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王女は"ざまぁ"されるほどの罪を犯したのか ~傷ついた彼女を救いたくて~  作者: myano


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第13話 クロウの罪

「おお! 立派な兵舎ができたなぁ……」

「これでアイツらも宿無し卒業だな」


 クロウは目を細めて兵舎に私物を運び込む部下たちの姿を見つめる。


「今まで、政庁のホールで雑魚寝してもらっていたからな。よく不満も言わずに我慢してくれていたよ」


 普通なら俺を見限って出奔していてもおかしくない。にもかかわらず、誰一人去ることなく付いてきてくれていることには感謝しかない。


「それだけクライム様を慕っているってことだ。アイツら全員、今までの領主とは大違いだって言ってるぜ?」

「クロウとみんなは昔からの付き合いなのか?」

「いや。妹のシエナ以外とは、ここに来てから出会ったんだ。オレもアイツらも、前の場所で色々あって他に行く場所なんて無いからな。少しでも居場所を守ろうと必死だったなあ」


 クロウが昔を懐かむように語る。彼の表情からは、大切な居場所を守り抜いたことを誇りに思っていることが見て取れた。


「みんな血気盛んな奴らだから、まとめるのも大変だったんじゃないか?」

「最初は近くを通りかかる旅人や商人を襲撃しようとしてたなあ。あの時は『軍に目をつけられたら処刑じゃ済まない』と言って()めたんだ。結局、交代で出稼ぎに行って食いつないだなあ」


 やはり、ここで細々と生きていくのも大変だったようだ。


「それでも、悪事に手を染めなかったんだから立派だよ」

「ははっ、立派だったらこんなところに来てねえよ。オレなんて領主を殴って領地を飛び出したんだし、アイツらも似たようなもんさ」

「……領主を殴った?」


 思いがけない言葉に思わず眉をひそめる。

 クロウはそのことを懺悔(ざんげ)するかのように話し始めた。



「オレは元々、とある領主の屋敷で門番をしてたんだ。その領主ってのがとんでもないゲス野郎で、民からの評判も悪かったんだ。ある日、その領主がシエナの存在に気付きやがってな。『シエナを差し出せ』って言ってきやがった」

「最低な男だな」

「まったくだ。しかも、オレが断ったら給料を半分に減らしやがった」


 絵に描いたような悪徳領主だ。今時、そんな領主が居るとは思わなかった。

 それでもシエナと手を取り合って兄妹仲良く生きていたんだろう。


「ある日、領主が出かけようとしてたから、どこに行くのかを問いただしたんだ。すると『シエナを(さら)いに行く』って言いやがった。オレはカッとなって、気付いたら領主をボコボコに殴っていた」

「それは……。だが、手を出してしまうのも仕方ないんじゃないか?」


 確かに殴るのはダメだが、だからと言ってクロウを責めることもできなかった。


「いや、やっぱり手を出すべきではなかったと思う。もしもあの時に戻れるなら、オレは手を出さない道を選びたい」

「だが、領主は殴られるだけのことをしたと思うぞ?」


 俺の言葉にクロウは力無く首を振った。


「だとしても、あいつは正しい手順で裁かれるべきだったと思う。もっと上の貴族に頼っていれば、アイツに相応の罰を与えることができたかもしれない」


 その男が今でも領主を続けることができているのは、クロウが手を出したからだと言いたいのだろう。

 この国の自浄作用を過信している気もするが、罪人は正しい手順で裁かれるべきという考えは広まってほしいと思った。


「それで、クロウはどうするんだ?」

「あの場に残れば100叩きの刑で済んだかもしれないが、逃亡という罪を重ねた以上、戻っても死罪だろう」


 領主の性格からして、クロウの予想はたぶん正しい。


「まさか、戻るつもりなのか?」

「神は全て見ているから、いずれ相応の報いを受けることになるだろうな。せめてシエナに累が及ばないことを祈るだけだ」


 クロウはそう言ってはぐらかすが、いつか領主のもとに出頭しそうな予感がした。

 どうすれば丸く収めてクロウの命を救えるだろうか。


「そんな顔をするな。少なくとも、シエナが立派な男に嫁ぐまでは居なくならないさ。嫁ぎ先が、あの領主が手出しできないような貴族だと良いんだがな」

「それは、クロウの行い次第じゃないか? 善行を積めば、きっと相応の相手が助けてくれるさ」

「じゃあ、クライム様のもとで励むとするか」


 クロウは「じゃあな」と言って去っていく。

 残された俺は、どうにかしてクロウを助けられないかと考えるのだった。



「……という話を耳にしたんだ。その女の子はどうしたら助かると思う?」


 一人で考えてもクロウを助ける方法が思い浮かばなかったので、俺はフィーナに相談することにした。

 もちろん、クロウだと分かる情報は伏せた上で、噂で聞いた話として、だ。


「弟のために領主に暴力をふるってしまった女の子ですか……」


 そう言ってフィーナは考え込んだが、しばらくすると、ゆっくりと話し始めた。


「いくつか方法はあると思います。一番単純なのは領主が彼女の罪を赦すことですが、これは期待できないのですよね?」

「ああ。その領主はプライドが高いうえ、性格も悪いらしい。少女が領主の前に現れようものなら、即座に手籠めにされるだろうな」


 俺は名前も知らない領主を脚色して語る。何だか俺の方が罪に問われそうだが、創作ということで許してもらいたい。


「……どこかで聞いたような話ですね。まあ良いでしょう。でしたら、その領主より上の身分の貴族が少女を裁くというのはどうですか?」

「そんなことができるのか?」

「可能です。もちろん、あからさまな判断を下すと信用に傷が付きますが、その少女のケースならば罪一等ぐらいなら軽減する余地があると思いますよ」


 つまり、死罪を100叩きの刑に軽減するぐらいはできるのか。……それでも死にかねないぐらいの刑罰だが。


「なあ、俺の領地だけでも独自の刑罰を設けるのはダメかな? 例えば、肉体刑を廃止して、強制労働の刑にするとか」


 フィーナの目がすっと細くなる。やばい、余計なことを話しすぎたか?


「今のところは不可能です。一領主が王家と異なる刑罰を導入したとなると、反逆を疑われます。わたくしは聞かなかったことにしますので、どうか他言無用でお願いします」

「そうか。ありがとう」

「もちろん、王家が肉体刑を廃止し、強制労働刑を採用したならこの領地もそれに倣う必要があります。どうしても刑罰を変えたいのなら、出世して王家と交渉することですね」


 それも相当難しそうだ。出世のためには手柄を立てる必要があるが、そう簡単にできることではない。


「まずは悪徳領主よりも上の、子爵にならないといけませんね」

「そうだね。頑張らない……と?」


 あれ? フィーナは今、何と言った?

 彼女を見ると、すごく良い笑顔をしていた。ちょっと怖い。


「クライム様、少女とは誰のことですか!? 今度は誰を堕とすつもりですか!」

「ご、誤解だ! 少女っていうのは、俺が考えている小説の話で――」


 その後、フィーナをなだめるのは大変だったが、出世するという目標ができた。

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