第28話 芸能界のドン
小坂部と和田は安西派事務所に入れなかった。いわゆる門前払いを食った。いくら検察官でも起訴に至る物証を持参していなければ派閥事務所も相手にはしない。ここは一旦引き下がろうと小坂部は考えた。自由民新党の不始末だけを追及しても仕方がない。その奥にはびこる膿みを出さぬことには。膿みを別の角度から追っているハイエナに、小坂部にしては珍しく靴先を向けた。
「ちょっと話さんか?」
さっきは無駄なお喋りと見下されながらも曽我は、
「いいですよ、検事さんが驕ってくれるなら」
小さく笑って腫れぼったい目を小坂部と和田に向けた。
小坂部たちは物証を得ている。特捜部が掴んでいるところでは安西派はパーティー券収入で得た資金を政治資金収支報告書に記載せず、個人の議員にキックバックしていた。ただ、それだけでは不十分だった。結末は見えている。派閥の領袖との繋がりが見えず会計担当者だけの尻尾切りで終わる。
昭和レトロな喫茶店。檜造りの格子窓を雨が叩く。曽我は高価なパナマゲイシャの香りを楽しそうに啜り言った。
「緒沢謙次郎ですね」
キックバックを受けていた議員の名前は共有できていた。曽我は緒沢のことをよく調べていた。
「彼はNKH会長、立石健三氏の幼なじみであり、また議員になる前は一般社団法人日本民放連の会長も務めています」
「そのとおりだ」
小坂部は一番安価なレギュラーブレンドを機械的に口に運ぶ。和田はレギュラーブレンドにも手をつけず二人の会話を補足する。
「緒沢は郵政族の生き残りです。いまではそんな族議員は自由民新党に彼しかいませんが。しかし、彼には放送事業の裏で糸を引く芸能界の首領との噂がある」
そこを今度は曽我が補足する。
「噂じゃなく事実ですよ。緒沢は紛れもなく芸能界のドンです。ひとたび彼が目をつけたタレントはあれよあれよとスターダムを伸し上がっていく。なんたって斯界から集めてきた豊富な資金がありますからね、彼には」
水無月はたち
1964年大阪下町生まれ。同志社大学経済学部卒。現在、大阪の某大学勤務。
優しい奥様と独立独歩した我が子たちだけが自慢。
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月16日 『神より選ばれし偶像たち』(つむぎ書房)発刊
※当作品は100%作者の手で作り上げた不完全なヒューマンドラマです。AIの力は全く借りておりません。つづきはこちら↓




