ごっこ遊び
感想ありがとうございます。
そして今度は“リア転”が浮上……!? まあもらえるものは、ありがたく。
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バイト先を見てみたいという要望が上がった。
『斎藤くんのバーテン姿ー、なっちゃんだけ知ってるのはずるいと思いまーす!』
とくに日永嬢が強く希望したらしい。
俺に否やはないけど、未成年がバーに入り浸るのはやはり問題なのではないか。
「いいわよ? お店開けるまでなら好きになさい」
相談即許可。
雇い主兼保護者の伯母、柏木佐和さんが軽くそう答えたので――
「おお」
「わ、すごい。オトナの雰囲気……」
「――!!」
仲良し美少女四人組による訪問は叶う。
小井嬢、桃枝嬢、そして日永嬢がまず正面入り口から顔を見せ、店内を見まわし、
……うち一人は視線を一点にして微動だにしなくなっちゃったけど。
ひとり遅れて高根沢嬢も。
友人たちの様子に、なぜかちょっと得意げ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
「わ、斎藤君……」
「これは、また」
「ね、やっぱり驚くわよね? ほんとになんで学校ではもっとキチンとしないのやら」
とりあえずこちらは普通に接客の体。
正面のカウンターに着く桃枝嬢、小井嬢が感心したような顔。
その隣に着く高根沢嬢、余計なお世話です。いいじゃありませんか学校でくらい気を抜いても。
そこでふと、ひとり立ったままの日永嬢。
「…………しゅき」
ぽつりと。
なんか……大丈夫? もうすでに事後みたいな様相だけど。
「あっ、のんちゃんがここ座る? ごめんね斎藤君の前取っちゃって、」
「ッ、イイ! ダメッ、ムリ! そんなずっと面と向かってたら、心臓爆発しちゃう……っ」
腰を上げかけた桃枝嬢へ、全力で断りを入れカウンター奥側の席へ着く日永嬢。
俺からすると右斜め向かいから、俯きがちに時折ちらちら窺われる。
「ぴゅ、ピュアだわ、ほんと……」
「どピュア」
そんな様子にお友達までもがほんのり頬染めている。
あたかも恥じらいが伝染したかのような。
「えっと……とりあえずご注文は? あいにくアルコールは出せませんけど」
「あーそうね、それじゃあ私は……前に最初に出してくれたやつ。なんだかんだ、あれが一番好みだった」
「畏まりました。他の方は? 好みを仰って頂ければそれに合わせますが」
ひとまず接客に勤めよう。高根沢嬢を皮切りに、他の子たちからもおずおずと注文が。桃枝嬢は「なっちゃんと同じもの」、小井嬢は「なんか苺系のやつ」、そして日永嬢からは「おまかせします……っ」とのオーダー。
あらためて「畏まりました。少々お待ちください」と一礼して作業に取りかかる。まずは材料を取りに冷蔵庫へ。ベースとなるお酒、はもちろん無視して炭酸水、各種ジュースとフレーバーシロップ等々を取り出して並べ、作業開始。
「……」
「……」
「……」
「…………っ」
めっちゃ見られてる。
おしゃべりとかしてくれてて構わないんだけど……いやこちらから話題を振るべきか。でもそれもためらわれる空気。
四人ともが、無言。
しかも心なしぽーっとした感じの。
とくに日永嬢から発せられる熱意が顕著。視線からハートがびしばし飛んでくるかのよう。
……そんなにこう、褒められた仕事ぶりでもないんだけど。いまだ店主の見様見真似の域を超えていない自覚がある。
けどまあ、思えばこの場がそういうものか。
半人前以下のバーテンと、未成年のお客。
雰囲気だけの、ごっこ遊び。
「お待たせしました。……今日は雰囲気だけで酔わないでね」
「だ、大丈夫よッ、たぶん」
やがて出来上がったものを順次提供。高根沢嬢は幾分慣れた感じだけど、やはりこういうお店は初めてなのだろう他の子たちはやや緊張しつつ、おもむろにそれぞれグラスに口をつける。
「! なんか、うん、上品な感じ……?」
「ん、いい甘さ」
「……私この味、すき、です……」
反応は上々。とくに日永嬢なんかは驚いているけど、じつは皆の好みはなんとなく把握しているからね。たとえば桃枝嬢なんかは、もっと刺激の強いのが好みなんだろうと思う。ひとえにこれまでの観察の日々の賜物……って言うとちょっと、いやだいぶ気持ち悪いな。
てか、なんかまたさりげなく日永嬢からの好感度を上げてしまったような気も……
雰囲気を変えるためにも今度こそこちらから話題を提供しよう。まあ無難な世間話あたりを。おもに学校まわりの、当たり障りのない日々のことから始まり――
「――あ、そういえばまだ話してなかったわね。斎藤君と仲がいい、可愛い子のこと」
!? を三人の背景に幻視した。
「高根沢さん……またそんな、誤解を招くような言い回しを」
「ふふん、嘘は言ってないでしょ?」
「な、なっちゃん? な、ななななな、」
「実乃里がバグッた」
「気になるお話……詳しく聞かせて? なっちゃんっ」
してやったりの高根沢嬢。ちょっと可愛らしいのが小憎たらしい。
一方、日永嬢は言うに及ばず、他の子にも少なからず動揺は見てとれる。
けどそれ以上に桃枝嬢がなにやら期待しているようなのが、恐い。よもやあいつも交ぜたいとか言い出すまいな。
断固阻止するためにも俺から本当のところを説明する。
奇特な女装野郎、相戸結。とくに含むところのない、ただの友人。本当に友人。
「そうなんだ……もぉーなっちゃんびっくりさせないでぇー」
「あははごめんね、つい」
「なるほどあの。斎藤の友達だったんだ」
「ゆきちゃん、知ってたの?」
「去年、教室まで見に行った。リアル男の娘がいると聞いて、いてもたってもいられず」
「へー、ウワサは私も知ってたけど……そんなに可愛かった?」
「奇跡を見た。あれは本物」
「ほ、本物かー……」
小井嬢の断言に、なんといっていいかわからない様子の桃枝嬢。
実際すごいのは確か。あんなでも体育の時とかはまあまあ男に見えるんだけどね。
「斎藤君のお友達……お友達、なんだよね?」
「お友達です」
だから期待を視線にこめるのはやめて桃枝さん。
あと高根沢さん、忍び笑いしてるけど仮に彼女の思惑どおりになったら確実に巻き添え食うからね君も。
そうならないためにも、今度こそ話題をまったく別の方向に逸らす。
甲斐あってか、それからはまた取り留めのない話に。
最近あった面白いこととか、動画の話とか。
ここにはいない他の友達の話も。聞くにこの中で一番顔が広そうなのは、やはり高根沢嬢っぽい。あと小井嬢にも独自のコミュニティがあるようだ。漫研とか、現代文化同好会? みたいなとこに顔が利くようで。
俺の話もいくらか聞き出される。先の相戸のこととか、あともう一人つるんでる友人のこととか。
「……意外だけど、案外楽しくやってそうなのね。教室じゃずっと静かにしてるのに」
「いや、ね? なんとなく合う人がいない感じというか」
「でも実際、ちょっと想像つかない。友達とわいわいやってる斎藤」
「というかそれ以前に、男子同士の友達がどうしてるのかからわからないかも。ね、なんの話とかしてるの?」
聞きの姿勢の桃枝嬢と日永嬢からも、うんうんという頷きが。
……どうしたものか。悩むというより話すほどのこともないというか。
「べつに普通、かどうかはわからないけど、ほんとくだらないことばっかだよ?」
「たとえば?」
「たとえば……うーん、ああこのあいだは、う〇い棒から五本選ぶとしたらどの組み合わせが最強か、とかでちょっと盛り上がった」
「ほんとにくだらないわ……」
「でもちょっとたのしそう」
案の定苦笑い気味の反応を頂戴した。小井嬢だけ興味を引かれたようだけど。
そんななかふと、桃枝嬢がちょっと感慨深げに。
「けどそっか、斎藤君たちはそんな感じなんだね……あ、えと、そんな深い意味はなくて、私はほら、男の子同士が普段どんな感じなのか、あんまりよく知らなくて……」
「あー、あかりちゃんはー……」
「まあ、ね。私も私でちょっと偏見あったかも。年がら年中やらしいことばかり言ってるイメージあったわ、男子って」
「いやあながち間違ってもいないよ、そこは」
日永嬢、高根沢嬢のすこし含みのある様子は気になったけど、
それはそれとして頷けるところも。俺のことは置くとしても相戸、あんな見た目で平均的思春期男子の性欲持ちだし。そのうえ美少女好き。もうひとりのほうも……まあそこそこ拗らせている。
「やっぱりそういう話もするんだ、斎藤も友達と」
「まあ」
「男子ねぇ……、――って?! まさか私たちのことも話したりとかッ、」
「してないしてない。さすがにそこは言わないよ、誰であってもね」
「そ、そう。よかった……」
「君たちと違って」
「ぅぐ」
取り越し苦労を取り除くついでに、意趣返し。
ほんとにねえ。桃枝嬢のときはこちらにも落ち度はあったけど、その後の口コミについては今でもどういうことか問い詰めたくなる気持ちが正直あるわけで。
とはいえ、なにかしら実害を被ったというわけでもなく。
むしろ同性に知られれば羨みを超えて恨みさえ向けられそうな現状、そもそもとやかく言える身分にないところなのが実情で。
あらためて、思う。
なんなんだろうね、この状況。
「――盛り上がってるとこ、悪いけど」
と、
「タイムアップよ。そろそろお店開ける準備しなきゃ」
「あ、すみませんっ」
「もうこんなに時間経ってたんだ……」
顔を出したるは店の主。
佐和さんの呼びかけに、それぞれの反応を見せる彼女たち。
されど一様に、そこはかとなく漂うのは、名残惜しさか。
「……そうね、続きは上でやんなさい。そして甥っ子、あなたには特別業務」
「引き続きお相手を?」
「わかってるじゃない」
察したのか、あるいは初めからそのつもりだったのか。
店主より業務命令。雇われの身として、こちらも異を唱えられようもなく。
お相手の方々からも程度の差はあれ嬉しそうにされれば、それはもう、余計に。
「材料、使いかけのなら持ってっちゃっていいわよ。ああ、あとついでにこれも」
「これは?」
「どこかのお土産。つきあいで貰ったものだけど、私の好みじゃなさそう」
ついでに棚から取り出した異国情緒あふれる箱も押しつけつつ、ひらひら手も振られる。
ひとつ息吐き、四人に目線を。
そうしてついて来るよう促し、バックヤードから階段に続く廊下へ。
「……カッコいいよね、店主さん」
「ね。本当に」
「リアル女傑?」
「ああいう風になれたらいいよねー」
人気者だなあ、佐和さん。さもありなんではあるけど。
同性には憧れとして映るらしい。けどみんながあんなになるのは……うん。出来ればご勘弁。
それからは四人を俺の居室へと上げて――
――上げて……
「ーっ、ー……っ」
「…………」
「♡♡♡……!」
「――……ッ」
絶え絶えの吐息。
むせ返るような臭気。
汗その他諸々でぐしょぐしょになったベッドシーツ。
ベッドに、あるいは床に、無防備に投げ出された一糸まとわぬ女体。
それらは言うまでもなく高根沢嬢、桃枝嬢、日永嬢、そして小井嬢の四名で。
「……」
俺はというとベッドの縁に座り、一応腰だけタオルで隠して。
有り体に、反省。
薄々こうなることはわかってたろうに。それこそ、さもありなん。
ただ、ひとつだけ、
「……とりあえずその、四人いっぺんはさすがに俺もキツい、です」
言わずにはおれない。
意識も定かでない子たちに、はたして届いたのかどうかわからないけど、それでも。
そこで限界、脱力。
誰かに折り重ならないようにだけ注意しつつ、ベッドに横たわる俺であった。




