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“2‐Aのハーレムグループ”_柔らか女子 薄色小柄


 引き続き、三人目。

 時は昼休み、校舎裏の一角。


「ごめんなさい、キミの想いには応えられないかなー」


 口調の柔らかさのわりには、きっぱりとした返事。

 向き合う男子にそう告げたのは“ハーレムグループ”のうちの一人、柔らかロングヘアの女子。

 フルネーム、日永(ひなが)実乃里(みのり)。おっとり穏やかな物腰と雰囲気。やや大人びた印象の、美少女というより美人さん。


 ちなみに台詞のとおり、かの状況はいわゆる愛の告白の現場。

 それを眺める俺はといえば、そこを見下ろす校舎の三階にいる。この空き教室は昼飯や昼寝の穴場。そのうえ時々こういったイベントが拝めるので、暇つぶしにももってこい。ついでにこちらからはよく見え、おまけに風の流れのせいか声もよく届くが、向こうからだと死角になるのかなんなのか、気づかれたことは今まで一度もなかったり。

 ……まあなんであれ、悪趣味な行為なのは否定しないし、できない。


「どうしてスか? 格好とか結構いいセンいってると思いません? や、自分で言うのもなんなんスけどね」

「うーん、うん。なかなかの男前だと思うよー? 他の女の子なら放っておかないかもー」

「でしょ? なんならとりあえずお試しって感じでも。ほら、実際つきあったら案外……なーんて珍しいコトでもないスし」


 眼下では、告白側が存外めげずに食い下がっている。

 タイの色と口調から、一個下の男子生徒。本人も言うようにまずまずの顔立ちで、それゆえか自信もあったんだろう。

 けど、おそらく脈はない。日永実乃里。顔立ちもさることながら起伏に富んだスタイルもあって、男子人気はかのグループのなかでも頭ひとつ抜けている。

 告白されたこと数知れず。

 翻せばそれらを一度も受け入れていない、ということでもあり。

 不落の巨峰――べつにそんな二つ名とかはない。今なんとなく思いついた。


「んー……」


 ハの字眉の巨峰嬢。でなくて日永嬢。

 後輩君の思わぬ押しに心が揺れて――

 というよりは「キチンと断ったのになんで食い下がるかなー」って顔。

 さて、相手方はそれに気づいてか。


「……俺じゃあダメなんスか?」

「ダメっていうかほらー、ね? キミならもっといいコすぐ見つけられ、」

「いるんスね? 他に、気になるヤツ」

「――」


 意外、後輩君の察しは想定をもうひとつ超えたもので。

 虚を衝かれたような日永嬢。それは暗に肯定とも取れる反応。


「あー、やっぱなー! いやウワサには聞いてたんスよ、仲のいい男子(ヤツ)がいるとかなんとか」

「え、えーと、それはー、ね?」

「や、なんか逆にスッキリしたっス。先輩にならフラれんのもいい思い出っつーか? ハハッ、んじゃ失礼しまっす! すんませんした時間取らせて!」

「あ、あー……」


 かくして後輩君、思いの外スパッと引いて去っていく。

 一方の日永嬢、なにか言いそびれたようにも見える。いまさらやっぱりOK、という感じでもないし、はたしてなにを伝え損ねたのやら。

 ややあってひとつ、気を取りなおすように溜息をつき、


「――それで? 覗き見は感心しないなーお姉さん」


 あれ、気づかれた?


「ん゛んっ! ……おかしいな、こっちにたしかホームランボールが、」

「野球、興味なんかないでしょー。そーやってごまかすのも感心しなーい」


 一瞬ちょっとびびったが、彼女はこちらを見向きもしていない。

 実際、視線は校舎の陰に向いていて、

 そこからほどなく姿をみせたのは案の定というか、お馴染み平凡男。

 こちらとしては、ひとまず安堵。


「……すみません、覗くつもりはなかったんです。いやほら、ミノリが一人でひと気のないほうに行くから心配になったというか――いやでも! 会話はほとんど聞こえなかったから、それで勘弁ということには……」

「ふーん?」

「…………っ」

「ま、そういうコトにしといたげる。さて、教室戻りましょー。お昼はもっとゆっくりしたいんだけどねー」

「ほっ」


 向こうでも、一応は容赦されたらしい平凡男が安堵している。

 一見にこにこしているが日永嬢、どことなく有無を言わせぬ雰囲気があるような。

 そうして、校舎裏からの去り際、


「で、さ、」

「んー?」

「気になるヤツがどうとか――わりいなんでもない! 俺はなにも聞かなかった、聞こえなかったわけだしな、うんっ!」


 思わずという感じでこぼした言葉。それを平凡男は、しかしすぐさま取り消す。

 そこはもうちょっとつっこもうよ、と、

 ここで確定するのもちょっと物足りないな、という感想が半々。


「……」


 さておき、どっちつかずな投げかけに対し日永嬢。

 すこしの間を置いてから、


「はっきり聞いてくれてよかったのに」

「え? と、なんて?」

「なーんでもなーい」


 ぽつり呟く。

 こちらには届くのに、なんですぐ近くにいるあちらさんには届かないのやら。

 やっぱり風のいたずら?


 まあ、なんであれ、

 日永実乃里。モテるうえに小悪魔的という、男心に悪いんだかいいんだかな子ではある。




 そして四人目。

 色素薄めの小柄美少女、フルネームは小井(いさらい)千雪(ちゆき)

 クラスでも最小の身長のうえ、細身。独特の髪色は親か祖父母だったかの、欧州の血由来とか。

 かのグループの中でも、ともすればとくに目立つ。

 基本物静かで表情の変化も乏しく、どこか浮世離れした印象がある。

 妖精、という形容が大袈裟でない、そんな女子。


 しかしそれは、あくまで彼女の一面。


「……なん、だって? もういっぺん言ってみろ、チユキ」

「何度だって言う。公助、おまえはなんにもわかってない」


 放課後の教室。

 机を挟んで対面する、小井嬢とお馴染み平凡男。

 一触即発、険悪な空気にまだ居残っているクラスメイトたちも思わず息を呑――


「おっぱいもふとももも盛ればいいってもんじゃない。何事もバランス重点」

「特盛でもいいじゃあないか! デカさこそ正義ッ!」


 ――んだりはせず、「また始まった」とだけ一瞥してそれぞれ帰ったりだべったり。


 なにも二人も現実の女性について話しているわけではない。

 非現実、非実在。要はアニメとかゲームとか漫画とか、そのあたりについてだ。


 小井千雪。自身もどこか非現実的な外見だからってこともないだろうが、

 各種創作を好んで嗜む、端的にいえばオタクだというのが、彼女のもう一面である。


 ちなみにここまでくれば察せるだろうが、平凡男のほうもやはりオタク。

 ただ、あの様子では小井嬢と好みも同じ、というわけでもどうやらなさそう。


 ついでに名前も出たのでもう紹介してしまおう。

 ある意味“ハーレムグループ”の中核といっていい平凡男。

 フルネームは(たいら)公助(こうすけ)。身長も体格も平均的で、顔立ちも言うなれば無難。

 特徴はそれこそ、学校でも一、二を争う美少女と近しいことくらい(その特徴こそが大きいが)

 まあ悪いやつではないのだろうな、というのがこれまで眺めたうえでの所感。


 さておき、応酬はいまだ続いていて。


「なにも大きいのが悪いとは言わない。考えなし無差別な増量はどうなの? ってだけ。そればっかりじゃ、没個性」

「フン、だが現実として近年のちちしりふとももは増加傾向……俺だけじゃねえ、結局みんなわかってんだよ、『おおきいことはいいことだ』と」

「世間がどう見るかじゃない。わたしがどう感じるか」

「ぐっ、結構、かっこいいじゃねーか……!」


 応酬、というか、押され気味だな平くん。

 しかし二人ともたいした熱量だ。あれだけ夢中になれるものがあるのは、すこし羨ましい。

 やりとり自体はなんともしょうもないけど。


「けどそうでしょ? いろんなキャラクターがいて然るべき。ひかえめにはひかえめの魅力が、」

「というかチユキ、自分がひかえめだからそう思いたいだけじゃ?」

「ッ!?」


 ふと、平くんからの何気ない切り込み。

 千雪嬢、あからさまな反応をみせる。みせてしまう。


「おっと図星だったか? まあミノリもナツもアカリもああだしな、気にしないわけにもいかないか」

「……っ」

「にしても他三人は順当に実ったのに、なぜこうも差がついたのやら……海外(むこう)の血が入ってるチユキこそ、むしろ育ちそうなものなのに」

「……ッ、……!」


 好機と見たのか平くん、まくし立てる。

 ついでに自分の顎に手をやりながら、小井嬢を上から下までしげしげと観察。

 無遠慮といえる態度だけど、それを咎める者はいない。それこそ高根沢嬢とかがいれば引っ叩いて止めそうだが、彼女らは用事でもあったのか、すでに教室にはおらず。まあだからこそ二人が白熱した、ともいえる。

 他のクラスメイトも我関せず。というか俺以外もうほとんどいない。

 俺も止める気はない。というか接点のない俺が割って入るのは不自然だ。


「ま、けど気に病むことはないぞ。ひかえめにはひかえめの魅力なんだろ? それに俺も、」


 そうこうするうち、からからと笑う平くんの正面、


「……~~ッ」


 色白の頬を真っ赤にして膨れさせ、ぷるぷる震えジド目で彼を睨む小井嬢が。


「~~帰るっ」

「あちょっと、チユキ? チユキさん?」


 迅速な帰り支度ののち、すたすたと教室を去る彼女。


「チユキさーん? いえ小井さん、なにもそんなスネることは――!」


 あたふたと自分の鞄を取りに行き、慌て気味にそれを追う平くん。

 しばしば見る光景であった。平くんが言い過ぎて小井嬢がふくれっ面になる、という。

 ともすれば折り合い悪そうでもあるが、わりと穏やかにオタク談義してるときもあって。

 なんであれ、あんな妖精めいた美少女と気安いやりとりが出来るのは恵まれている。だからこそクラス、ひいては校内の男どもから妬み嫉みを向けられているのだし。


 俺? 俺は……

 あらためて考えてみても、

 やはり見ていて面白い、というのが裏表のない本音だった。




 さて、ある日。

 なんだかんだ、俺だって件の名物見物ばかりしているわけでもない。

 むしろそれ以外のことやってる時間のほうが長い。学外でならなおのこと。


「近道近道、と……」


 学校上がりからだいぶ経って日も傾いた街中を、歩く。

 バイト先の、おつかいの帰り。懇意にしている花屋へ店内の装飾を受け取りにいった、

 その道中。


「……ッ、――!」

「――!? ~~!」


 左のほうから不意に聞こえる喧噪。ひとつ向こうの通りへ抜ける路地からだ。

 気になったのは、その声になんとなく聞き覚えがあったから。

 興味本位で路地へ入ってみる。


「――もういい、いい加減にして! つきあってられないッ!」

「いやちょ、待てってそんな怒ること、」

「ついて来ないで!!」


 中ほどまで進んだところで、一際大きな声。

 直後、その声の主が俺のいる路地へ。

 俯きがちで足早な彼女はやがてこちらの存在に気づき、


「――ッ!」


 顔を上げ、立ち止まる。

 高根沢夏。

 初めて見る泣き顔の彼女を、綺麗だと思うのは不謹慎だろうか。

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