第42話 招かれざる来島者
今日はいよいよお父さんがうちに来る日、私はずっと不安だけれど今の私には海さんと晶君がいる。
その存在が私に力を与えてくれるそんな気がする、だから大丈夫だ。
「薫、大丈夫。無理して下に降りて来なくてもいいのよ」
「ううん、大丈夫ちゃんと伝えないといけないから」
「そう、わかったわ」
今は夕方、母親がいつも仕事から帰ってくる時間だ。
いつ来るかは事前に聞いているもうそろそろだ、チャイムがなって母が玄関に向かう。
久しぶりに見た父親は少しやせていてあまり覇気がないように感じる、頭の白髪も増えている、でも漂う煙草の臭いは変わっていなかった。
「久しぶりだな、薫」
「久しぶり」
「まあ、座ってください。今日は話をしに来たんでしょう」
「ああ、それにしても薫だいぶ印象が変わったな前はもう目を合わせてもくれなかったのに」
「それは・・・」
「もう良いでしょう、早く本題に入ってちょうだい」
今日のお母さんは少しばかり気が立っていた、私から見てもちょっと怖い感じだけどお父さんの方は全然動じていなくて飄々としていた。
少し不気味だった。
「わかった、単刀直入に言おう。また東京で一緒に暮らさないか?家族三人で」
「それは無理な相談です、今の生活で私も薫も充分ですから」
私もその母の言葉に頷く、私はこの島を離れるつもりはない。
「そういうと思ったよ、でも俺だってもう改心したんだ。二人にはひどいことをした本当に済まないと思ってる」
「その言葉がそう簡単に信じられるものですか、それくらいのことを貴方は私たちにしてきたんですよ」
「わかってるつもりだよ、それにな花子ここでの生活はどうだ?生活費は足りてるのか。女手一人で高校生の娘を育てるのは大変だろう」
「・・・何が言いたいんです」
お父さんは胸のポケットから何かを取り出した、それは少し分厚い封筒。
「これといってはなんだが前金だ。受け取ってくれ」
「ふざけないでください!」
それはなんとお金だった、おそらく中身は袋の暑さからして数十万。これだけの大金をいったいどうやって。
「新たに事業を立ち上げてね、それが上手くいって今ではこの通りさ」
「お金の問題なんてどうでも良いんです」
「でも、これ以上どう誠意をしめせばいいだ?」
「もう帰ってください」
「・・・わかった、また明日も来るからゆっくり話し合おう。よく考えた方が良い薫の将来の事もある」
そうして向けられた父の視線はなんだか不快で、思わず身震いがした。
「薫大丈夫心配しなくてもいいのよ、お母さんに任せて」
母の抱きしめられても父への恐怖心がなくなる事はなかった。
今日もお父さんは家にやってきた、母もひとまず話を聞くようだがそれも長くは保たなかった。
「昨日の分とそれと追加の分だ受け取ってくれないか」
開口一番用意された封筒を差し出してきた、それも今度は昨日よりも多いお金を持ってきていた。
「お金の問題じゃないと言ってるじゃないですか」
「まあ、よく考えてみてくれ。これから薫も大学に進学するかもしれない。だろう薫」
「確かにそのつもりだけど」
「そうだろう、ならお金が多いに越したことはないそれに今の学校よりも良い学校が東京にはたくさんあるそっちの方が学力も上がる。お前ももう働かなくてもいいんだ」
「さっきから羽振りのいい話ばかりだけど、今はいったいどんな仕事をしてるんですか」
「あー、それはな人材派遣の会社だよ。それは今はどうでも良いじゃないか」
「さっきも言いましたがお金の話じゃないんです、それにそんなにお金があるなら私達に執着する理由は?」
「そんなの決まってるだろう、二人が大切なんだよ。お前も薫も。俺はなこれでも二人に認めてもらうために必死だったんだぞ?」
「確かにそうですが・・・」
お母さんか少し悩んでいる、確かにここまで頑張っているのは確かだ昔よりも収入が増えている。
しかしそれでも心の中の不信感は消えてくれない。
「薫はどうなんだ、今の生活は。この島には都会よりも色々不便だろう買い物もするところなんてあったのか?」
「あります、友達とも買い物に行きました」
「でもな、正直言ってこんなつまらない島にいるより都会で遊んだ方が楽しいぞ」
そのあまりに無神経な物言いに流石の私も頭に来た。
「そんなことなんかない、私は都会よりも島の暮らしの方が良い。この島はつまらないところなんかじゃないんです!」
久しぶりにこんなに大きな声を出してしまった、これにはお父さんや母までも驚いている。
でもそんな事を気にしてる場合ではないこのままの勢いで言いたいことは言うべきだ。
「私はこの島を離れたくないです」
「わかった、今日はこのあたりにしておく」
今日はこれで引いてくれるようだ、私としてはもう言うことはないからあとは母親に任せようと思っていた。
でも去り際に見せた父親のこちらを見る目がとても怖いものでもう我慢の限界が来ていた。
「お願いもう少しだけ力を貸して、海さん晶君」




