第25話 まず腹心を射る
「う、うーん……?」
先ほどの夜襲で捕虜にした少女が目を覚ました。ぼんやりとした顔で周囲を見回す。
彼女は今、応接室のソファで横になっている。
所持していた武器はフィーナが身体検査をして取り上げたし、ソファの後ろにはクロウが控えている。
拘束こそしていないが、変な動きを見せればすぐに制圧できる態勢だ。
「もし良ければ、どうぞ」
フィーナが少女の前に紅茶を差し出す。
彼女は警戒のまなざしで紅茶のカップを見つめ、手を付けようとしない。
まあ、そうなるよな。
チラリと部屋の隅に佇むノエルを見る。ノエルは少女をじっと見つめていたが、俺の視線に気づくと頷いた。
俺たちが少女を、政庁の地下牢ではなく応接室に連れてきたのには理由がある。
それは――
「きみ、カーベリオン王国の女王様の侍女だよね?」
「――っ!?」
少女は驚いたようにこちらを見た後、『しまった』という表情を見せる。
その反応だけで肯定しているようなものだった。
少女が女王の侍女だと分かったのはノエルのおかげだ。
ノエルの商人仲間が、『天使のおやつ』を大量に購入していった少女の顔を覚えていたのだ。その少女は『女王様がこのお菓子の生産者を探している』と言ったという。
その話を聞いて、カーベリオン王国を味方につけることができると確信した。
「フィーナ」
「はい」
俺が合図すると、フィーナが『天使のおやつ』を持ってきて少女の前に置いた。
少女は目を見開いてそれを見ている。
「きみが探しているのはこのお菓子の情報だよね? 教えてあげるから、きみたちのことも教えてもらえないかな?」
少女はしばらく葛藤していたが、やがて観念したように首を縦に振った。
「わたしはカーベリオン王国の中級貴族の娘、ペコルタ・ドーベルといいます。あなたが予想したとおり、女王様の侍女を務めています」
「カーベリオン王国はうちの国と爵位の体系が違うんです。彼女はうちの国でいうと侯爵の娘に当たります」
フィーナが小声で教えてくれた。
隣国のことはさほど詳しくないので、非常に助かる。
「俺はここの領主、クライム・マーシーです。以後、お見知りおきを」
次いで、この部屋に居る全員がペコルタに自己紹介していく。
「……あの、さっきから疑問だったのですが、クライムさんはどうしてわたしを牢に閉じ込めないんですか? 武器は没収したみたいですが、拘束していませんし、それにお茶とお菓子まで……」
「きみが女王様の侍女だからだよ。正直に言うと、俺たちはカーベリオン王国と手を結びたいんだ。だからきみを粗末に扱って、女王様の怒りを買うわけにはいかない」
ペコルタが心底可笑しそうに笑い始める。
「すみません。あなたがあまりに正直に話してくれたものですから……。余計なお世話かもしれませんが、あえて話さないのも駆け引きのうちだと思いますよ?」
「忠告として、ありがたく受け取っておくよ。ただ一つだけ言わせてほしいんだけど、俺は誰にでもペラペラ喋るつもりはないよ。相手がペコルタさんだから手の内を見せておこうと思ったんだ」
ペコルタが小さな声を上げ、その顔が真っ赤に染まっていく。
隣に座るフィーナが俺の足をグリグリと踏んできてめちゃくちゃ痛いが、顔に出さないように我慢する。
「……わたしたちは、獅子を起こしてしまったようですね。女王様が心配になってきました」
ペコルタの言葉に、俺以外の全員がしみじみと頷いた。何で?
「そういえば、ペコルタさんは女王様の侍女なのに、街への潜入も担当していたんですね?」
いくら何でもペコルタの負担が大きすぎるし、一人で潜入するという最も危険な任務を女王の侍女が担当するのも奇妙だ。
「音を消して外壁を登れるのが、わたしだけだったんです。指揮官は辞退したかったんですが、わたし以外に夜襲に参加する貴族が居なかったので仕方なく……」
光を失った瞳で語るペコルタを見て、普段から苦労しているさまが伝わってきた。
まあ、お菓子の調達から夜襲の指揮まで任されている人が、苦労していないわけがないか。
いたたまれない空気になったので、本題に移ることにする。
「ペコルタさんにお願いがある。カーベリオン王国の女王様と会って話がしたい。間を取り持ってもらえないだろうか」
「会うかどうかは女王様がお決めになることですので、お約束はできません。それで良ければ」
「十分だよ。それに、きみは絶対に女王様を連れて来てくれると確信している」
恐らく、女王にとってペコルタは、数少ない信頼できる配下なのだろう。
そのペコルタが頼めば、女王も首を縦に振るだろうと予測していた。
「……本当に、あなたは危険な人です」
ペコルタがジトっと俺を見て、フィーナが再び足をグリグリし始めた。




