は?
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デートもそろそろお開きということで、複合アミューズメント施設を出た俺たち。
そのまま駅までは一緒に。そこから帰りの電車は乗る時間をずらして別々に。
学校の人たちにバレないためと、事前の打ち合わせではそうなって――
「ねえ、今日はもう、これきり……?」
――いたんだけれど。
駅が近づいてくるころ、ふと足を止めた高根沢嬢が、俺の袖を摘まんで引き留め、
請うような、物欲しそうな上目遣いで、ぽつりと。
「えっと、もうちょっと、どこか寄ってく?」
念のため確認。
「……わかってとぼけてるでしょ。それともはっきり言わせたい?」
すると彼女はすこしそっぽを向いて。
まあ、ご指摘のとおり察してはいる。
普通のデートがしてみたい。
そんな要望から始まった今回の試みだけど、
だからってそれだけだったわけでもなく。
ええ。
打ち明ければこれまでのお三方ともデートだけでは終わらずに、まあ、はい。
(なんだろう。結局なんというか、そういう空気になっちゃうんだよねどうにも)
うーん。
俺からとくになにかほのめかしたりはしてない、はずだけど。
それでも現状、どこか火のついたような女の子が、目の前にはいて。
となればやはり、焚きつけているのは俺なのか。
「それとも、嫌? どうしてもっていうなら、私だって、べつに……」
一度上目遣いに視線を合わせて、けどまたすぐに目を逸らしつつ。
そう健気に振る舞われると、
今日をこれきりになんてとても出来ない。
「嫌なわけない。じゃあその、部屋でいいかな?」
というかもともとそんなつもりは毛頭ない。
そもそもこれまでの三人もそうしているのに、今回だけなし、なんて端から出来るはずもなく。
袖を摘まんでいた手をあらためて取りなおし、繋いで軽く引くように。
「――その、うん。よろしく」
恥じらいか、あえての素気無い口調。
けれども口元の綻びを隠せていない、高根沢嬢のそんな様子が可笑しくて。
表情が和らぐのを自覚しつつ、俺は彼女とともにまた歩きだす。
〈side:Taira〉
その日は休日、日曜。
(あー、暇だ……)
町をそぞろ歩く俺、平公助は、まあ端的にいえば暇を持て余していた。
趣味のモノはあらかた消化済み。美少女幼馴染はおろか野郎の友人さえも用事で捉まらないという、都合がつかないにもほどがある状況。
あまりに暇なんでつい隣町にまで足を延ばしてしまったが……
(このへんよく知らねーんだよな。ゲーセンとか、本屋くらいならわかるんだが)
土地勘のない町をぶらぶらしても、むしろより暇が際立つ気さえしてくる。
まあ自業自得っちゃあそうなんだが――
(――あ?)
視界の端にふと映ったもの。
ありえない。そう思ったがゆえに一度頭を振り、
あらためて目を凝らすも、映る光景に変わりはなく。
高根沢夏。
通りの向こう、かなり遠くだが間違いなくナツが歩いている。
普段のあいつならしないような、なにやらイキッた感じのファッション。
そこにも驚くは驚くが、より信じがたいのは格好などよりも、
男と歩いている。
……っつーか、は? 男? なんで、ナツが。
「……――っ」
いやな動悸。変な汗。
足は止まっている。てか膝に、力が、ガクガクと、震えて――
視線の先で、ふとナツが足を止めている。
男の手を取って引き留め、なにかを話している。
まるで甘えるような、いっそ媚びてすらいるような……
今まで見たこともない、あいつの態度。
「…………」
脳が軋むような感覚のなか、
知らず知らず動いた手で、俺は端末を操作し……
――そこから先は、よく覚えていない。
気づけば帰宅し、自室のベッドに仰向けになっていた。
翌日、月曜放課後。
俺はナツを校舎裏に呼び出していた。
「どういうことだよ、これ」
「!」
昨日のことを問いただすためだ。
端末の画面――無意識に撮っていたナツと男が収まる画像を示しつつ問えば、
眼鏡の向こうで見開かれるナツの目。
「……どう、って? なにが聞きたいの?」
「質問に質問で返すなよ。ならあえてはっきり訊くが、誰なんだよこいつは。昨日こいつとなにしてたんだよ……!」
あたかも開き直るような態度に、つい語気が荒くなる。
だがそんな俺の苛立ちに、ナツはといえば、
「それ、あんたに言う必要ある?」
あっけらかんと、
まるで悪びれた様子もなく、そんなことを言う。
「というか、気づかない?」
「? なにを……」
「そ、気づかないならいいわ。聞きたいことはそれだけ? なら、私はもう帰るわね」
加えてよくわからない問いかけ。
つい唖然としているうち、ナツはさっさとこの場を去ろうとする。
「――待てよ!」
「ッ、ちょ」
思わず手首を掴んで引き留める。
振り払おうとするナツ。だが無駄だ。男の握力に女が敵うはずがない。
「い、たッ」
「まだ話は終わってねーぞ……なんなんだよあの野郎は。お前のなにで、昨日なにやってたのか訊くまで……!」
「痛い、から、はなして……っ」
顔を近づけ、さらに問い詰める。
だが呻くような声を聞いてすこし冷静になり、とりあえず手だけは離してやる。
手首を押さえたナツは、こちらを睨むような目には、すこし涙が滲んでいる。
若干興奮するな。これはあれだ、いわゆる“くっ殺”的な昂揚。
あと、思い至る。そういやこいつに触れたのもずいぶん久しぶりだな、と。
いわゆるおいた――ラッキースケベも思えばだいぶご無沙汰だ。まあラッキーっつうか自分の手で掴み取った栄光っつうか。
ああ、いっそさっきにでも腕つかむフリして乳揉んどきゃよかったか。お仕置きも兼ねて一石二鳥的な、
「そうね」
思考が中断される。
ナツの冷えきった声と、温度のない視線に射抜かれて。
「もうこの際はっきり言っておこうかしら。わざわざ言う必要ないけど、思えば隠す必要だってないわけだし」
「なに、を」
思わず、後ずさる。
この先を聞くべきでない気がしてくる。いや聞いたのは俺なんだが、それでも。
しかしナツはこちらが止める間もなく、
「たぶんあんたの想像どおりよ。――デートしてたの、昨日は。その写ってる彼と、一日ね」
口にしてしまう。決定的に。
ぐにゃりと、視界が歪んだ気がして、ふらつく。
「な、なん、なんで」
「なんで? うーん、正直流れもあったけど……まあ私も興味あったし。いいかなって」
なぜ? 答えるナツはあくまでなんでもない風だけど、
隠しきれてない。
照れか、嬉しさか、
ほんのり赤い頬はそう、さながら“メスの顔”で……
「……なんでだよ」
「なんでって、今言わなかった?」
「そうじゃねぇよ! なんでおまッ、お前は俺のことを、俺を――!」
「あ、あー……そうね。そういえばそもそものきっかけは、それだったっけ」
こちらが声を荒げても、どこ吹く風なナツ。
幼馴染同士、互いに憎からず想う、甘酸っぱい関係。
それが俺とお前のはずなのに、
なのにどうしてお前はそんな、いやにさっぱりとしてるんだ……?
「あかりと実乃里、千雪に、私。みんなにいい顔しときながら、ずーっと誰も選ばないあんた。こっちが問い詰めればはぐらかすし、もう知らない! ――って思ったところで彼に出くわしたのよね……魔が差した。ほんとそのとおり」
思えば余計厄介なのに捕まった気もするけど。
ぼそりとつけ加えたのはそんな小声だったか。
いやそれよりなんの話だ……?
すこし考え、思い至る。だいぶ前にたしか、それらしい口ゲンカをした覚えが。
いやでも、あれで? あんなのいつもの軽いじゃれ合いみたいなもんだろ?
「……要は、あれか? 俺への当てつけでその野郎と」
「当てつけ。そうねえ、最初はそういうつもりもあったはずなのよねぇ……」
なんだよ、そのいわく言いがたい苦笑いは。
一時の気の迷い――そんな感じなんだろ?
なんでそんな、満更でもなさそうな、顔を……
「彼のおかげ、って、思っていいのかしら。とにかく吹っ切れたわ。あんたのことはもうなんとも――や、昔馴染の情くらいはあるけど、」
口にしてしまう。
「――男女としてどうこうってのは、もうないわ」
決定的な一言を。
「だからこれからはまあ、ほどほどにつき合いましょ? お互いに」
ナツが。
いつになく晴れやかな笑顔は、
今まで見たことないくらい、魅力を放っていて――
「――ッ」
「あ、ちょっと公助!?」
転身、全力で駆けだす。
そうして気づけば俺は、自室のベッドで蹲っていた。
「……よし、切り替えてこーぜ」
翌朝、目覚めて早々そう独りごちる俺。
ナツルートは途絶えた。たしかにそれは残念でならない。
だが俺にはまだ三人の美少女幼馴染が残っている。
「逆に言や、ナツについてはもう考えなくていいってことでもあるしな」
ルートが三人に絞れた、とポジティブに捉えよう。いつまでも引きずるのも女々しいし、今こそ心機一転、本格的なヒロイン攻略に取りかかるべき時。
知らないうちにルート潰れてたとか、ナツみてーなクソ展開はもう御免だしな。早ければ早いほど残りの高校生活を青春して過ごせるし、ここからは短期決戦こそが肝要――
「あの、平氏、ひょっとしたら俺氏の気のせいかもと思って言い出せなかったんだけど……」
――そんな決意表明なんかをしていた昼休みの最中、
おずおずと切り出したのは友達のひとりであるゲンさん。
いわく、
チユキ――小井千雪が見知らぬ男と歩いていたのをヲタロードで見た、と。
は?




