れて」
「つ、つきあっ?! たっ、たしかにそうなれたら嬉しいけどー……まだちょーっと、心の準備がというか~……っ」
つい口からこぼれた疑問。
それを受けたミノリ、なぜか大いにうろたえる。
加えてごにょごにょと何事か呟いているが、小さすぎて声が届かない。
いやてか、待てよ。
「つきあってないのにデートッ? ミノリお前、いったいそいつとどういう関係で――」
「かっ、関係、関係……~~っ」
俺の知らない、しかもつきあってすらない男とデート。
あまりの衝撃に詰め寄りかけるが、
なぜかさっき以上にうろたえるミノリに思わず足が止まる。
そのまましばしもじもじと俯いて、
「……彼はその……お、お友達ー? とってもそのー、仲良く、してもらってる……」
ややあって上げた顔は、恥じらいの赤面。
扇情的とすらいえるミノリの様に、
しかし俺は言い知れない居た堪れなさに襲われ、思わずその場を走り去った。
満身創痍。俺のライフはもう0。
そんな言葉が頭をよぎるが、まだ倒れるわけにはいかない。
一足先に帰っていたチユキにも話を聞くまでは――そんな思いで自宅の近所、あいつの家の呼び鈴を鳴らす。
「話? じゃあ今出るから近くの、うん。そこの公園で待ってて」
玄関まで来たチユキはそう言って一度引っこんでしまう。
言われたとおりにせざるをえない。
そういえば最近、チユキの部屋に上がった覚えがないことに気づく。
たまたま、と言えばそう。
たまたまだと、まるで自分に言い聞かせるように公園まで歩き、待つことしばし。
「お待たせ。で、話って?」
チユキがやって来る。先程見た部屋着に上を羽織っただけの、ギリギリ外出可みたいな格好。
学校でも俺だけが見れる無防備さ。
だがそんな優越感に浸る余裕もなく、訊ねる。
男と歩いていたのは本当か。そこにいったいなんの事情が――
「そうだよ。一昨日、うん。ヲタロードにお出かけ。デート……まあデートだね。デート」
いつもの無表情。しかしほんのり頬を赤らめ、照れ照れと。
眩む。暗む。目の前が。
本当になんでお前らそんな、揃いも揃って……
「正直ピンと来なかったし、あの場のノリもあったんだけど……やってみると意外と、うん、悪くない。世の男女がうつつを抜かすのも、あれなら頷けてしまうもの」
感想まで聞いてねえよ! なんで陽か陰かで言えば陰側の、お前まで……!
てか、ヲタロードならこれまで俺とも何度も行ってたろーが!
活き活きというか、ホクホクというか、そんな様子一度も見せたことなかったくせに――
「――そいつ、なんなんだよ」
「?」
「誰なんだよどいつもこいつもッ、お前ら今まで男になんか興味ありませんって風だったのに、なんで今になってそんな、続々男の影なんぞが……!!」
叫ばずにいられない。近所迷惑など知ったことか。
おかしい。
どこを取ってもおかしい。
どいつもこいつも、なんで示し合わせたように他の男となんざ。
しかもよりによって、いよいよ俺がお前らを攻略してやろうと思った矢先に……!
ふと見ると、チユキもまたこちらを見ている。
まるでなにかに思い至ったような顔で。
「そっか。なるほど」
「? なにが……」
「ん、こっちの話。気にする必要ない」
「いや気になるだろなんの話だよ!?」
「そう言われてもわたしの一存じゃ。話すならみんなに確認取らないと――や、そしたら『黙ってよう』って話になるか。じゃどっちみち言えない」
「はぁっ?!」
まるで要領を得ないやりとり。
だがなにか隠してる。それは察せる。
加えて『みんな』と言った。つまり美少女幼馴染全員に関わりのある、なにか。
関わりのある、隠しごとが――
「話、もういいよね? わたし部屋でやることあるから」
「あっ、おい――」
つい考えこむうち、踵を返すチユキを見逃してしまう。
そそくさと、お気にのパーカーのフードについたウサミミを揺らして。
思いのほかはしっこい小さな背中を、俺は呆然と見送るより他なく……
「切り替える……切り替えるんだよ……ッ!」
足取りも重く、刻限ギリギリに登校した翌日。
言い聞かせるように呟きながら、校内を歩く昼休み。
アカリを探してのことだった。アカリ――桃枝あかり。
今や男の影のない唯一の幼馴染。……ほんの少し前まで選り取り見取りだったのが嘘みてえだな。
だがもう四の五の言ってられない。
もはやルートは一択。逆に言や全ぶっぱ出来るってことだが。
(けど、アカリかぁ……)
なんとなく遠い目。アカリ……いや不満はねえよ?
けどアカリなー、間違いなく美少女だし体つきも、うん、十分にメリハリある。
ただ他三人と比べるとどうしても、尖ったところがねーというか。見た目のキツさと人当たりのよさのギャップがあるナツ。圧巻の胸囲を誇るミノリ。とにかくオタ受けがいいチユキ……こう並べるとアカリは、言っちゃなんだが地味。ラブコメやギャルゲなら不人気枠、だろうなー。
いや不満はねーんだよ? ホント。
ただなんかやっぱ、うん。どうにももにょるっつーか。
(微妙に話合わねーしな。わりとフツーの女子メンタルだしあいつ。まあミノリとかも似たようなもんなんだが……)
つらつらと考えながら歩くが、肝心のアカリはいまだ見つからず。
そもそもどこ行ったんだ? あいつ。昼飯食う時間なくなるんじゃねーか?
「――いた、アカリ」
「公助君?」
思っていると、ちょうど通りかかった階段からアカリが降りてくるのを見止める。
向こうも不思議そうにしてるが、それを言うならこっちも。
「なんの用で三階になんか」
「あ、うん。ちょっと生徒会室に」
「生徒会室?」
この棟の三階には特別教室しかない。
前の授業も関係ないし、無所属のアカリなら部活関係でもない。
そう思い訊ねてみれば、答えはもっと意外な生徒会室。ますますなんの用事が……
「うん。前にほら、頼まれてたじゃない? 文化祭のコスプレコンテストの」
「おーそんな話もあったな。そっかその打ち合わせみたいな」
「打ち合わせっていうか、断ったの」
「へ?」
「コンテストの、司会の役目」
聞いて、固まる。
アカリが? コスコンを?
いや出るんじゃなくて、司会か。いやいや待て、出ない……?
「――はぁッ?! なんでまた、」
「なんでって、荷が重いって前から思ってたし。文化祭もまだまだ先だし、今ならそこまで迷惑にもならないかなって」
照れてはにかむような、妙に可愛い仕草。
そこを気にしていられないほど俺は混乱していた。アカリが他人の頼みを、断る……?
頼めばなんでも押し通せそうなのが、ある種こいつの持ち味なのに。それこそ告白とかそれ以上とか、勢いで行けそうってのはこっちにとっても大きなアドバンテージで……
「え? てことは……見れないのか!? アカリの、コスプレ司会!」
「そう! なによりそこが問題で。ただ着るだけならともかく……人前で、なんて。正直恥ずかしすぎて司会進行どころじゃないよー」
遅ればせながら気づいて、衝撃再び。
それを余所にしかしアカリ、妙にあっけらかんとしている。
なんだ?
こいつのこの、いやにさっぱりした感じ。
既視感。
そう、それはあたかも一昨日のナツの様子を彷彿させるような……
「――そうだ! なあ、話は変わるんだが、」
嫌な感覚を振り切って強引に話題を変える。
アカリを探してたそもそもの目的。
それは告白――ではなくその前段階としての、デートへの誘い。
さすがにいきなり告るのは愚策なくらい俺にもわかる。まずはワンクッション、いい感じにどこかへ出かけ、いい感じの雰囲気を作り、そうして行けそうであれば……
勝算は低くはないはず。だがやや性急な感もある。
それでも他三人がアレだったのを考慮すれば、今肝要なのは間違いなく速攻、短期決戦。
(また知らねーうちにルート潰れてましたー、じゃ話になんねーからな)
考えつつ、誘いの文句を言い切る俺。
つっても意気込んだりはしない。
あくまで軽く、いつもの調子で。
これまでの俺たちの空気感のままに、ごく自然に遊びの約束を持ちかけ――
「あー……ごめんっ。その日は予定が入ってるから、お出かけはちょっと無理、かな?」
断られた。
……。
いやいやまだ予定が被っただけだろ!
「それなら別の日だっていいぜ? べつに俺も日にちにこだわりは、」
「えーっとその……正直に言うね? 公助君と二人でお出かけっていうのを、ちょっと遠慮したいかなーって、感じなんだけど……」
……は?
なんて? 俺と? 出かけるのが……嫌?
「公助君もさ? その、私とだけ遊んでも、あんまり面白くないよ、ね? あ! もちろんみんなも誘ってどこかへっていうんなら、……あー、どうかな、みんなももう乗ってくれるかどうか……」
ね? なんて首を傾げてみせるアカリ。
あながち間違ってもいない。趣味も嗜好もごく普通の女子であるこいつ。となると出かけるならウィンドウショッピングとかになるんだろうが……まあ退屈だよな、女の買い物なんて。かといってこっちのオタ趣味にはこいつあんま興味ないし……
――いやちげえよ。
なんでこんな、もう断られる流れになってんだよ。
「いやいやいやッ、面白いかどーかは置くとしてもーほら! 最近あんま遊んでねーよ、な? 俺ら。なら久々に親睦を深めるっつーかなんつうか……とにかくどうよ!? お互い新鮮な気持ちでリフレッシュみてーな、なんというか……!」
自分でもなに言ってるかよくわからなくなってきたが……
とにかく押せ! 押しに弱いことこそこいつのおいしいところで、
「公助君」
にっこり、と、
妙に優しい笑顔を向けられる。
「私ね? もうちょっとわがままでもいいのかなーって、最近思うようになって」
「な、にを、」
「ヒトに言われるままーとか、流されるままー、とか。そういうのはもう、いいかなって、ね」
言って、ゆっくり背を向けるアカリは、
一度こちらを振り返って。
「だから、ごめんね? 誘ってくれたのは、ありがと」
それだけ言って、今度こそ教室へ向かうほうへ去っていってしまう。
呆然と背中を見送る。
もうなにも考えられない。




