第18話 風聞は風、真実は人に宿る
ある日、俺とフィーナは政庁の政務室で話し合っていた。
「今日、ルミエルさんから手紙が届きました。王都での噂は相変わらずだそうです……」
フィーナが手紙から得た王都の情報を教えてくれる。
いつの間にか、フィーナとルミエルは文通をするようになったらしく、互いに近況を報告しあっているそうだ。
今回は、王都での俺の噂をフィーナが尋ね、その返事が来たらしい。
僻地に居ると王都の情報はなかなか入って来ないので、ルミエルからの情報は非常に助かっている。
「そうか。俺の噂はまだまだかかりそうだな」
あくまで体感だが、王都で流れた噂が沈静化するまでに2か月以上かかる。
もっとインパクトの強い話が出てこない限り、最低でも2か月はこのままだろう。
今回は何者かが噂を流しているようなので、場合によってはもっと長引くかもしれないが。
「……フィーナの方は大丈夫そうか?」
フィーナの噂が流れていたのは半年以上前なので、さすがに鎮まっているだろう。
そう思って尋ねたのだが。
「そちらも変わらず噂されているそうです。なかなか風化してくれませんね……」
「それ、おかしくないか? いくら何でも長すぎるぞ」
誰かが意図的に、噂が鎮まらないように仕組んでいるのではないか。
「ルミエルさんも不審に思って噂の出所を探ってくれたみたいですが、時間が空きすぎて手掛かりを得ることができないそうです……」
確かに、半年以上前に流れ始めた噂の発信源を探るのはほぼ不可能だろう。
だが、10日ほどならどうだろうか。
「俺の噂なら出所を調べられないか?」
「可能どうかは分かりませんが、ルミエルさんにお願いしてみます」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
フィーナと俺の噂は、どちらも『何者かが関与している』点で一致している。
もしかすると、二つの噂の黒幕は同じかもしれない。
その後、俺とフィーナは領内を見て回る。
俺の噂が流れる前と比べてずいぶん人通りが減った。報告によると、旅人の数は多い時の半分以下に落ち込んでいるらしい。
「今日も旅人の姿が少ないな」
「噂は相変わらずのようですね」
何人かの旅人が俺を見て、ひそひそと何かを話す。
ルインハムの住民たちは旅人と俺を交互に見て、困惑したような顔をしていた。
「失礼、あなたがこの地の領主様ですかな?」
街を歩いていると、旅人の男性に声をかけられる。
彼は年老いた男性で、優しげな笑みを浮かべていた。
「はい。何かご用ですか?」
「この街は住民たちが生き生きとしていますなあ。よほど善政を敷いていると見えます」
「優秀な部下たちのおかげですよ」
フィーナに視線を向けつつ答える。
すると、男性は俺をまじまじと見つめてきた。
「ううむ、噂で聞くような人間には見えませんな……。あの噂、本当なのですか?」
「噂と言いますと、倉庫の扉を壊したという噂ですか? それでしたら事実です」
男性は目を丸くして「ほおぉ」と声を漏らす。
「……驚きました。あっさりと非を認めるのですな」
「まあ、事実ですので。嘘をついたり誤魔化したりしても仕方ありません」
彼は俺の言葉を聞いて「ははは」と笑い始めた。
「領主様、あなたほど真っすぐな貴族も珍しい。そんな人が理由も無しに他人の物を壊すとは到底思えません。おおかた、何か事情があったのでしょうな」
「えっ?」
男性が簡単に俺の肩を持ったことに驚きを隠せない。
だが、俺の隣ではフィーナが嬉しそうにうなずいていた。
その様子を見て男性は面白そうに笑う。
「これはこれは。もう一つの噂も本当のようじゃな。お二人さん、どうかお幸せに」
男性は微笑むと、「長生きしてみるものだのう」などと言いながら去っていった。
もう一つの噂? ……まさか、『女たらし』か!
それに気づいた時には、すでに男性の姿は見えなくなっていた。
「噂に流されず、本質を見てくれる人もいるんだな」
「ええ。みなさんが実物を見て判断してくれれば良いのですが……」
それが困難なことは理解しているし、俺も出来ていないことの方が多いだろう。
せめて自分だけでも意識を変えることで行動を変えていきたいと思った。




