第6話 居場所
クロウとシエナは俺を領主として認めてくれたが、他のならず者たちは簡単に俺を領主と仰いでくれるだろうか。そう心配していたのだが、見事に杞憂に終わった。
『リーダーが認める男ですから、あっしらも付いていきます』
『おれたちの仲間を命懸けで助けてくれたんですから、次はおれたちが命を張る番です』
『住民も旅人も増えなくて、先行きに不安を感じていたんです。領主様、頼りにしていますよ!』
ならず者たち、改め、俺の部下たちの反応はこんな調子だった。
程度の差こそあれ、全員が俺に期待を寄せてくれている。応えられるように頑張らなくては!
夕方になり、俺たちは建物にある最も広い部屋に集まっていた。元はホールとして晩餐会などに使われていたのだろうか。
俺が領主になったことを正式に伝えるために、ノワール兄妹を初めとする元ならず者たちも勢ぞろいしている。
「フィーナ、大丈夫?」
「……」
関所での一件から、フィーナはずっと落ち込んでいる。
俺と怪我した男が『フィーナの責任じゃないから気にしなくていい』と言っても聞く耳を持たず、自身を責め続けている。
ふと、彼女と初めて会った日のことを思い出した。
今のフィーナはあの時と同じように余裕の無い表情をしている。
また思い詰めて最悪の選択肢を取らないか心配だ。
――せっかく仲良くなったのに、勝手に居なくなるなんて許さないからな。
そんなことを考えながら、彼女の心を救うための言葉を探した。
「みなさん、聞いてください」
突然、フィーナが語り始めた。嫌な予感がしたので制止するが、全く聞いてくれない。
「みなさんに謝らないといけないことがあります。わたくしはみなさんの作った関所を壊してしまいました」
「あー。あれは元々壊れかかってたものを騙し騙し使ってたんだ。お金があれば建て替えるつもりだったんだが……」
クロウがばつの悪そうな笑みを浮かべ、頭をかいている。
部下の一人が「壊す手間が省けましたねー」と声を飛ばし、みんながドッと笑い出した。
「まあ、そんなわけで気にしないで良いぞ。それに領主サマがもっと良いのを建ててくれるだろう」
「そうですね。そのつもりです」
この街に元々あった建物は老朽化が激しく、いまにも崩れそうなほどボロボロらしい。
お金が貯まりしだい、丸ごと立て直そうと思っている。
「そ、それに、わたくしはみなさんの仲間とクライムに怪我を負わせたのですよ? だからみなさんに責められても――」
「二人が良いって言ってるんだろ? じゃあオレたちが何か言うのもおかしな話じゃねえか」
クロウがそう言うと、「そうだそうだ」「だからそんな辛気臭い顔をするんじゃねえ」「美人が台無しだぞー」と仲間たちの声が飛ぶ。
その中にフィーナを責める言葉は無かった。
フィーナはぽかんとした後、くすくすと笑い始めた。まるで憑き物が落ちたようにすっきりとした顔になっていて、目尻には光るものが見える。
「ここはもう、フィーナの居場所なんだよ。みんなキミを受け入れてくれている」
「ねえ、クライム。ここを素敵な街に発展させて、わたくしと同じ思いをした方々を受け入れましょう。そして彼らが笑顔で過ごせるような場所にしましょう」
彼女が考える未来を想像する。それはあまりにも現実離れした、おとぎ話のような世界だ。だからこそ良いと思った。
「素敵な目標だね。それを実現するためにも、フィーナの力を貸してほしい」
「もちろんです!」
俺の言葉に、フィーナは満面の笑みでうなずいた。
翌日。俺とフィーナはクロウに領地を案内してもらっていた。
フィーナは実家で相当良い教育を受けていたようで、様々な分野の知識がある。
彼女は『広く浅く身に着けた知識なので、専門家には遠く及ばない』と謙遜するが、フィーナの助言はすごく参考になっている。
「うーん、ここも修繕が必要だな」
「いっそ建て替えた方が安く済みそうですね」
「そのあたりの知識が無いからよく分からないな……」
クロウから聞いていた通り、建物や門は老朽化が激しく、いまにも崩れそうなほどボロボロだ。
この街でまともに機能しているのはクロウたちが拠点として使っていた建物だけだった。
「オレたちは30人ほどで、建築に関しては全員が素人だ。オレたちで全部やってたら、いつまで経っても終わらないぜ?」
クロウの言う通りだ。街だけでも復興に何年かかるか分からない。
しかも俺の領地は街の外にも広がっているので、ゆくゆくはそこも開拓していきたいと思っている。今いる人数で全部やろうと思うと、一生掛かっても無理そうだ。
「これだけ荒廃していると移民が来るのも期待できません。こうなったら近隣の都市で作業者を雇いましょう」
考えれば考えるほど、足りないものばかりだ。だが、今はそれよりも……。
「なあクロウ、これまで食料や消耗品はどうやって調達していたんだ? まさか、略奪――」
「してないしてない! さすがにそこまで落ちぶれちゃいないさ。月の半分、シエナが近くの村や都市に出張して診療してたんだ。シエナの出張に仲間の半数が同行して、現地で日雇いの仕事を受ける。そこで稼いだお金で、食材や日用品を買って帰ってきてたんだ」
それを聞いて安心する。『ならず者たち』と呼ばれていたが、悪事を働いてはいなかったようだ。
「可能なら商人にも来てもらいたいですね。彼らがこの街に店を出してくれれば、物資の調達が楽になりそうです」
「だが30人の街に出店しても絶対に採算が合わないぞ。なにか特産品でも作って人を呼び込むか?」
「いずれ、それも検討しましょう。まずは食料を自給自足できるようにしませんと」
3人で知恵を出し合いながら拠点に戻る。すると、前方から部下が走ってきた。
「クライム様! 客人です!」
誰だろうかと顔を見合わせる。全く心当たりがない。
「いったい誰が来たんだ?」
「それが……商人を名乗る女の子です!」




