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王女は"ざまぁ"されるほどの罪を犯したのか  作者: myano


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第8話 発展

 俺たちがこの街――ルインハムに来てから2か月ほど経った。

 これまで『拠点』として使っていた建物は『政庁』と呼び方と機能を改めた。

 屋敷や宿、民家がまだ完成していないので、この街にいる全員が未だに政庁で寝泊まりしているのだが……。


 今日、俺たちは街を歩いて街づくりの進捗を見て回っている。

「少しずつ生活に必要な施設が出来てきましたね。……なんであなたの屋敷はまだ着工すらしてないんですか?」

「ウチの屋敷は最後や。自己中心的やと思われたくないからなぁ」

「そんなことを言って、政庁に住み続けたいだけでしょう!」

 今日もフィーナとノエルは仲良く『喧嘩』している。これには俺もノワール兄妹も苦笑するしかない。

「診療所を建ててくださってありがとうございます! すごく綺麗で感動しました!」

 シエナが満面の笑みで感謝を伝えると、ノエルが頬を赤く染める。珍しく照れているようだ。

「シエナは何で政庁のすぐ近くなんて場所を選んだのかしら?」

「た、たまたまですよ」

「ウチの屋敷の隣が良かったんよなー。カワイイわぁ」

「ノエルこそ、何で政庁の隣に屋敷を構えるつもりなの!?」

 女子3人がワイワイと話している。

 これでも何だかんだ仲が良く、3人で一緒に居るところをよく見かける。

 本当に険悪なら一緒に居ることも無いはずなので、これが彼女たちの距離感なのだろう。



 俺たちは政庁のすぐ北側にやってきた。

 目の前には教会の用地があり、その奥には建築中の兵舎が見える。

「ここが兵舎と教会の予定地ですね。間に墓地が入る予定です」

「考えたくないけど、兵舎と政庁の間に教会があるおかげで兵士たちが反乱を起こしても時間が稼げるな」

「はい。わたくしのアイディアです」

 フィーナが得意げな顔をして胸を張る。

 俺は政庁の隣に兵舎を建てるつもりだったが、彼女のアドバイスを受け入れた。

「設備が整い次第、オレたちは兵舎に移動だな。今から楽しみだぜ」

 クロウが兵舎での生活に思いを馳せるが、その未来は即座に否定される。

「お兄様、わたしを一人にするんですか……?」

「うっ!?」

 シエナが潤んだ目でクロウを見つめる。

 今のところ治安は良いが、街には血気盛んな男たちがたくさん居るから一人で眠るのは不安なのだろう。

「……分かった。オレも診療所で寝泊まりしよう」

「ありがとうございます!」

 シエナの表情が、ぱあっと輝く。二人の兄妹愛に、俺たちの顔もほころんだ。



「ここが市場の予定地ですね」

 俺たちはルインハムの中心部にやってきた。ここは、東西と南北それぞれの城門を結ぶ道の交差点なので、商業の中心地になると見込んでいる。

 今は真ん中にポツンと井戸があるだけで、他には何もない。

「ウチの店はあそこに建てる予定や。どうぞごひいきに」

 ノエルはそう言って、交差点の南西寄りを指さす。彼女は『建築順は最後の方で良い』と申し出てくれたので、実際に店が出来上がるのはもっと先になるだろう。

「まだ露店すら無いな」

「人が少なすぎて商売が成り立たないのでしょうね。でも、時々商人や旅人が来ていたみたいですよ」

「そうなのか!?」

 不思議と嬉しい気持ちになる。

 彼らがそのまま住んでくれるような、魅力的な街を作りたいと思った。



 次に、俺たちは建設中の酒場にやってきた。

 酒場といっても、従業員や店主が居ないので、建物の一部だけがある状態だ。

 料理のための設備はあるので、俺たちや職人たちの食事を作るために活用している。


「では、わたしたちは食事の用意を始めますね」

「頑張ろうな! アイツら、めちゃくちゃ食べるからな……」

 そう言いながら、ノワール兄妹は白いエプロンを身に着けていく。

 街の工事が始まってから、二人が全員の分の食事を作っている。

 現場の仕事は体力勝負なので、お腹が空くと力を発揮できない。職人たちの胃袋を満たせるだけの食事を毎日作るのは大変そうだ。

 にもかかわらず、栄養バランスと食べ応えに気を遣った献立を、毎日考えているから恐れ入る。

 二人の料理は『美味しいうえに飽きが来ない』と職人たちからも大好評だ。


 余談だが、シエナの白エプロン姿を見た誰かが、彼女のことを『白衣の天使様』と呼んだ。

 すると、その呼び名は職人たちの間にも広まった。

 シエナは恥ずかしそうにしていたが、俺は良い愛称だと思う。



 視察を終えた俺とフィーナ、ノエルは政庁に戻り、現状と今後について確認する。

「今のところ、作業の遅れはなさそうだな」

「はい。まだまだ先は長いですが、滑り出しは順調ですね」

「問題は資金やな。ウチの手持ちもあと半年ほどで枯渇するから、何とかして稼がなあかん」

 資金面をいつまでもノエルに頼るわけにはいかないし、何か収入源を確保せねば……。

「フィーナ、移民は来てる?」

 街に人が居ないと何も始まらないので、俺たちは移民を呼び込むための手を打った。

 一番の目玉は5年間税金を免除したことだ。彼らから直接税金を取らなくても、この街の経済を回してくれれば、結果的に税金が入ってくる。

「一応来ていますが、期待したほどではありませんね。やはり、僻地なのが災いしていそうです……」

「そうか……。商人たちはどうだ?」

「市場を整備したことで、ノエル――シュンカ家以外の商人も来るようになりました。まだ露店の段階ですが……」

「まあ、この段階でちゃんとした店を構えようとは思わないよな」

「旅人でもええから人が()れば、もっと商人も来ると思うで」

 こういうとき、商人目線の意見をくれるのはありがたい。しかし、旅人か。

 しばらくアイディアを出し合ったが、旅人を増やすための良い案は出てこなかった。



「この街に観光名所でもあればなぁ……」

 考え疲れたので投げやりにそうつぶやく。

 すると、ノエルが冗談半分といった様子で食いついてきた。

「政庁前の広場にウチとクライム様の銅像を建てるのはどうや? 恋人の聖地として売り出したら観光名所になるんちゃう?」

「却下です。そんなお金のかかるものを作ってどうするのですか」

 そもそも俺たちは恋人じゃないから詐欺だよな。ご利益(りやく)も無さそうだ。

「じゃあ、クライム様の右隣にウチ、左隣にフィーナなら?」

「…………却下」

 フィーナ? なんで迷ったの?

「クライム様の像を作るんですか!? 肉体の再現はわたしにお任せください!」

「シエナ!?」

 キミだけが良心だったのに! どうしてこうなった!?



「そういえば、何でここにシエナが?」

 自然に会話に加わってきたのでスルーしそうになったが、彼女とは酒場で別れたはずだ。

「料理の試作を持ってきたんです。感想をいただけないでしょうか」

 そう言ってシエナは持ってきた料理を取り出す。

「これ、お菓子か?」

「はい。昔、この街に居た方がよく作ってくれたお菓子です。もう少しで記憶の味を再現できそうなのですが、どうも上手くいかず……。なので、アドバイスをいただけませんか?」

「丸くてコロコロして可愛らしい見た目ですね」

 俺たちはその小さなお菓子を食べてみる。

 素朴な甘さと卵の優しい味わいが口いっぱいに広がった。何より驚いたのが――

「このお菓子、サクサクした食感なのに噛まなくても溶けていきます!」

「こんなお菓子食べたことないわ!」

 フィーナもノエルも驚いた様子だ。

 二人とも甘いものは好きなようで、何個も何個も口に運んでいく。

「無くなっちゃった……」

「あはは……お口に合って良かったです」

 俺とシエナは目を見合わせて苦笑した。


「シエナ? このお菓子はもう無いのですか?」

「今日作った分はこれで全部です。ですが、分量や作り方はメモしていますので、いつでも作れますよ」

 それまで悲しそうな顔をしていたフィーナとノエルの顔がパッと輝く。

 よほど気に入ったようだ。

「ねえノエル? このお菓子を完全再現すれば売れないでしょうか?」

「味と食感がええから勝機はあると思う。最初に手に取ってもらえるかどうかやな」

「似たようなお菓子が無いので、売り上げがイメージしづらいですね……」

「まあ、とりあえずシエナの思い出の味とやらを再現してみよか。それを食べて判断すべきやと思う」

「そうですね!」

 俺たちは力強く頷くと、シエナの思い出の味を再現するために動き始めた。

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