第41話 繋がる電話
家に帰ってから、なんとか黒崎に電話することを思い出してメモを頼りにダイヤルを押した。
何回かコールした後に聞こえてきた声は黒崎の声で安心する。
「もしもし、汐見君?」
「おう、ちゃんと繋がったな良かった」
「それじゃこっちでも番号を登録しておくわね」
「おう、朝のことはまた連絡してくれ。それじゃあ・・」
「待って、まだ話したいことがあるの」
「どうした?」
「実は汐見君にお願いがあるの、そろそろ名前で呼んで欲しくて」
「それはまたどうして、今のままじゃ不満なのか」
確かにいままでだと少しぶっきらぼうな感じになっているかもしれない、でもそれで名前呼びというのも変な話だ。
「そんな難しい話じゃないの、ただ私この島に来る前は違う名字で呼ばれていたからなんだか違和感があって。名前で呼ばれる方がしっくりと来るの」
「なるほど、そういうことか」
「ええ、最初にあった頃から少しはお互いのことを知れたともうからこれを機に違和感を払拭しようと思って」
「わかったよ、薫。・・・こんな感じで良いのか」
「ええ、少し恥ずかしがっているのはこれからの課題ね」
「それは、はい」
「それとこれからは私も晶君って呼ぶから」
「まあ、それはそうなるか」
「ええそれじゃ、また明日部活でね晶君」
「お、おうお疲れ」
電話を切った後も黒崎、いや薫の晶君という声が頭に残っていてふわふわした感じになる。
今日は一日凄いことが起きた、薫の家の部屋で女子二人とくつろいだり。
帰りのバスでは海に告られて、帰ってきたら薫と名前で呼び合うようになった。
「これはあれだな、明日俺死ぬかもしれないな」
「何言ってんの、もうご飯出来てるよ。早く起きろ」
現実的な姉の言葉で我に返って、いつの間にかそんな時間になっていたことに気づく。
夕飯を食べてから風呂に入り、着替えてからいつものように自分のベットでごろごろしていた。
なにもしないと、今日のことを思い出して色々と考える。
海に告白されたとき、かなり驚いた。
小学生の時は確かに俺も海に好意を抱いていたが今となってはただの長いつきあいというか昔馴染みといった感じだと思っていた。
でも海の言葉にずっと前からというのを聞いて初めて知った、そんなこと想像すらできない。
小学校の時から今までそんなそぶり見せなかった、いや俺自身も見ようとすらしてなかったんだろう。
気づくはずがない、高校生になってから海とまともに話すようになったからだろう。
ただ本当に急な話で頭が追いついていない、それを見越して海もあの場で返答を要求してこなかったんだろう。
流石に俺の事がわかってる。
薫の件は割と簡単なのだが、慣れるまでしばらく時間も掛かるし周りからどんな目で見られるかちょっと想像したくない。
最初から名前呼びならまだ良かった、問題は明らかな変化があったということ。
呼び方が変わるくらいだからなにかがあった事なんてすぐにわかる。
あまり人目が着くところでは控えることにしよう。
明日まで部活があってそれが終わればしばらくはお盆で部活も休みになる。
色々と考えるのはそれからにしようと思いもう寝ることにした。
起きてから部活に行き校門前で降りると、海と一緒になった。
昨日のことがあったばかりで正直顔をあわせずらいがどうしたものか。
「おはよう、どうしたの早くグラウンド行かないの?」
「おう、おはようそりゃ行くよ」
「なによそんなに挙動不審になちゃって昨日の事?」
「あいかわらず俺に対しては直球だな」
「いまさら晶に対して取り繕っても意味ないでしょ、それにこれからはこういう感じで行くって決めたし」
「なんだよそれ」
「私もう隠さないから、晶にだけは正直でいたいのもう偽ったりしない。だから晶もちゃんと考えてね」
「俺は、その。もう少し時間が欲しいかな」
「うん、大丈夫だよ私晶の事信じてるから。ほーら早く行こう今日はやることたくさんあるんだから」
「ちょ、おい待てってわかったから引っ張るな」
今日はお盆前ということで前半少し練習をしてから後半は部室やグラウンドの掃除をする予定になっている。
「おはよう、晶君」
「おう、今日は元気そうだな」
「・・・ちょっと」
「えっ?」
普通に挨拶しただけなのになんだかむくれているような気がする、なにか気に触ったのだろうか。
「今の流れだと、お互いに名前を呼び合う感じじゃないの?」
「それでちょっと怒ってるのか」
「怒ってるわけじゃないけど、なんだか不公平じゃない、私だって恥ずかしいのに」
「わかったよ、ごめんなさいでした薫。これでいいか?」
「よろしい、慣れるには何事も繰り返す事よ晶君」
今朝からなんだかおかしい二人の好感度がなかなか高くなっている、俺かしたっけ?
これがモテ期というやつなのだろうか。
部活も終わってから帰る時になると三人一緒になってしばらくバスまで時間を潰すことになったのだが。
「あれ、薫ちゃんいつから晶のこと名前で呼ぶ用になったの?」
「海さんこそなんだか晶君との距離が近くなってないかしら気のせい?」
これはあれか昨日事があったせいで修羅場に立ち会うことになってしまったのか、うわあ二人とも顔笑ってるのに目がやばいんだよな。
「うわあ、やっぱりあの二人そういうことだったんだね」
「今度は普通に取り合ってる感じだね」
「・・・ちっ。」
やばい、他の陸上部の方々からの視線を感じる。男子からはもうこっちを射殺さんとしている、舌打ちがめっちゃ大きく聞こえてくるなにそれ怖い。
周りの見えてない二人はそれからのヒートアップしてきて、本当にこの二人って仲良いんだなと現実逃避するしかなかった。
お盆に入って皆と会う機会が減るからいいものの休み明けがどうなるか考えないようにした。




