問題点
それから一週間。私は殿下の護衛に徹した。護衛をしている間は、私は近衛騎士に頼んで隊服を着ていた。女性用の隊服があることに驚いたが、以前は女性も近衛騎士として働いていたことがあったという。
殿下の執務室の前で待機していると、そこへフィリップがやって来て言った。
「レイラ様、殿下の護衛ありがとうございます。私が変わりますので……」
「フィリップ様、石の調査はどうなりましたの?」
「見つかりませんでした。あの、後で殿下に報告しますので、それ以上は……」
「分かりましたわ」
「ラインハルト様、これで失礼いたします」
「ああ、ご苦労だった」
殿下は、書類から顔を上げると私を見て言った。
「後で会いに行くよ。明日のこともあるし」
「分かりました」
「また、後でね」
「はい」
※※※※※
夕食を済ませると、自分の部屋と同じ階にある『扇の間』で紅茶を飲んでいた。この場所は、殿下が私室に戻る時の通り道になるので、最近は殿下をここで待つことが多かった。殿下がやって来ると、挨拶もそこそこに石の話になった。
「アイラ嬢は、庭師の息子に会って、すっかりその人が気に入ってしまったらしくてね」
「え?」
「自分の屋敷で雇いたいと言い出したそうなんだよ」
そう言えば、すっかり忘れていたが、キースは前世の乙女ゲーム『ラブ・メーター』では、攻略対象者だったのだ。しかも隠れキャラ。彼女が興奮するのは分かるが、自分の屋敷で雇うというのは、さすがに問題だろう。
「それで、フィリップ様は?」
「非常識だと――そう言ったらしいんだ」
「常識的に考えれば、そうですね。それで、フィリップ様はどうしましたの?」
「どうもこうも、調査どころではなくなったと聞いているよ」
「石のことは聞けたのでしょうか?」
「彼の持っている石の中にカルメザイトは無かったということだった。でも、仕入れてる知り合いの店なら、いい石があるんじゃないかと言っていたよ」
「お店?」
「王都にあるらしいんだ。私も石のお店があるなんて思わなかったんだが……」
「もしかして闇市でしょうか?」
伯爵家の人間が闇市で物を買っていたと知られれば、それは問題だ。分かっていて買ったのならともかく、周りからの評判が落ちれば、お父様の事業にも影響があるだろう。
「私も、その可能性があると思っている。レイラのところの庭師は知らずに買っていたようだが……」
「今度、実家に帰った時にでも父に言っておきますわ」
「彼をアイラ嬢の家に移してもいいんじゃないかな?」
殿下は私の手を握ると、ライトブラウンの瞳を心配そうに揺らしていた。
「いいえ。問題があるかもしれない使用人を、アイラ様のお屋敷へ行かせるわけにはいきませんわ」
「……そうだね」
「そういえば、村の女の子が来るのは明日でしたわね?」
「ああ。調べによると、街の教会へ連れて行くらしい」
「あの、転移陣のある教会ですか? 大きな教会ですし、何かがあるとは思えませんが……」
「レイラ。大きな教会だからこそ、真実を闇に葬れるんだよ。私達は、それを見つけなければならない」
「はい。何もなければいいのですが……」
「そうもいかないだろうね。我々も何もなければ、どうすることも出来ない。悪いが、あの女の子には囮になってもらうしかないんだ……」
「必ず、助けましょう」
「ああ、必ず……」
殿下はその後は何も言わずに、私の指先をそっと握りしめていたのだった。




