デートとかもしてみたいな
あーるしてーな回は反応いいですね皆さん。
いえ、他意はありませんとも。
「節度を守りましょう」
開口一番、高根沢嬢の言葉。
各々身なりを整え、制服を着なおしてローテーブルを正座で囲む美少女四名。
話し合いの場を設けるようだった。
俺は部屋着姿で、諸々片づけシーツも替えたベッドの縁に腰かけ、後方から見守るかたち。
ちなみに現在翌日、すでに土曜の早朝で。先の片づけやらシャワーやら着替えやらの時間もそうだけど、そもそも四人が意識を取り戻したのがほんの一時間ほど前というのもあり。
ごうんごうん、洗濯機の稼動音を耳にしつつ。
「いくら斎藤君とこの部屋になんか……うん、そういう雰囲気があるとはいえ、それに流されるままっていうのはやっぱり、慎みが足りなかったわ。そう、こっちは四人いたんだし、誰か一人でも自制できてたら、」
「でもいつも以上に盛り上がってたよね、なっちゃん」
「ん。昔馴染の新たな一面を目の当たりにして、こっちまでどきどき」
「~~言わないで! というか、あなたたちだって似たようなものだったでしょうッ?」
「……っ」
桃枝嬢、小井嬢の指摘に膝立ちになって吹き上がる高根沢嬢。
日永嬢は日永嬢で自身を含む昨夜の様子を思い出したのか、真っ赤になって縮こまっている。
というかさりげなく俺にも苦言が。
雰囲気かあ。よく言われるけど本当にそんなつもりはない、はずなんだけど……
「――とにかく! 全員でその、~ってのはよくないわ! 倫理的にもそうだし、斎藤君にも負担は大きいみたいだし」
「あの、ひとついい?」
「はい斎藤君」
「負担を気にしてもらえるなら、そもそももうすこしその、手心を……日程というか、頻度というか?」
「? えと、そんなに連日詰めかけてるつもりはなかったけど……」
「一人ならね。たとえば、四日置きでも四人いるわけだから、ね?」
話の流れを受け、この際だしとひとつ指摘。
「…………」
しばしフリーズ。
「――!!!!」
のちに目を見開く高根沢嬢以下四名。
ほんとに気づいてなかったんだね。
「ひょっとして、」
「今までずっとわたしたち、斎藤にかなりの負担を……?」
「ある種の試練だったね、まあ」
「~~~~~ッ!!」
桃枝嬢、そして小井嬢の呟きに、思わずどこか乾いた笑いが。
わあ、みんな真っ赤。とくに日永嬢なんかもう限界近そう。
実際、どうにかしたいなーとは思っていたのだ。でも間違いなくこちらもいい思いをしているだけに、なかなか言い出せずなんとなくずるずるとそのまま、今日までという具合。
贅沢な悩み? それも、そのとおり。
「……節度を、守りましょう」
高根沢嬢、あらためて自分に言い聞かせるようにも。
そうして仕切り直される話し合い。
……みんななんか思いの外、真剣。そもそもの話として、俺をシェアすることが前提になっているのはその、いいんだろうか、この子たち的に。
いや、それ以前に、
なぜ俺はいまだ愛想尽かされていないのだろう。
現状はいわば四股――本当に文字どおりの四股。
かつての過ちと比べても、なおいかがわしいとさえいえるのに。
物思ううちにも話し合いは進み、
ほどなく話はまとまったようで。決定の詳細は省くけど、俺としても「まあ余裕はある……かな?」くらいには思える程合いではあった。みんなどことなくやりきった感じだし、ならばもう、こちらから異を唱えることもない、か。
ともあれ、本日はこれでお開き。
「……あ、あのー、ね?」
そう気を抜いたところで、
おずおずと手を挙げたのは、日永嬢。
「実乃里? えと、やっぱり不満とか、」
「ううん違うのっ。べつにそこは蒸し返すつもりなくて、だからそういうんじゃなくてー、そのぉ……」
言っていいものか、どうか。
ちらちら寄越される視線。窺えるのは遠慮と、それ以上の隠しきれていない、期待。
いくらかの間。それから意を決したように、
「ええとー、だからその、……するばかりじゃなくってー、ね?
――普通にその、デートとかもしてみたいなー……とかー」
頬染めて、上目遣いで。
思わずぐっと来てしまう一方、
「!」
「っ」
「……!」
カッ、と。
三人の背後には、いつか幻視した稲妻。
「ダメかなぁ? デート、斎藤君……」
「や、ダメじゃあない、ってか、出来るものなら普通に嬉しいけど」
少なくない動揺から、思わずそう本音をもらしてしまえば、
「!」
ぱあっ、と日永嬢、朗らかな笑顔。
他の子らからも「デート……」「デートかぁ」「なるほど」などと呟かれていて。
よぎるのはもう何度目かの思い。
つまりはやはり、いいのかなあ、という。
●
デートはまた来週に、との運びとなった。
いろいろと準備もいるだろうし、場所もじっくりと検討したいようで。具体的にどこへ行くかは各々の希望に沿うとして、こちらから一点、“なるべく近場でないところを”とだけ要望した。俺がどうこうというより、学内で彼女たちに変な噂が立たないように、という配慮。
そんなこんなで、早当日。
約束した待ち合わせ場所、隣街の駅前へと赴けば、
「ごめん、待たせた?」
「ううんっ! 早く来すぎちゃっただけだから、私が……」
時計のモニュメントの下、その姿はすでにあって。
日永実乃里嬢。
此度のデートの発起人。ひいては選ばれた一番手。
他の子たちが謹んで譲った、というほうが正確か。ちなみに今日土曜の彼女に始まり、明日日曜は桃枝嬢、そして来週の土日に小井嬢、高根沢嬢という順番で決まっている。
なおその間、平日の逢瀬はなし、
という決定は特段ないようだけど……そこは考えまい。
今はなにより、目の前の女の子に意識を向けるべき時。
緊張の面持ちで立つ日永嬢。
その服装、トップスは白のピンタックシャツに丈の短いダブルブレストのジャケットを羽織り、色はクリーム。ボトムスもジャケットと揃いの生地、ダブルのボタンのハイウェストスカートで、丈は膝くらい。
足元は白のハイソックスに、ブラウンのローファ。
小振りなピンクのハンドバッグ。ストラップを握る手はすこし硬く。
学校ではナチュラルに下ろしていることが多い髪も、今日は丁寧に結わえられたハーフアップ。
「……」
今日の格好、どうかな?
伺うような上目遣い。
「私服、」
「っ」
「そういえば初めて見たね。すごく可愛い。似合ってる」
「……!」
「ごめんねなんか、あんまり気の利いたこと言えなくて」
「全然っ、あの……ありがとう、すごく嬉しい……っ」
「うん」
恥ずかしげに俯かせた顔は、けれども嬉しそうにはにかんでもいて。
そんな彼女に、しばし見入ってしまう。
こんなにも魅力的な子とデートができる、あらためて果報なことだと思う。
「あのっ、斎藤君も私服、すごく格好いいよ!」
「ん、ありがと」
勢い込んでそう言ったあと、こそっと「やば、まともに顔見れないかもー……」と小声の日永嬢。
次いで視線を、ちらちらと。
窺う方向を察し、
「それじゃ、そろそろ行こうか?」
駅から離れるほうへ向く。
左腕を、軽く上げつつ。
「! ……」
わずかな逡巡。
それから、
「ッ!」
ハンドバッグを腕に下げ、空いた両手で俺の腕へ飛びつく。
腕組み。
手を繋ぐだけもいいけど、こちらのほうが喜んでくれる気がして。
さて当の日永嬢、嬉しさは窺えるがそれ以上に緊張でいっぱいいっぱいの様子。
柔らかな胸の奥からバクバク鼓動が伝わるようで……
「……やっぱりいったん離れる?」
ふるふる。
それはお嫌らしい。
「じゃあ慣れるまで、ゆっくり歩こうか」
こくり。
ひかえめな頷きを受け、俺は彼女を連れおもむろに歩を進めはじめる。
デートの前半は、そんなゆったりとした散策。
駅近くの川べりやそばにある公園、それからアーケード街へ続く道なんかを、のんびりと。
そうしているうち、日永嬢も次第に緊張が解れてきたようで。
交わす言葉もぽつぽつと増える。今日はいい天気でよかったね、とか、あそこにいる鳥さんかわいーね、とか、そんなたわいない会話だけど。
ふと、間近の彼女がこちらをじっと見上げているのに気づく。
どうかした? と視線で問えば。
「なんだか斎藤君、すごくごきげんだなーって」
たしかに、そのとおり。
いい天気で、零距離の隣に美人さんがいて。
そのうえその子は、疑う余地もないほど自分に好意を寄せてくれていて。
嬉しくもなろうもの。
本当に果報なのだ。過分なほどに。
そんな胸のうちを噛み砕いて口にすれば、
「そう思ってもらえて、嬉しい。私も、すっごい幸せー……」
やっぱりすこし恥ずかしげに顔を伏せて、
けど同時に、俺の腕に頬擦りするように身を寄せ、日永嬢は小さくそう呟く。
足取りも気持ち、ふわふわと。転んだりぶつかったりしないかちょっと心配になるほどに。
まあ、大丈夫。こちらがしっかりエスコートすればいいだけのこと。
アーケード街に差しかかったところで、すこしどこかに入って休もうかということになった。
のんびりとはいえ結構歩きまわったし。正午にはまだ早いけど、ついでに昼食も済ませてしまおう――ということで、
「こんなとこにお店あったんだねー」
「俺も気づいたのは最近。いつか来たいと思ってて、ちょうどいい機会だから」
訪れたのはメインの通りからすこし外れた路地の喫茶店。
見るからに老舗感があって学生にはちょっと気おくれするけど、デートなら背伸びもいいかなということで、入ってみた次第。
「よく知ってたねー。どーやって見つけたの?」
「や、そんな大層な理由はなくて。散歩、わりとしてるから、それで」
「ひとりで?」
「ひとりで」
言いながら奥のほう、二人がけのテーブルに着く。
外観どおりそれほど大きなお店ではない。バイト先の1.5倍くらい?
込み具合は、カウンター含め席がひとつふたつ空いている程度。客の年齢層はやはりやや高めで、少なくない人数(ほぼ男)が日永嬢の容姿に目を引かれた様子。
さもありなん。ここへ来るまでもだいぶ注目されていたし。美人さんが幸せそうに歩いているのだ、目が行くのは仕方ない。目が行って、それから隣に俺がいることに落胆したり妬ましげな目を向けられたり。
「……」
「斎藤君?」
「いや、あらためてほんと美人さんだなあ、って」
「えっ、え? いきなりなんでっ、そんな」
目に見えてうろたえる彼女に、今日の道中でのことを話す。
すると、
「…………」
ちょっと、ジトッとした目。
あれ? なにゆえ。
「……斎藤君もだよ?」
「?」
「いっぱいいたよー、すれ違うたび見てくる子っ」
「あー」
「気づいてなかったー? ほんとにー?」
「やーうん、まあ、」
どうやら注目されていたのはお互い様だったようで。
責めるというか、やきもちの視線。
けど言わせてもらえば、仕方のない話で――
「日永さんしか見てなかったから、今日は」
野郎の不躾な視線は気にかかる一方、
異性は間近の、とびきり魅力的な子しか目に入らないのは、やはり不可抗力なのでは。
そんな本音を口にしてみれば、
「……ぁぅ」
沈黙。
ぷしゅぅ、と湯気でも見えるかのように、彼女は真っ赤になって俯いて。
そんなことがありつつも、休憩と軽食はきちんととって。
日永嬢はサンドイッチとコーヒー。俺はコーヒーとナポリタン。
互いに一口ずつ、食べさせ合ったりとかもしたりしつつ。
その後はアーケード街を、二人でぶらぶらと。一応、今日のデートのメインになるのか。
いわゆるウィンドウショッピング。服や靴、小物なんかを見てまわったり、文具屋さんに入ってみたり、あとペットショップなんかも覗いてみたりして。
おやつ時には、またべつの喫茶店なんかで休憩したり。
特別なことはない、ごくありふれたデートコース。
最初の緊張も今は鳴りをひそめ、彼女は朗らかに、幸せそうで。
それだけで俺としても充分。来てよかったと心から思える。
けど、だからこそか。
不意に浮かぶのは以前も覚えた疑問。
なぜ、この子はこんなにも自分を好いてくれているのか。
「あの、」
「?」
「こんなこと、今聞くことじゃないかもだけどさ」
歩く途中、ややためらいもしたが、
「……どうして日永さんはその、俺のことを? いやごめんね、気持ちはもちろん嬉しいけど、まったく心当たりがなくてさ、あいにく」
結局聞かずにはいられなかった。
正直、気になるし。思いついた今聞かないと、また忘れて流してしまいそうだし。
ある意味あんまりな俺の問いに、
「んー……」
彼女はこちらをじっと見上げ。
なにかを探るような。
照れたり見惚れたり、そういう色のない視線は初めてで、すこし緊張。
ややあって、視線はふと外れ、
「……覚えてないんだ、やっぱり」
ぽつりと、小声。
「それって、」
「――ん、なら私も、話さなーい!」
思わずの問いかけをすり抜けるかのように、
俺の腕から離れ、タタッと二、三歩先へ行く日永嬢。
「と、いうかー」
言いつつ、くるりと振り返り小首を傾げ、
「……できれば斎藤君から思い出してほしいなー、って」
悪戯っぽい表情。
あるいは今日一番、どきりとさせられたかもしれない。
悩ましくも返答に窮するうち、立ち止まっていた彼女は再び俺の腕をとって。
「期待、しててもいいかな?」
そう言って、覗きこんでくる。
降参だ。
理屈を超えて、そう思う。
その後のデートは平和裏に終わったけど、
解消されない疑問はあるいは、以前よりも大きく心に居残るようで。




