↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支配の魔術師と名を持たぬ少女  作者: 雪美夜
第二章 『』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/43

第36話 女の子の必需品②

 私は一組の下着を選んでみた。


 どちらも小さな赤いリボンが付いた、可愛らしいものだ。


「せっかくなので、鏡で見てみましょうか」


「鏡ですか?」


「はい。実際に身につけた時の雰囲気を確認できますよ」


 店員さんに声をかけると、試着用の場所に案内された。


 衛生面に配慮されているらしく、試着の際には専用のカバーを使うことになっている。


 私は教えられた通りにして、鏡の前に立つ。


「……」


 鏡に映った自分を見る。


 いつもとは少し違うものを身につけている。


 なんだか不思議な感じがした。


「どうですか?」


 ラフィアさんが尋ねる。


「……可愛らしくて好きです」


「ふふ。よかったですね」


 試着を終え、次の商品を見る。


「これはどうでしょう?」


 ラフィアさんが手に取ったのは、淡い緑色のものだった。


 小さな蔓の模様が入っている。


「これも好きです」


「では、これも候補にしましょう」


 次に見つけたのは、淡い水色のもの。


 小さな花の模様が入っている。


「これも可愛いですね」


「アマネちゃんは、こういう淡い色が好きなんですね」


「はい」


 その次は白いものだった。


「これも気に入りました」


「では、こちらもですね」


 いくつかの商品を見比べる。


 色や模様だけではなく、布の感じも少しずつ違っていた。


 気になったものは、実際に確認していく。


 そして、鏡で確かめる。


 どれも気に入った。


 その中から、特に好きなものを選んでいく。


「これにします」


 小さな赤いリボンのある白色のもの。


 小さな蔓の模様が入った淡い緑色のもの。


 花の刺繍が施された淡い水色のもの。


 淡い紫色のもの。


 そして、純白の無地のもの。


 どれも淡く、控えめなものばかりだ。


 私は選んだものを見て、これでいいと思った。


 五組を選び終える。


「こちらでよろしいですか?」


 店員さんが尋ねる。


「はい」


 店員さんが値段を確認する。


「一組、銅貨六枚になります」


「六枚……」


 私は考える。


 一組が銅貨六枚。


 それが五組。


「六枚が五つ……三十枚です」


「はい。全部で銅貨三十枚になります」


 私は自分の持っている銅貨を見る。


 三十枚。


 カナタさんからもらった分と、ちょうど同じだった。


「これで、全部ください」


 私は銅貨を一枚ずつ数えて、店員さんへ渡す。


「はい。ありがとうございます」


 店員さんがお金を受け取る。


 そして、選んだものを包んでくれた。


「こちらになります」


「ありがとうございます」


 私は包みを受け取る。


 自分で選んだもの。


 自分で値段を計算して、自分で買った。


 少しだけ、嬉しかった。


「よかったですね、アマネちゃん」


「はい」


 ラフィアさんが微笑んでいる。


 私は店の入口を見る。


 カナタさんは、まだ戻ってきていない。


「カナタさん、まだですね」


「そうですね」


 ラフィアさんも入口へ目を向ける。


「もう少しかかるかもしれませんね」


「はい」


 少し待ってみる。


 けれど、カナタさんは戻ってこない。


 ラフィアさんが店内を見回した。


「……せっかくですし」


「?」


「私も少し見てみましょうか。私も新調しようか考えていましたので」


「そうなんですか?」


「はい」


 ラフィアさんは大人用の棚へ歩いていく。


 私はその後についていく。


 さっきまで見ていた棚とは違い、こちらには大人用の商品が並んでいる。


 子供用とは、形そのものが違っていた。


 私は、その中の一つを見る。


「これは……」


 見覚えがあった。


「これ、知っています」


「そうなんですか?」


「はい。前に見たことがあります」


 奴隷だった頃。


 周りにいた大人の女性が、同じようなものを身につけていた。


 けれど、それが何なのかは知らなかった。


「それはブラジャーですね」


「ブラジャー?」


「はい。大人用の上の下着です」


 私は、さっきまで見ていた子供用の下着を思い出す。


 子供用には、キャミソールと呼ばれる、肩紐の付いた上着のような形のものが多かった。


「どうして、形が違うんですか?」


「特に胸の成長に合わせて、こういう形の下着が必要になるんですよ」


「そうなんですか」


 私は棚を見る。


 同じブラジャーでも、大きさがいくつかに分かれている。


 形も、一つ一つ違っている。


 胸をしっかり覆うように作られたもの。


 上の部分が浅く作られたもの。


 肩紐が細いものや、紐の付き方が違うものもある。


 布地も様々だった。


 細かな刺繍が入っているもの。


 縫い目が目立たないもの。


 透けているように見えるもの。


 ところどころに穴が開いているものもある。


 中には、布地が少なく、細い紐のような部分だけで形を作っているものもあった。


「……色々ありますね」


「そうですね」


 ラフィアさんが頷く。


「人によって身体に合うものが違いますし、着る服によって選ぶものも変わりますから」


「なるほど……」


 私は棚を見ていく。


 その中に、特に気になるものがあった。


 今まで見ていたものとは、少し形が違う。


「これは……?」


「はい?」


「これも、肌を守るためのものなんですか?」


 ラフィアさんが商品を見る。


「……」


 ラフィアさんの動きが、少し止まった。


「ええと……」


 ラフィアさんは頬を少し掻き、視線を逸らした。


「まあ……そういう使い方をするものもあります」


「そうなんですか?」


「はい」


 ラフィアさんは、それ以上は何も言わなかった。


 私は商品を見る。


 形は分かる。


 けれど、どうしてこういう形になっているのかは分からない。


「下着って、色々な形があるんですね」


「そうですね」


 ラフィアさんが少し困ったように笑う。


「大人になると……まあ、色々あるんですよ」


「色々……」


「はい」


 私は頷く。


 まだ知らないこともある。


 けれど、今はそれでいいのだと思った。


「そ、そんなことより!」


 ラフィアさんが、少し慌てたように声を上げる。


「私も選んでみましょうか」


「はい」


 ラフィアさんは棚へ向かう。


 いくつかの商品を手に取って、見比べている。


「これなんか、よさそうですね」


「そうなんですか?」


「ええ。試してみます」


 ラフィアさんが商品を持って、試着用の場所へ向かう。


 私も後を追う。


「アマネちゃんは、ここで待っていてくださいね」


「分かりました」


 しばらくすると、ラフィアさんが出てきた。


 きめ細やかなレースがあるワインレッドを着けている。


「これ……どうでしょう?」


 ラフィアさんが少し恥ずかしそうに尋ねる。


 私はラフィアさんを見る。


 普段着ている服とは違う、女性向けの衣類。


 色も形も、ラフィアさんによく似合っているように見えた。


「似合っていると思います」


「本当ですか?」


「はい」


「よかった」


 ラフィアさんが鏡を見る。


 少しだけ姿勢を変えながら、確認している。


「これなら大丈夫そうですね」


「はい」


 ラフィアさんは鏡を見ながら、しばらく考えていた。


「母も、こういうものを選ぶときは大変だったみたいです」


「そうなんですか?」


「ええ。私よりもずっと大きかったので」


「そうなんですね」


「昔からそうでしたよ」


 ラフィアさんが少し笑う。


「私が母の服を借りようとしても、大きすぎて合わなかったんです」


「なるほど……」


 私はラフィアさんの話を聞く。


 家族でも、身体の大きさは違うらしい。


 そんな話をしていると、店の奥からカラン、と音が聞こえた。


「……?」


 私は音のした方を見る。


 誰かが店に入ってきたようだった。


「いらっしゃいませ」


 店員さんの声が聞こえる。


 そのあと、少し離れたところで話をしている声が聞こえた。


 何を話しているのかまでは、よく聞こえない。


 やがて、


「でしたら、こちらです」


 店員さんの声がした。


 足音が近づいてくる。


 ラフィアさんも、音の方へ顔を向けた。


 やがて、通路の向こうから店員さんが姿を見せる。


 その後ろに、カナタさんがいた。


「あ……」


 ラフィアさんの動きが止まった。


 カナタさんがこちらを見る。


 そして、ラフィアさんを見る。


「……いたな」


 それだけ言うと、カナタさんは踵を返した。


「……」


 ラフィアさんは、しばらく何も言わなかった。


 やがて、ゆっくりとカーテンを閉めた。


「ラフィアさん?」


「……はい」


「どうしました?」


「いえ……なんでもありません」


 そう言ったラフィアさんの声は、少し上ずっていた。


——————————————————————————


 俺が待っていると、試着室からアマネとラフィアの二人がやって来た。


「お、お待たせしました」


 ラフィアは、どことなくよそよそしい。


 その手には、先ほど選んだ品物が包まれている。


 会計を済ませると、ラフィアは包みを自分の収納袋へ入れた。


 アマネは、自分の包みを抱えている。


「どうやら買えたようだな」


「はい。お金は全部使っちゃいましたが、ちゃんと買えました」


「よかったじゃねぇか。それと、アマネに渡す物がある」


 俺は収納袋を漁り、一つの革製品を取り出す。


 なめしてある、赤茶色の革財布。


「これは?」


「アマネの財布だ。今後、こうやってお金を預ける機会もあるかもしれないからな」


 俺は自分のズボンのポケットから、もう一つ財布を取り出す。


 黒色の革財布だ。


「俺のもちゃんと買ってある」


 二つの財布を並べて見せる。


 どちらも作りは似ている。


「お揃いですか?」


 ラフィアが二つの財布を見て尋ねる。


「同じ店で買ったからな」


「ふふ。そうですね」


 ラフィアが微笑む。


「アマネ。これはお前が使うものだから、自分で管理するんだ」


「はい」


 アマネは赤茶色の財布を両手で受け取った。


「大事に使います」


「ああ」


 アマネは財布を大切そうに抱える。


 これで買い物も終わった。


「そろそろ帰るか」


「はい」


 三人で店を出る。


 家へと歩き始めるところで、アマネが小さく口を開いた。


「あの……」


「なんだ?」


「少し、お腹が空きました」


「もうか?」


「……はい」


 アマネは少し考える。


「何か、食べたいです」


「朝飯を食べてから、そんなに経ってないぞ」


「そうなんですけど……」


 アマネが少しだけ視線を逸らす。


「クレープとか……」


「またクレープか?」


「……好きなので」


 アマネが小さく答える。


 お腹が空いているのか。


 それとも、ただクレープが食べたいだけなのか。


 俺にはよく分からなかった。


「まあ、軽く食べるくらいならいいか」


「はい!」


 アマネの顔が少し明るくなる。


「ラフィアはどうする?」


「それってカナタさんの奢りですか?」


 今回の買い物は、俺には分からないことが多かった。


 特にアマネの身につけるものについては、俺が詳しく知っているわけでもない。


 だから、今回もラフィアに任せた。


 勉強を教えるときもそうだった。


 俺にはできないことを、ラフィアがやってくれている。


 それなら、これくらいの礼はしておいてもいいだろう。


「ああ」


「やった!」


 ラフィアが嬉しそうに笑う。


「じゃあ、どんなクレープを食べましょうか? アマネちゃんは何かありますか?」


「んー……」


 アマネが少し考える。


「前に食べた、あんこの入ったものがいいです」


「食べ放題の時のですか?」


「はい。美味しかったので」


「そうですか」


 ラフィアが微笑む。


「じゃあ、それにしましょうか」


「はい!」


 俺たちは、軽くクレープを食べてから帰ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。