睡眠剤
1階へ辿り着くと、殿下は待機していた騎士に声を掛けた。
「第二部隊、これから大広間に向かう。会場では、忘れ草が使用されている可能性がある。口元を布などで抑え、匂いは嗅がないように。速やかに会場を換気せよ!」
「はっ!」
「ちょっと待ってください、殿下。その前に、私が保護魔術を掛けます」
「大丈夫なのか?」
「これくらいの人数であれば、平気です」
「レイラ、無理だけはしないように」
「はい――レディトリア!」
私が聖魔術を放つと、キラキラとした粒子が騎士達に降り注いだ。
「行くぞ。私に続け!」
大広間へ向かう殿下達の後を着いていくと、会場からは呪文を唱えるオリバ先生の声が聞こえた。
「ウィンド・ジェッター!」
会場の扉を開けると、そこには風魔術を操って窓に穴を空けているオリバ先生がいた。
「リュ・ソルテラ!」
更に風魔術を放つと、会場に漂っていた忘れ草の匂いが外へ放たれた。それと同時に周りに散らばっていた窓ガラスも舞い上がってしまう。
「オリバ先生!」
殿下が側へ来て、私をマントで包み込むように抱きしめていた。
「殿下……」
風が収まると、オリバ先生が気まずそうにこちらを見ていた。
「やり過ぎてしまったわ」
ガラスを浴びてしまった騎士達は、私の保護魔術が効いていたせいか、たいしたケガはなかった。信者達も、祈りを捧げるために下を向いていたせいか、ケガはないようだ。
「いえ、到着が遅くなりすみません。先生、忘れ草はどこに?」
「たぶん、祭壇の裏よ。祈りの時間が始まった後に、何かをそこへ置く音が聞こえの」
「では、誰が部屋に忘れ草を入れたのでしょうか?」
部屋の中には、信者が簡単に開けられる窓や入り口がない。信者だけでなく、教会の人も一緒に祈りを捧げていたのであれば、途中で部屋へ運ぶのは困難だろう。
「分からないわ」
分からないと言ったオリバ先生の言葉を不思議に思いながらも、私は祭壇の裏を覗いた。そこには薬瓶と、会場に臭いを散布するための魔術具が置かれていた。
「うーん……」
後ろを振り返ると、そこには告解室があった。私は何となく近づき、告解室の司教側のドアを開けた――そこには、薄汚い洋服を着た少年が座っていた。
「あ……」
「ごめんね。ミサが終わるのを待ってたの?」
その少年は、私が声を掛けると震えながら首を横に振っていた。
「ごめんなさい。僕は……」
「君は……」
「殿下、この子を知っているのですか?」
「いや。その――学園の教会で人が亡くなった時に、この子が近くにいたんだ」
「……まさか、この子が?」




