第38話 いつもの外側
それから、数日が経った。
俺はフローレの東門を出て、山へ向かっていた。
今日は鉱物資源の採取依頼を受けている。
東門を出ると、しばらく平原が続く。
その先に山がある。
山道を越えた先には、ヴァルムスという町がある。
森の中にある町だ。
今日向かっているのも、その山だった。
町からそれなりに距離があることや魔物が生息している鉱洞のため、D級に分類されている。
山道を歩きながら、周囲を見渡す。
木々が多く、足元には大小様々な石が転がっている。
道そのものは整備されているが、進むにつれて人の気配は少なくなっていく。
依頼書に書かれていた場所までは、もう少しだ。
俺は周囲を確認しながら歩く。
少し進んだところで、目的の場所が見えてきた。
山道から少し外れた場所に、岩壁がある。
その岩壁には、小さな洞窟が開いていた。
俺は洞窟へ入る。
中は薄暗い。
目を凝らせば見えなくはないので灯りを用意せず、そのまま歩く。
少し進むと、岩肌に翡翠色の鉱物が露出しているのが見えた。
依頼されているのは、この鉱物だ。
俺は鉱物へ近づく。
収納袋からツルハシを取り出し、採取を始める。
カン、カンと金属の音が洞窟に響き渡る。
しばらく作業を続ける。
必要な量は、それほど多くない。
(これなら今日中には終わりそうだ)
そう思っていた、そのときだった。
少し離れた岩陰から、何かが動いた。
俺は手を止める。
岩陰から、蛇型の魔物が姿を現した。
一体。
俺を見る。
魔物もしばらくこちらを見ていた。
だが、襲ってくる様子はない。
そのまま別の場所へ移動していった。
俺も特に気にせず、採取を続ける。
必要な量を集め終えると、採取した鉱物を収納袋へ入れる。
これで依頼は終わりだ。
あとは戻るだけ。
俺は洞窟を出る。
洞窟に目が慣れていた所為か、外の明るさが少し眩く感じる。
山道へ戻り、フローレへ向かって歩き始める。
しばらく進んだところで、水の音が聞こえてきた。
ここの近くには確か滝がある。
俺は音のする方へ向かう。
少し進むと、木々の向こうに水が流れ落ちているのが見えた。
記憶にあった通り、山の上流からかなりの高さがある滝だった。
滝の水は大きな湖のような場所に溜まり、その水も下流へ流れている。
俺は足を止める。
ここの水が絶えたことはない。
そんなことを思い出しながら、湖を眺めていると――
滝の方から、水を掻き分けるように何かが現れた。
巨人型の魔物だった。
「えっ……」
出てきた感想は小さな驚きだった。
滝の水を抜けるようにして、こちらへ姿を現す。
「……トロルか。」
俺はトロルを見る。
だが、こちらへ襲いかかってくる様子はない。
トロルも俺を一度見ただけだった。
そのまま湖に沿って、ゆっくりと歩いている。
俺はトロルから離れるように、湖の反対側へ回る。
滝の近くまで歩いていく。
水しぶきが少しずつ強くなる。
俺は滝を見る。
さっき、ここからトロルが出てきた。
滝の水が落ちているため、その奥はよく見えない。
俺は滝へ近づく。
水しぶきを避けながら、その裏側へ回り込む。
すると、そこには人一人が通れるほどの空間があった。
自然にできたものなのか。
それとも、誰かが作ったものなのか。
俺には判断できない。
少し中を覗く。
奥は暗く、先が見えない。
「人目のつかない洞窟ってとこか」
トロルがここから出てきた以上、奥に何かあるのかもしれない。
俺はそのまま、奥へ進んだ。
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しばらく歩く。
滝の音が少しずつ遠くなる。
さっきの鉱洞よりも暗く、周囲の様子がほとんど分からない。
俺は炎の魔術式を借りる。
手の中に炎が現れる。
炎を維持したまま、奥へ進もうとする。
そのとき――
バッシャーン!
外から大きな水音が聞こえた。
「……?」
俺は足を止める。
湖の方から聞こえたようだ。
さっきのトロルが何かしたのだろうか。
トロルにそんな習性があったか、少し考える。
「……」
思い出せない。
俺は滝の方を見る。
だが、ここからでは湖の様子は見えない。
少し待ってみる。
それ以上、何かが起きる様子はなかった。
俺は気にせず、奥へ進む。
そこには普通の岩とは違う鉱物が混じっていた。
淡い光を帯びた鉱物、魔鉱物だ。
魔力の濃い場所では、魔鉱物が見つかることがある。
だが、ここにあるものは普通の魔鉱物よりも希少性が高い。
その近くには、植物も生えていた。
「ヒエリ草……」
魔力の濃い場所でしか群生しない高級薬草だ。
俺は周囲を見渡す。
壁にも、同じ魔鉱物がいくつも埋まっている。
せっかくなので、魔鉱物と、ヒエリ草を採っておく。
収納袋へ入れ、さらに奥へ進む。
「……」
俺は少し考える。
魔力の濃い場所でしか見られない資源、不自然な空間、魔物の存在。
どれも、この場所が普通の洞窟ではないことを示している。
ただの魔力溜まりか、それとも……。
それだけでは判断できず、俺はそのまま歩く。
しばらくすると、洞窟の壁が少しずつ変わってきた。
岩肌が平らになっている。
床も同じだった。
自然にできたとは思えないほど、一定の形に整えられているような滑らかさがある。
それでも、まだ洞窟のような場所は続いている。
俺は周囲を見る。
よく観察してみると、壁に細い線が走っていた。
床にも同じ線がある。
線は一定の形で描かれており、ようやく俺はここがなんなのかを理解する。
その瞬間だった。
足元の線が紫色に光った。
光は瞬時に走り出す。
足元から壁へ。
壁から奥へ。
紫色の光が、次々と魔力回路に伝わっていく。
この現象には見覚えがある。
——ダンジョンの外敵反応。
人種がダンジョンの領域に入ると、外敵として認識される。
ただし、ここはまだダンジョンそのものではない。
ダンジョンの外縁。
外敵の侵入を知らせるための領域だ。
紫色の光は、さらに奥へ進んでいく。
「面倒なことになった」
すると、遠くから音が聞こえた。
何かがこちらへ近づいてくる。
俺は奥を見る。
暗闇の中から、次々と魔物が姿を現した。
大きな身体と強い腕力を持ち、単純な行動を繰り返す知性の低い巨人型の魔物——トロル。
身体を自在に変形させ、物理的な攻撃が効きにくい半透明のゲル状の魔物——スライム。
青白い火の玉のような姿をした、魂を死へ誘う幽霊の魔物——ウィルオウィスプ。
円形に生え揃えた歯で人の肉を喰らう、柔らかく細長い虫の魔物——ワーム……。
狭い空間を埋めるように、魔物が絶え間なく溢れ出す。
魔物達は俺を視認するや否や、迷いなく走り込む。
「気色悪い魔物の安売りかよ」
そんな悪態が溢れ、口角が上がる。
ここなら人の目はつかない。
なら、速攻で終わらせられる。
俺は灯りに使っていた炎の魔術をやめ、自分本来の魔術を行使する。
それは何の前触れもなく、魔物達の動きを止めた。
俺は魔物を見る。
今回も奴らの生命活動を瞬時に終わらせてやろうかと、そう思った。
だが、少し考える。
「一応、今回はこうしないといけないな」
次いで、魔物に向かって腕を伸ばす。
再度、炎の魔術を借りる。
今回は生半可なものではない。
今までは、初級の火球を使っていた。
上級に分類される、威力特化の炎を放つ。
白く輝く炎が、狭い通路を一直線に走った。
逃げ場のない魔物達を、まとめて炎が包み込む。
俺はその場を離れ、入口の方へと引き返す。
その炎に照らされ、俺の影が目の前へ長く伸びていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
不穏な影が......。
ということで!ファンタジー世界の定番要素を入れてみました。
今後の物語の展開は如何に?




