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支配の魔術師と名を持たぬ少女  作者: 雪美夜
第二章 『』

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第37話 薬学

 クレープを食べながら、家へと戻って行く。


 小豆という遠方の特産品を使ったクレープということもあり、銅貨三、四枚で済むところを銅貨六枚と、少し値が張った。


 それでも、アマネは満足そうにクレープを食べていた。


 家に着き、中へ入る。


 窓辺には、花祭りのときに飾っていた花が、ジュース瓶に生けられている。


 ラフィアがその花を眺めたあと、窓の外へ目を向けた。


 そして、少しだけ言いにくそうにこちらを見る。


「……あの、カナタさん」


「なんだ?」


「少し、図々しいお願いがありまして……」


 ラフィアはそう言って、窓の外へ目を向ける。


 庭には、木で組まれた簡素な乾燥棚がある。


「あの棚なんですけど……」


 ラフィアが指差す。


「使わせてもらっても、いいですか?」


 いつもより少し控えめな声だった。


「なぜそんなことを?」


 唐突なお願いに、疑問が浮かぶ。


「実は私、少々薬学をたしなんでいまして」


「薬学か」


「薬学って、なんですか?」


 それまで黙っていたアマネが口を挟む。


「薬草の扱いについて学んだり、簡単な薬を作ったりするための勉強ですよ」


「薬……」


 アマネはラフィアを見る。


「ラフィアさんは、お医者さんなんですか?」


「ふふ。お医者さんというわけではありませんよ」


 ラフィアは少し笑う。


「薬草を使って、熱や頭痛、腹痛なんかを和らげる薬、傷薬を作るといった簡単なものをいくつかですね」


 指を立てながら説明する。


「薬草によって効き方も違いますから、どの薬草をどれくらい使うかを覚えたり、乾燥させたり、保存したりすることも大切なんです」


「へぇ……」


 アマネは感心したように頷く。


「じゃあ、薬草を乾燥させるのも、そのためなんですね」


「はい」


 ラフィアは庭の棚へ目を向ける。


「乾燥させた方が長く保存できますし、必要なときにも使いやすくなりますから」


「それは分かったが……」


 俺は窓の外を見る。


「乾燥させるだけなら自分の家でもできるだろ?」


「私の家には、こうして外に薬草を広げておける場所がなくて……」


「家の中は?」


「できないことはないんですけど、薬草を広げておくと邪魔になりますし、家族から匂いも残るからと止められていまして……」


 ラフィアは庭の棚を見る。


「ここなら風も通りますし、乾燥させるにはちょうどいいと思ったんです」


 俺は少し考える。


「出来合いのものを店で買うっていうのは?」


「私も以前は、よく買っていましたよ。ただ……乾燥させたものは、同じ重さでも少し高いんです」

 

「例えば、生の薬草なら銅貨二枚分で買える量でも、乾燥済みの薬草になると銅貨三枚くらいしたりします。一回だけなら、それほどでもないんですけど……」


 ラフィアは苦笑する。


「何度も買っていると、結構な差になりますから……」


「塵も積もれば、か……。それなら、自分で乾燥させて安く済ませた方が合理的と」


「そういうことです」


 ラフィアが頷く。


「私もたまに、外の依頼を受ける時はありますので、その時に採っておけば、あとはここで乾燥させるだけで済みます」


「なるほどな」


「最近、収納袋も買いましたから、少しでも節約できればと思いまして」


 ラフィアが収納袋を買ったことは知っている。


 それなら……。


 俺はラフィアへ向き直る。


「別に構わんぞ」


「……いいんですか?」


 ラフィアの表情が明るくなる。


「最近、俺自身も使う機会が減ったからな。埃を被せるよりいいかもな」


「ありがとうございます!」


「気にするな」


 俺はそう言って、話を終える。


 すると、アマネがラフィアを見る。


「ラフィアさん」


「はい?」


「もう少し、薬草について教えてもらってもいいですか?」


「もちろんですよ」


 ラフィアが微笑む。


「薬草には色々な種類があります。中には、毒性があり、使う量や扱い方によって、薬にも毒にもなる危険なものもあります」


「毒にもなるなんて危なそうです」


「そうですね。ですが、扱い方さえ知っていれば、それは人を助ける薬になります」


「難しそうですね」


 アマネは少し考える。


「でも、ラフィアさんは治癒魔術が使えますよね?」


「はい」


「それなら、どうして薬草の勉強をしているんですか?」


「治癒魔術だけでは、治せないものもありますから」


「治せないもの?」


「怪我なら治せることが多いですが、病気まで同じように治せるわけではありません。病原体が原因になるものなどは、別の方法が必要です」


「そうなんですか」


「ええ。だから私は、治癒魔術だけに頼らず、他にも人を助ける方法を知っておきたいんです」


 ラフィアはそう言って、近くの椅子へ向かう。


「よければ、もう少しお話ししましょうか」


「はい!」


 アマネも嬉しそうに頷く。


 二人は並んで椅子に座り、薬学について話し始めた。


 俺はその様子を見ながら、ベッドへ腰を下ろす。


「……」


 椅子は二脚しかない。


 今は問題ない。


 俺がベッドに座ればいいだけだ。


 だが――。


 (もう一脚くらい、あってもいいのかもしれない)


 そんなことを考えながら、二人の話を聞いていた。


 薬学。


 俺にはあまり縁のない分野だ。


 今まで薬草は採って乾燥させて売るくらいにしか考えていなかったし、薬も必要になったら薬師から買えば事足る。


 薬を作るとなると、色々と勝手が違うらしい。


 まだよく分からない話ではあるが、頭の片隅に記憶しておいた。

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