魂の棺
部屋にいる全ての教会関係者は、マシューを除いて捕らえられた。
「裏切ったな……」
「申し遅れました。私は、第五部隊所属のマシュー・ブラントと申します。裏切ってなどおりません。はじめから王宮警備隊の一員です」
「なんだと? 二年前からスパイをしていたというのか?」
「はい」
「マシュー、これはどういうものなんだ?」
殿下が机の上にある本ぐらいの大きさの箱を指し示すと、マシューは殿下の問いに答えていた。
「この魔術具は、忘却魔術の補助魔術具になります」
「こっちは?」
「これは――私にも分からないのですが、おそらく魂の棺ではないかと」
「魂の棺?」
「亡くなった方の思考や性格を封じ込めておけるものになります。私も実際に見たことがないので分かりませんが、魔術陣を描いて、その上に人や物を置いた状態で魔術具を発動させると、この中にある魂が憑依するのだとか」
「そんなもの、聞いたことがないぞ」
「おそらく、教会に伝わる特別なものかと……」
私が絨毯に描かれた魔術陣を目で追っていくと、その上には椅子に縛られたまま硬直しているケリーがいた。口には猿轡を嚙まされている。私が近づくと、彼女は何かを言っていた。
「ケリー!」
私が慌てて縄と猿轡を外すしたが、彼女は怒っていた。
「レイラ様、遅いです!」
「ごめんね」
そう言った後、ケリーは大泣きしてしまった。私はケリーを慰めるように頭を撫でた。
「それにしても、昨日の忘れ草の匂いは何だったんだ? 1階で確かに似た匂いを嗅いだはずなんだが……」
「殿下、どうされました?」
フィリップの言葉に、殿下は首を傾げていた。
「いや、忘れ草のことだよ。ここには忘却魔術の魔術具しかないみたいだし……」
「ミサでしょうか?」
マシューの言葉に、私達は固まった。
「ミサには30分の祈りの時間があります。その間に忘れ草を用意して嗅がせることが出来れば、症状は引き起こせるかと……」
「症状?」
「殿下、自生している忘れ草にはないのですが、収穫してキノコと一緒に煮詰めると強力な睡眠薬になるんですよ」
マシューの言葉に殿下は固まっていた。
「マシュー、今まで信者に睡眠薬を使用したことがあったのか?」
「なかったと思います。ですが、私は下っ端ですので知らされていなかっただけなのかもしれません」
「ラインハルト様、ミサには先生が!」
「マシュー、ここは任せた」
「承知いたしました」
「レイラ、急ごう」
「はい!」
私はケリーの頭を再び撫でると、1階にある大広間へ向かったのだった。




