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“2‐Aのハーレムグループ”_眼鏡ショート 髪留め少女

悪趣味な小説です


 俺は名前を斎藤(さいとう)(さい)という。

 自他ともに認める変な名前だが、月並みな学生生活を送る男子高校生だ。


 通っている高校自体にも、特筆すべきところはない。一応は進学校という体の、レベルは低くないがトップクラスというほどでもないグレードの公立。


 ただこの学校、

 というか俺の所属する二年A組の教室には、名物(・・)がいる。


「ね、今日の数学は大丈夫? ほらあの先生出席番号順に当てるから、そろそろ順番なんじゃない?」


 ツヤのある黒髪をショートにした、眼鏡が理知的な印象を与える美少女。


「わ、そ、そうだったねっ。えと、前はここまでだったから……うう~、ごめん! ちょっとだけ助けてもらってもいいっ?」


 セミロングの髪、左側に特徴的な髪留めをつけたひかえめな印象の美少女。


「ふふ、がんばれー、って言いたいとこだけど、私も順番的にもうすぐなんだよねー。今のうちに予習しとこうかなー……」


 柔らかなロングヘア。全体的に包容力を感じさせる美少女。


「わたしも手伝う? 数学なら、少なくとも二人よりは得意」


 さらにはもう一人。色素の薄いストレートロング。加えていっとう小柄な体躯が特徴の美少女。


 アイドルやモデルに勝るとも劣らぬ美少女が四人。

 それだけでも十分に目を引くが、

 そこに加わるもう一人にこそが、名物の名物たる所以といえるか。


「くぁ、ねみい……」


 気だるげに教室に入ってきた、その一人。

 中肉中背。美形とも不細工ともいえない顔立ち。それなりに整えられた身なり。

 没個性といってもいいその男子生徒は、


「あ、おはよ。また眠そうね、夜更かし?」

「ん? まあそんなとこ。そっちはなにやってんだ? 朝から集まって」

「数学の予習だよー。ほら、あの先生当ててくるからー」

「あ、一緒にどう、かな?」

「パス。俺は順番、もう回ったあとだし」

「だと思った」


 しかしごく自然に、ひとつの机を囲んで勉強する彼女たちの輪の中に入っていく。


 美少女四人に平凡な男一人という、アンバランスな組み合わせ。

 誰が呼んだか、“2‐Aのハーレムグループ”

 あれこそがなにを隠そう、この教室の名物(・・)


「いいの? またテスト直前にひーひー言うことになっても」

「んー? なんとかなるだろ。てか俺、ギリギリのほうがやる気出んだよ」

「ギリギリにならないとやる気出ない、の間違いじゃ?」

「んなことは、ナキニシモアラズ……」

「あ、あはは……」

「相変わらずだねー」


 幼馴染同士だという、気心知れた様子の彼ら彼女ら。

 ただそれだけであれば、あるいは名物(・・)とまでは呼ばれなかったかもしれない。


 眼鏡ショートと薄色小柄からの冷ややかな視線。

 髪留め少女と柔らか女子からの仕方なさそうな視線。

 それらに怯んだのか、はたまた寝不足そうだからその影響か。


「――おっと?」


 不意にバランスを崩し、よろめき、


「わっ、」

「あぅっ?」

「たッ」

「っ!」

「と、――うぐっ」

「!? ~~ッ……」

「あらあら」


 彼女たちが囲う机に突っこむかたちで、平凡男がずっこける。

 結果、

 左右の手はそれぞれ眼鏡ショートと柔らか女子の胸部を掴む格好に。

 加えて、コケまいと足掻く過程で髪留め少女と薄色小柄の胸にも、ご丁寧に手をつきつつ。


「…………ッ」

「あー、えーっと……成長したな、二人とも。いや三人か、」


 顔を上げ、一言。

 その途中、


「ふんッ!!」

「ぐぼぉっ?!」


 案の定か、眼鏡ショートから平凡男の顔面へ、雷霆のごとき手刀。

 思いの外、堂に入った一撃だと思う。


「はーい、いい加減手は離しましょうねー?」

「ったく、なんで毎度毎度アンタはそうなワケ……?」

「ドのつく馬鹿野郎」

「あうう……」


 彼らを名物(・・)たらしめるもの。

 それは結構な頻度で展開される、ああいったべた(・・)な場面にこそあるともいえる。


「チッ」

「はぁ……」

「またやってるよあいつ」


 もっとも教室の、とくに男子からの評判は芳しくないようだけど。

 教室のそこここで上がる舌打ちや溜息。やや抑え気味なのは美少女たちからの悪印象を危惧してか。そのせいか肝心の平凡男当人にも、彼らの不平不満は届いてなさそうだけれども。


 俺はというと、あの名物(グループ)のこと実際そんなに嫌いではない。

 どころか見ていて面白い、とさえ思う。

 だからこそこうして日々密かに観察して、楽しんでいるわけで。




 我が二年A組の名物“ハーレムグループ”

 その構成、個々についてもうすこし詳しく描写してみよう。


「うーん……ダメだ、よくわからん。とりあえず今は丸写しで」

「それじゃ身につかないでしょう、まったく」


 まず一人目。

 休み時間、平凡男の席の脇に立っている黒髪ショート眼鏡女子。


 フルネームを高根沢(たかねざわ)(なつ)

 真面目で理知的な印象で、実態も概ねそのとおり。

 素行よく成績優秀。優等生、という表現がこの上なく的確な子だ。


「そうは言っても時間が――やべえやべえあと三分もねぇっ」

「昨夜のうちにやっとかないから……夜更かしする時間はあったんでしょう?」

「いや人生、勉学よりも大事なことはあるだろう、時として」

「どうせゲームか配信かなんかのクセに」

「……黙秘権を行使する」


 せっせとノートを写す彼と、呆れた目で見下ろす彼女。

 次の授業で提出する課題を忘れた平凡男への、高根沢嬢の温情。彼らと同じクラスになってからたびたび見かける光景。昔からあんな感じなのだろうな、とも察せる雰囲気。


 あれに限らず、他のクラスメイトからも彼女はしばしば頼りにされている。

 責任感が強いのだろうが、場合によっちゃ損な性質だろうか。


「――っし、なんとか間に合った。悪いなナツ、いつもいつも」

「そう思うんならこれっきりにして欲しいところね」

「詫びにコイツをやろう。ガチャで当てた限定アクキー」

「いや、興味のないもの出されても……」

「炎上死ゆえもう二度と出ないだろうVのグッズだ」

「よくわからないけど、あんまり縁起良さそうには聞こえないわね」


 ああいった気安いやりとりは、幼馴染ならではか。

 そういうもののいない俺だから、彼らをついつい目で追ってしまうのかもしれない。


「まあ冗談はさておき、ナツにはいつも世話んなってるしな。なんか奢るか? 今度」

「……えと、じゃあ、次の土日、二人で、」

「――あ! あー、そんならアカリたちも一緒にどうだ? 大勢のほうが楽しいだろうし」

「……はあ。ま、あんたがいいならそれでいいわ」

「あれ? お、おい、ナツさん?」


 それからああいう、やきもきするやりとり。

 こちらとしては楽しいからいいけど……

 高根沢夏。少々気をまわし過ぎなところは、やはり損な性質といえそう。




 続いて二人目。


「文化祭で、司会進行?」


 また別の休み時間、

 つい先程言われた言葉をなかば唖然と鸚鵡返しにする、特徴的な髪留めの少女。


 フルネームは桃枝(ももえだ)あかり。

 ひかえめでおとなしめな印象で、実態もやはりだいたいそのまんまな子。


「そ! まー他にも声かけてるコはいるんだけどさ」

「それでも、やっぱ第一候補は桃枝さんかなーって! なんせめっちゃ声かわいいし!」

「そ、そんなことないと、思うんだけど……」


 現在彼女は、自席にて同じクラスの女子数名に囲まれている。

 用件はやりとりのとおり。来たる文化祭で行われるイベント、そのうちのひとつに司会役として出演してほしいというもの。

 依頼自体は、さもありなん。当人謙遜しているが、桃枝嬢の声は実際独特の魅力がある。平たく言えばアニメ声なんだけど、それだけではないような……上手く言えないけれど。


「それに私、緊張しいだし、ちゃんとできるかどうかも……」

「なーにそんな構える必要ないって」

「多少トチッたって問題なし! むしろそのほうが初々しくて盛り上がるかもッ」

「う、うーん? ――あ! あのっ、声でいったらなっちゃんとか、ゆきちゃんのほうが綺麗なんじゃないかなっ? 私よりずっと物怖じしないし」

「あ~、じつはね」

「高根沢さんたちにはコスコンそのものに出てほしいっていうか……」

「先輩たちからもそのー、圧がね? なんとしてでも着せたい衣装があるとかで」

「そ、そう」

「あ! もちろん司会にも衣装あるからねっ」

「ええっ?!」

「大丈夫だいじょーぶ、桃枝さんあたしらと違ってかわいいんだから!」

「先輩も気合い入ってたし、絶対似合うと思う!」

「司会……私が、コスプレで……」


 当日を想像したのか、桃枝嬢の顔から若干血の気が引く。

 表に出る性質ではなく引っ込み思案気味。……のわりにはさっきさらっと友達を売ろうとしていたような。案外いい根性しているのかもしれないが、そのへんはまだ測りかねる。


 さておき、このままだと司会の件、なし崩しに受ける流れになりそう。

 人前に出る柄ではないだろう彼女だが、だからこそ他人の頼みを強く断れる気質でもない。


「――ふむ、アカリがコスプレで司会。悪くないな」


 加えて、


「あ、高根沢さんらのオマケ」

「勝手に会話に交ざってくんなし」

「俺への認識ひどくね?」


 いつの間にかそばにいて、会話に交ざる平凡男。

 桃枝嬢の心情を察し、彼女に助け舟を出しに来た――


「っと気を取りなおして。やってみたらいいんじゃないか? アカリ」

「え? で、でも」

「昔から言うだろ? やらない後悔よりやる後悔、とかなんとか」

「へーいいコト言うじゃん」

「オマケの分際でね」

「俺の認識……」


 ――のならよかったが、生憎彼もイベント参加を奨励する側らしく。

 思わぬ味方を得た女子たちも、ますます勢いづく。


「でも、その、」

「ほらほら、オマケもこう言ってるし!」

「やってみたら案外楽しーって! みんなで盛り上がろうよ? ねっ?」

「ええと……」


 たじたじ、と桃枝嬢。

 その小動物的な仕草が自身の魅力をより引き立たせていることには、気づいてか、いないでか。

 ともあれ、


「……えと、じゃあ、前向きに検討する方向で」

「うんうん、今はそれでOKOK!」

「とりま参加の意思アリってことで、企画側に話とおしに行かないとッ!」


 結局、予想どおり彼女は言質を取られるかたちに。

 慌ただしく去っていく女子たち。

 それを見送りつつ桃枝嬢、密かに溜息。

 一方その脇で「アカリたちがコスプレを……悪くない、悪くないぞ……!」などと、平凡男がぶつぶつと。ちなみに高根沢嬢ほかの面子は現在教室にいない。というか先の女子たちもそれを見計らったように思う。


「はぁ……」


 やや物憂げな溜息の桃枝嬢。

 なんにせよ彼女もまた高根沢嬢とは別種の、損な性質といえるか。

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