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いかなる男なのやら

感想をいただいていました。ありがとうございました。

個別の返しなどができないのは、もうしわけなく。


〈side:Chiyuki〉


 みんなの様子がおかしい。


 数日くらい前だろうか――まずなつ、高根沢(たかねざわ)(なつ)が挙動不審になった。

 やけにぼーっとしてるかと思えば、急にいつも以上にキリッとしだしたり。


 次の日からはあかり、桃枝(ももえだ)あかりもへんになりだした。

 夏と一緒に妙にそわそわしたりして。


 それから一日跨いで――

 今度はみのり、日永(ひなが)実乃里(みのり)までおかしくなっていた。


「えへへへぇ……」


 それも結構やばめな感じに。

 いつものほほんとしてる子だけど、今日は輪をかけて締まりがない。

 例えるならかんたん作画。油断しきった笑顔は口の端からよだれが垂れそうなくらい。

 機嫌がいい、というレベルじゃない。そのまま融けてしまうんじゃなかろうか。


「ミノリのやつ、どうしたんだ?」

「わからない。わからないけど……」


 察しの悪い公助、(たいら)公助(こうすけ)ですら気づく有り様。

 適当に応じつつわたし、小井(いさらい)千雪(ちゆき)はちら、と視線を移す。


「!」

「……っ」


 気づいた二人、なつとあかりに目を逸らされる。

 やはり二人は知っているようだ。みのりのおかしさ、その理由を。


(まあ先におかしくなったのはあっちだし。無関係なわけはない、と)


 ここのところ放課後はどこかへ消えていたし。

 疎外感は、正直あった。

 趣味にかまけて深く追求しなかったわたしもわたしだけど。


 しかし、ふむ。

 事ここに至れば、問い詰める権利くらいわたしにもあろう。


「けど、なんだ?」

「……ん、べつに。たいしたことじゃない」


 公助(こやつ)は、一緒でなくてもいいか。

 あるいは女子同士でしか話せない問題かもしれないし。


「ふーん。しかし気になるな。や、ミノリがほわほわなのはいつものことだけど、あんなになるのは今までなかったよな? ――よし! ちょっと聞いてくっか」

「あ、ちょっ」


 思った端から、その公助が動く。止める間もなく。

 もう、いつもぐずぐずしているくせに、なぜああも変なところで思い切りがいいのか。

 そうして向かっていったはいいが、


「おーいミノ、っと!?」


 やや急ぎ足だったからか、

 とくになにもないところで蹴躓き、ぐらりとバランスを崩すあやつ。


「うおお……!」


 妙に間延びしたよろめき。

 もがくように前に出る右手。その先はちょうどみのりの座っている位置で……

 ああ、また、いつもの(・・・・)か。

 わたしがなかば呆れたところで、


 ぱしっ、


「!? うおあっ?!」


 どたーん! と。


 ……一瞬の出来事を、呑みこむのにしばし要した。

 公助の右手がみのりの、あからさまに胸部を捉える瞬間、

 それまで融けていたとは思えないほどみのりが素早く動き、左手で公助を払いのけた。

 あやつも思いもよらなかったか、結果としてさらにバランスを崩し机の脇へ倒れた、という流れ。


「そそっかしいのは大目に見るけどー、」


 いつの間にか居住まいも正しているみのりが、


「そーいうおいたはもう(・・)ダメだからねー? 公助くん」

「ミノリ……?」


 いつもの笑顔で、子供を相手にするような口調で、諭す。

 それを公助は呆然と見上げていた。みっともなく転んだ姿勢のままで。




 学校終わり。


「で? 一体全体、なにがあったの? みんなに」


 自室になつ、あかり、みのりの三人を集めて、わたしは問いかける。


「……」

「……」

「――……」


 やや気まずげに目を逸らすのはなつとあかり。

 みのりはというと、またどこかに旅立っている様子。ここへ来るまでもちょっと危なっかしかったけど、当人幸せそうなのはいいのか、いっそ余計に悪いのやら……


 ちなみに三人とも、なぜか床に並んで正座の構え。わたしはゲーミングチェアに着いて向き合っているんだけどなんか、手下にパワハラ詰めをしている悪の親玉の気分。見下ろすかたちになってしまっているのがいけないのか、あ、それとも足を組んでるせい?

 モノの多さで部屋が手狭なのも雰囲気を助長しているのかも。それこそなつたちの部屋のほうがゆとりはあるけど、今回は問い質す側の義務(?)として、こちらから招かせてもらった。

 ともあれ、


「べつにみんなを責めようって気はない。ここんとこ趣味優先してたのはわたしのほうだし。けど……こんな、これは、さすがに気がかり。いったいどうしちゃったの? みのりは。ここ数日のことが、たぶん関係あるんだよね?」

「……」

「……」

「えへへへー……へ?」


 今一度、みのりを見やりついでに指でも示して、言う。

 なつもあかりも、苦笑い。

 そして当人はというと、皆の視線が集まってようやく気づくという有り様。

 雰囲気こそほわほわだけど、一応この中では一番しっかり者のはず。

 それが、こんな。余程のことがあったのだと、察するに余りある。


「どしたのみんなー? えっとー、なんの話だったっけ」

「みのりの話なんだよなあ……。でも、ちょうどいい。語れるなら当人から語ってもらおう」

「えー、なにをー?」

「昨日なにがあったの?」

「…………」


 トリップからの帰還をいいことに、訊ねてみる。

 するとみのり、またしばし応答なし(フリーズ)ののち、


「――えへへへへぇーダメだよそんなーいくらゆきちゃんだからってそんな……やー! そんなのとてもとても言えな……やぁーダメぇ! 言えないよそんなぁ……っ!」


 真っ赤になっていやんいやんしだした。自分を抱きしめるようにして、くねくね。

 駄目なのはおまえのその全体的なすけべさだ。見ろ、ゆさんゆさんしておる。


「……彼奴の転変にはうぬらも関与しているようだが」

「! ど、どうする? なっちゃん……」

「……話しましょう。というか、もとよりそのつもりで来たんだしね」


 これはもうあかんと残り二人に向きなおる。

 あかりの窺う視線を受け、なつが溜息。

 諦めたようなその様に、洒落にならない話が出てきたらどうしよう、とふと不安になる。

 ……よもや法に触れる所業とか、みんなに限ってさすがにそれはないよね?

 や、みのりの飛び(・・)具合を見ると、つい……


 それから、おもになつが語ったここ数日の顛末は、

 たしかにある意味では、洒落にならない事実ではあった。


「お、おおおち、おちつおちけおつち……」

「うわあ大丈夫?! すっごいカクカクしてるけど!?」


 おっと、予想外すぎて不具合が。なつたちのおいたわしげな視線を受け、すこし冷静になる。

 しかし……へー。三人とも。へえー。


「みんなもう知ってるってことか……あのモザイクや海苔的な修正の向こう側を」

「……どこからつっこもうかしらっ。そもそもそういうの自体、私たち学生が知ってちゃいけないものなんじゃ……?」

「この作品に登場する人物は、すべて十八歳以上です」

「急になに言いだすのっ?!」


 感慨からの呟きにも律義につっこんでくれるなつ。

 他二人は真っ赤になって顔を伏せている。思い出したのだろうか、なつもまた顔が赤い。


「けど、さいとう……さいとうって、どれ?」

「どれって……ほら、廊下側の、一番後ろの席の」

「? ――ああ、あの置きものみたいなひと」

「置きもの」

「ちょっとデカめの、モジャ髪メカクレボーイだよね? あれが竿役か」

「だから言いかた……ッ!」


 あ、「竿役」であかりがツボって蹲ってしまった。へんな笑いどころのある子だ。

 というか、うーん。思い浮かびはしたけれど、まだ印象がぼんやりしている。たしかに教室に入るたび目につく位置だけど、記憶に留まらないのはやはり喋ったことがないからか。まあ趣味が合わない限り誰かと話したりしないわたしなのだけど。異性ならなおのこと。


「にしても、やっぱり意外。思わぬヤリ手だね、あの地味ボーイ」

「そこなんだよぉ、ゆきちゃん! 斎藤君すっごく目立たないようにしてるしー、だから学校の子たちも誰も注目しないと思ってたのに~~っ!」

「しかも最初に毒牙にかかったのが、なつ」

「そうね、ほんともう、面目ないやら居た堪れないやらで……」


 正座のまま小さくなっていくかのようななつ。

 わたしはといえば、みのりに縋りつく勢いでかっくんかっくん揺さぶられている。力つよ。


 思えば今回なにが意外って、みのりが恋する乙女だったのがなによりそうかも。

 しかも相手が地味モジャボーイ……うーん、公助はないにしたって(・・・・・・・・・)、もっと他にいい相手もいそうなものでは? ほら、学校でも評判のイケてる(死語?)先輩とか、いろいろ告白されていたわけだし、この子。


(ま、もとよりわたしにはピンと来ない話だけども。現実(リアル)の男の魅力)


 架空の人物(キャラ)ならいくらでも語れるのに。その魅力、その尊さ。


「……それで、ゆきちゃん」


 不意に、

 今までおとなしかったあかりから、問いかけが。


「む?」

「ゆきちゃんもひょっとして、興味湧いたりした? つまりその、斎藤君と、そういうこととか……」

「ちょっ!?」

「あかりちゃん?!」


 むしろ自分こそ興味津々、な上目遣い。

 そんなあかりになつ、みのりが弾かれるような反応。

 うん。たぶんわたしも、二人と同じ気持ち。


「お前は何を言ってるんだ?」

「え? あれ? そういう流れじゃなかった……? てっきりゆきちゃんも……だってその、えっちな漫画とかいっぱい持ってるし……」

「表紙の女の子がえっちな格好でもね、えっちメインの漫画とは限らないのだよ」


 オタク事情にさほど詳しくない友人に、そう優しく諭してあげる。

 というか、なんだ。すけべな女だと思われていたのか、わたしは。そりゃまあオタクとエロスは分かち難く結ばれているものだけれど、だからってそればかりというわけでも。

 部屋の本棚の背表紙を軽く眺めてみる。

 ――うん、勘違いもやむなしやも。表に出ていない裏の棚の、やたら大きなパッケージ群にも思いを馳せつつ、そう断ぜざるをえないわたし。


「でもでもっ、みんなしたのにゆきちゃんだけ仲間外れっていうのも……っ」

「謎の気遣いをどうも。して、本音は?」

「……ゆきちゃんも加われば、そのうちみんな一緒にできたりー、とか」

「このすけべ女がよ」


 とんだ性癖の持ち主もいたもんだぜ、一番清純派みたいな見た目してるくせに。


 あるいは、あれか。

 相手が相手だからこそ、みんなこんなにもおかしなことになってしまったのか。


「斎藤哉、か」


 ひとつの決意。

 見極めようではないか。彼の者がいかなる男なのやらを。

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