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王女は"ざまぁ"されるほどの罪を犯したのか ~傷ついた彼女を救いたくて~  作者: myano


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第24話 籠城戦

「見えました! カーベリオンの軍勢です! ……こちらに向かってきます」

「来たか!」


 櫓で見張っている部下が叫び、俺たちは緊張感を強めた。


「早ければ今日、遅くとも三日以内だと思っていましたが、本当に今日やって来るとは……。恐ろしいですね」

「相当強行軍で来る想定だもんなあ。ほとんど休んでないんじゃないか?」


 カーベリオン王国の女王は、統率力にも優れているようだ。

 まだ来ないだろうと高をくくっていたら、今頃なすすべもなく占領されていたかもしれない。


「小さな街とはいえ、やっぱり見過ごしてくれませんよね……」

「連中も背後をつかれるのは嫌だろうからな」


 前後から挟撃されれば被害が大きくなる。それに、王都で敗れて撤退するとなった場合、手前の街を占領していないと退路を断たれてしまう危険性がある。

 カーベリオン軍も女王自らが出陣しているので、冒険はできないはずだ。

 ……しかし、なんでわざわざ女王が出てきているんだろう。それだけ王国領を欲しているのか?


「敵は進軍を停止! 街道沿いに陣を敷き始めました!」


 俺が考え込んでいると、見張りが状況を伝えてくれる。


「予想通り、東に布陣するみたいですね」

「東から他の門に回るには山を越える必要があるからな」


 俺の領地は東以外の3方向が山に囲まれた土地だ。つまり、山越えをせずに領地まで入って来るルートは東の街道しかない。

 その街道も両側に山があるので、街道を通って来た敵がルインハムの東門以外を攻撃するためにはどちらかの山を越えないといけない。

 敵は急いで攻略したいと考えているはずなので、東に布陣して一方向から攻めてくると予想していた。


「到着後、すぐに攻めてくる可能性も考えられましたが、この様子では明日からですね」

「旗と人形が役立ったかな?」

「うまくいきましたね」


 余った時間を使って領民に作ってもらった旗と人形、それはルインハムを守る兵の数を多く見せるためのものだった。

 これ自体は兵法書に載っているありきたりな作戦だが、相手が優秀であるほど効果を発揮すると思ったのだ。

 今回の場合、敵は女王自らが出陣してきているので失敗できないのも大きい。


「だが、これで稼げる時間は短い。明日には攻めてくるだろうから、準備を整えておくように!」


 領民たちの「オー」という声が響き渡った。



 翌日。朝からカーベリオン王国の軍勢が街に攻め込んできた。

 俺たちは街の門を全て閉じ、外壁上から矢を射かけたり、石や熱湯を落としたりして応戦する。

 朝から激しい攻防戦が繰り広げられ、午前中は部隊を指揮するクロウの声がずっと響き渡っていた。


「戦況は?」

「現在のところ、問題なく防げているそうです。クロウの指揮は素晴らしいですね。陛下も『親衛隊の指揮官に欲しい』とおっしゃっていました」


 詳しい話を聞くと、敵は強弱をつけながら常に一番薄い個所を狙ってきているが、クロウは臨機応変に対応しているようだ。

 クロウは武芸にも秀でているが、兵を指揮する才能にも恵まれているらしい。

 それで前職が門番とか、冷遇されすぎじゃね?


「味方の被害状況は?」

「負傷者は数人いますが、犠牲者はいません。外壁による高低差と遮蔽物(しゃへいぶつ)をうまく利用し、敵の攻撃を防いでいます。敵が攻城兵器を持ってきていないのも幸いでした」

「機動力を優先したんだろうな。こちらの準備が整う前に攻め落とす算段だったんだろう」


 カーベリオン軍がゴールトンと合流するためには王都まで行かなければならない。

 だが、ゆっくり進軍していると王都周辺の防御を固められてしまい、攻略が困難になってしまう。

 王都にたどり着くためには速攻が最適解だと判断したのだろう。

 実際、王都より西の地域で防衛戦の準備が出来ているのはここだけなので、その判断は正しい。


「先んじて防御を固められたのは僥倖(ぎょうこう)でしたね。これでは急襲の強みを生かせません」

「俺たちが持ちこたえている間に、他の貴族たちの軍備が整うと良いんだけどな……」

「援軍でも来てくれませんかね。玉砕は嫌ですよ」

「この街には王族が全員居るから、玉砕したら国家の滅亡なんだよなぁ」


 ほんと、何で僻地の男爵が国の命運を握ることになっているんだろう。

 敵がここに王族が居ることを知らないのがせめてもの救いだ。



 夕方になり、今日の戦闘が終了した。

 カーべりオン軍は陣地に引き返して休んでいるらしく、炊事の煙が上がっている。

 クロウ、フィーナと共に、外壁の上から敵陣を見つめる。カーベリオン軍は整然と布陣していて、それはまるで芸術作品のようだった。


「すごいな。俺が大将ならあんなに綺麗に布陣できる気がしない」

「女王が来ているというだけあって、精鋭揃いのようですね。それを犠牲者無しで防ぐクロウも凄いですが……」

「凄いのはこの外壁だよ。周辺の都市よりも高いんじゃないか? それに、敵も壁を登ろうとしてこなかったから、防ぐのは簡単だったぞ」


 クロウの言葉に、俺とフィーナが眉をひそめる。

 俺たちが想像していた攻城戦とは様相が違う。俺もフィーナも直接戦闘を見ていないので、敵は梯子をかけて外壁を登ろうとしていると思い込んでいた。


「なあ、敵はどんな攻撃を仕掛けてきたんだ?」

「下から矢を射かけてきたのと、槍や石を投げ込んできただけだ。……やっぱり変だよな?」


 クロウも薄々おかしいと思っていたようで、俺たちの反応を見て安心したような顔になった。


 3人で敵の狙いを推測していると、ある可能性が思い浮かんだ。


「夜襲……」

「クライム様?」

「昼間の攻撃は俺たちを油断させるためで、敵は夜襲を仕掛けてくるつもりじゃないか?」

「数日前から張りつめていた糸が勝利によって緩むうえ、初めての防衛戦で気疲れもあるでしょう。それに今夜は絶好の夜襲日和! 仕掛けてきてもおかしくありません!」


 夜襲日和? 月の無い夜ということか?

 何にせよ、備えておいた方が良さそうだ。


「オレは兵士たちに食事を終えたら政庁に集まるように伝えてくる。作戦は二人に任せた」


 そう言ってクロウは兵舎に向かって走って行った。

 残された俺たちは、夜襲を防ぐための作戦を考えるのだった。



 深夜。俺とフィーナ、クロウは外壁の上から様子を窺う。

 周囲には兵士たちの姿もあり、全員が身じろぎ一つせずに夜襲に備えている。

 すると、遠くから大量の小さな足音が近づいてきた。彼らは音を消して街に向かってきていて、シンと静まり返った状況でなければ気づかなかっただろう。


 しばらくすると足音は止み、硬いもの同士がこすれるような音が聞こえ始める。

 音は一つ。どうやら一人の兵士が壁を登り始めたようだ。

 俺の隣に居るクロウが、登ってくるであろう場所を指差した。俺が頷き返すと、クロウは音もなくその場所に移動する。

 やがて、音は外壁の上に登って来た。その瞬間――


「――っ!?」


 小さな悲鳴を漏らし、敵兵はクロウによって気絶させられる。

 それを見た部下の一人が、火のついた松明を大きく振る。


 ――ドンドンドンドン


 あらかじめ周囲の山に伏せていた部下が、松明を合図に太鼓を鳴らし始める。

 それを聞いた敵兵は浮き足立っているようで、彼らの声や足音が聞こえてきた。

 音の発生源から敵兵の位置を割り出す。


「敵は門のすぐ近くだ。そこに向かって矢を放て!」


 俺が号令をかけると、部下たちが一斉に矢を放ち始める。

 門の周辺からは「夜襲は失敗だ!」「山に伏兵が居るぞ」「オレたちはどうすれば良いんだ!?」「――様はどうなったんだ!?」という声が聞こえてくる。

 カーベリオン軍は完全に統率が乱れているようだ。指揮官が戦死したのだろうか。

 敵兵は暗闇の中に響き渡る太鼓の音と飛来する矢のせいで恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。


「やりましたね!」

「ああ。何とか犠牲を出さずに夜襲を防げたな」


 ほっと胸を撫でおろす。

 夜襲が成功していれば、この街は陥落していただろう。


「クライム様、捕らえた敵兵はどうしますか?」


 クロウが気絶した兵士を背負ってやってきた。


「そうだな――っておい、その子」

「女の子ですね。それもシエナや領主様たちと同い年ぐらいの」


 闇夜にフィーナの目が鋭く光った。

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