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王女は"ざまぁ"されるほどの罪を犯したのか  作者: myano


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第9話 お菓子

 次の日から俺とフィーナが中心となってお菓子作りを始めた。

 シエナは料理と診療の合間に手伝ってくれることになり、ノエルは販路を検討してくれている。ノエルはお菓子作りの手伝いを申し出てくれたが、販売先が無いと何も始まらない。


 だが、販路より一番の問題は……。

「フィーナは料理も得意なのか?」

「いいえ。料理はこれが初めてです。この街に来てからというもの、練習しなければ思っていたのですが……」

 フィーナが悔しそうに唇をかむ。

 貴族令嬢が料理を(たしな)む方が珍しいから、気にしなくても良いと思うんだけどなあ。

「あの、やっぱりわたしもお菓子作りを担当しましょうか?」

 見かねたシエナがそう申し出てくれるが、受け入れられない事情があった。

「シエナは他の仕事が多いからね。これ以上無理をさせられないよ」

「そうですよ。お菓子作りはわたくしたち二人に任せてください」

「むぅ……」

 何故かシエナは不満そうだった。



「ああ……また失敗だ」

「難しいですね……」

 俺とフィーナが肩を落とす。未経験者にお菓子作りはやはり無謀だったようで、なかなかシエナが作ったお菓子のような食感が再現できない。

 レシピ通りに作れるようになったとしても、次はシエナの思い出の味にするために試行錯誤しなければならない。

「これはこれで美味しいですけれど……」

 フィーナがお菓子を頬張りながらつぶやく。

 さっきから失敗したお菓子を残さずに食べているが、さすがに食べ過ぎではないだろうか?

「フィーナ、お菓子を食べすぎると夕食に響くよ?」

「うっ。ですがもったいないです。飢えの辛さを一度経験してしまうと、食べ物を粗末にできなくて……」

「ごめん」

 しまった。彼女が王都で受けた仕打ちを失念していた。

 フィーナは俺の顔を見て、優しく笑う。

「そんな顔をしないでください。今のわたくしは、みなさんの……そして何より、あなたのおかげで幸せですから」

「フィーナ……」

 俺たちの間に、甘く優しい空気が流れる。

 彼女の笑顔と言葉が、俺の罪悪感をじわりと溶かしていった。

「さあ、頑張って作りましょう! 食べた方を幸せにするお菓子を!」

「そうだね」

 俺たちはそう言って意気込むと、お菓子作りを再開したのだった。



 俺たちがお菓子作りを始めて数日。

 ようやく食感を再現出来たので、シエナに監修してもらって味を調整していく。

 材料のバランスを変えては焼くという作業を何度も繰り返す。10回までは数えていたが、それ以上は数えるのをやめた。


「分量が変わると焼き上がりの食感が変わるのが難しいですね……」

 出来上がったお菓子を一つ口に入れる。

 カリカリとした食感で美味しいが、口の中で溶けていく食感にはならない。

「お二人とも、調子はいかがですか?」

 焼き上がりを見計らったかのようにシエナがやって来た。

「食感は上手くいかなかったけど、せっかくだから味だけでも見てもらうか」

「そうしましょう。シエナ、お願いします」

 シエナが焼き上がったお菓子を口に運ぶ。

 サクッという音が響き、シエナの目がみるみる輝いていった。

「これです! この味です!」

 シエナは懐かしさからか、目に涙を浮かべている。

 その表情を見て、彼女の思い出の味を再現できて良かったと安堵した。



 その日の夕方。味・食感ともに納得のいく出来になったので、シエナとノエルに試食してもらうことにした。

 味はシエナにお墨付きをもらったが、食感再現のために焼き加減を調整したので、念のためにもう一度チェックしてもらう。

 二人が俺たちの作ったお菓子を口に入れる。一つ目はすぐに噛んでサクサクした食感を確認する。

「サクサクとした食感は出せてるなぁ」

「はい。わたしの思い出の味とも遜色ありませんね」

 最初の関門はクリアしたが、ここからが問題だ。

 この数日間ずっと苦戦していた、口の中で溶けてなくなるような食感が再現できているかどうかだ。

 二人がお菓子をもう一つ口に入れ、今度は噛まずに舌の上で転がす。

 俺とフィーナは固唾をのんで二人の評価を待った。

「この間食べた、口の中で溶けていく食感が再現できてる!」

「わたしが昔食べたお菓子そのものです!」

 俺とフィーナはハイタッチを交わす。

 シエナのレシピ通りに作れるようになるまでは簡単だろうと甘く見ていたが、思いのほか難しかった。

 窯の火加減が大変で、慣れるまでに時間がかかったのだ。

 これからは料理人やお菓子職人を尊敬の目で見ることになるだろう。


「シエナ、このお菓子は何という名前なの?」

「えっ? ……そういえば、訊くのを忘れていました」

 シエナが申し訳なさそうにするが、フィーナは「だったら」と明るい表情を見せる。

「わたくしたちで考えましょう」

「ええアイディアやな。……何がええやろ?」

 4人が思考の海に沈んでいく。

 しばらくして、一つのアイディアが舞い降りてきた。

「天使のおやつ、とか?」

 俺はそれを何気なく口に出す。すると、3人の表情がパッと輝いた。

「その名前、すごく気に入りました。優しい甘さをよく表現できていますね」

「『天使』という部分が少しだけむず痒いですが、わたしも良い名前だと思います」

「インパクトのある名前やから、つい手に取る人も多そうやね」

 こうして、俺たちはこのお菓子を『天使のおやつ』と名付けて売り出すことにした。



 10日後、俺たち4人は政庁に集まっていた。

「『天使のおやつ』を売り始めてから五日間のデータが届いたから報告するで」

「緊張しますね……」

 ドキドキしながらノエルの報告を待つ。どうか良い結果でありますように。

「まず、この街やけど、職人さんたちが買ってくれるおかげで、毎日完売や。旅人も少しだけ買ってくれたみたいやで」

「職人さんたちは応援の意味合いが強いかもしれないが、それでもありがたいな」

 この街で売っているのは1日5箱で数としては控えめ。本命は隣の都市、ウエストマークで、そこには毎日20箱出荷している。

「ウエストマークに出した分は、5日間で100箱中45箱が売れたみたいや。一見良くないように見えるけど、日に日に売れ行きは良くなってる。それに、リピーターも()るみたいやから、今後に期待やな」

「ありがとう。今のうちから増産に向けて動いておいた方が良いと思うんだけど、どうかな?」

 財政面を考えると毎日100箱ぐらい生産・販売したいが、俺とフィーナの二人では25箱が限界だ。

「いずれ住民の方に引き継ぐ予定でしたし、準備を始めておきましょうか」

 フィーナはそう言ってうなずいた。

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