制圧
「いや、違うと思う。あの時は、教会側の誰かが孤児を拾ってきたのかな? ぐらいにしか思っていなかったんだ。前にも一度、そういうことがあったみたいだし、人殺しをするようにも見えなかったんで、放っておいたんだが……。こうなってくると、話を聞いた方がいいかもしれないな」
「殿下、教会を含めて学園には結界が張られております。それなのに、この子は中へ入れたと言うのですか?」
「そうなんだ。そこは、理事長の権限というか、何というか……。理事長が許可すれば、学園の教会へは誰でも入って来くることが出来るみたいなんだ」
「そんなことって……」
「あの、ぼく……」
「どうしたの?」
「言われた通りにしただけなんです。言われた通りにしなければ、僕を生贄にするって言われました」
「それは、誰に?」
「……」
「教会の祭壇に薬を置いたのは君?」
少年は私を見つめたまま、泣きそうになりながら頷いていた。
「学園の教会で、男の人を殺したのは君?」
「ちがう。僕は、魔術具を回収しただけだ。人殺しなんて出来ない。でも、教会へ行ったら、あの男の人が亡くなってて――びっくりしたんだ」
「魔術具って?」
「あ……」
その少年は、話してはいけないと言われていたことを話してしまったと思ったのか、口元に手を当てると目を丸くしていた。
「とりあえず、城へ戻ろうか。明日また仕切りなおそう」
殿下の言葉に、警備隊は信者の中に負傷したものがいないかを確認してから、教会の入口へ戻っていった。私とベイルは少年を連れて馬車が置かれている転移陣の前に戻ったが、ふと何か大事なことを忘れているような気がした。
「レイラ様!」
「ケリー」
「レイラ様、この子は私が預かります。そちらの子は……」
マシューは薄汚い服を着た少年を見ると、怪訝な顔をしていた。
「この子も生贄にされるかもしれない子だったのよ。たぶん騙されてて――事件のことを知っているかもしれないから、このまま王宮へ連れて行くわ」
「それなら、こちらで私が預かりましょう。私も王宮へ行くので、隊長に馬車を寄こすように言ってあります。もうすぐ来ると思いますので、この子達と一緒に馬車を待って王宮へ向かいます」
「……助かるわ」
きっと、この子は王宮の絨毯や家具を見ただけで驚いてしまうだろう。そう思った私は、マシューへ預けることにした。
「上は、どうなっているの?」
「第一部隊が教会側を制圧しています。この後、城へ連れて行き尋問を行う予定です。また、この件に関わっているか不明な者も城へ連れて行き、尋問を行う予定です」
「教会の運営は大丈夫なの?」
「はい、後でキヌア様に手伝ってもらう予定であります」
「え、キヌア?」
「はい。殿下が好きに使えと仰っておりましたので……」
「殿下がそう言ったのなら、問題ないと思うわ」
(キヌア、普通の仕事もできたのね)
私は失礼なことを考えつつも、城へ戻るために御者に通行証を渡した。教会が制圧された今、書類は必要ないかもしれないが、形式的なことを省くのはよくないと思ったのだ。
「ありがとうございます。それでは、城へ向かいます」
御者は私が渡した書類を丁寧に受け取ると、門番へ見せていた。
「よし、行っていいぞ」
門を通り過ぎる際に、何気なく馬車の中から外を眺めていると、門番の顔が目に入った――それは、キヌアだった。
「まさか、キヌア?」
私が驚きながら呟くと、彼は笑っていたのだった。




