第35話 女の子の必需品①
これと次の話は少し○○回。
翌朝。
俺とアマネは朝食を食べていた。
焼いたグラスボアの肉に塩をかける。
それだけの簡単な朝食だ。
他には、皮を剥いて食べる果物と、漬けて保存してある野菜がある。
アマネは果物の皮を剥いていた。
剥いた皮を皿の端へ寄せる。
「これ、甘いですね」
「そうか」
「はい」
アマネは一口食べ、嬉しそうに頷いた。
俺も肉を食べる。
食事を済ませ、俺は食器を持って外へ出た。
水を汲み、使った皿を一枚ずつ洗っていく。
その間、アマネは部屋の掃除をしている。
床に落ちた埃を掃き、テーブルを拭いている。
いつもと変わらない朝。
そんな時、聞き慣れた声の鼻歌が近づいてきた。
「〜〜♪」
低い木柵の向こうから、ラフィアの姿が現れる。
今日はカバンを下げていない。
いつもの家庭教師として来た時とは、少し様子が違う。
ラフィアは俺に気づくと、こちらへ手を振った。
「おはようございます!」
「おはよう」
ラフィアは木柵の入口を開け、庭に入ってくる。
「朝からお邪魔しますね!」
「ああ」
鼻歌を歌いながら、ラフィアが歩いてくる。
随分と機嫌がいい。
「今日は機嫌がいいな」
「分かります?」
「分かりやすく鼻歌を歌っているからな」
ラフィアは満面の笑みを浮かべる。
「実はですね! 収納袋を買えたんです!」
「なるほどな」
「ずっと欲しかったんですけど、高くてなかなか買えなくて。それで、少しずつお金を貯めていたんです。ようやく買えるだけ貯まったので、昨日買ってきました!」
「よかったな」
「はい! これで荷物を持って歩くのが楽になります」
「どの程度のものなんだ?」
「荷馬車二、三台分くらいのものです!」
ラフィアは腰に下げた収納袋を見る。
「これくらいあれば、私には十分です」
「アマネちゃんは?」
「家の中を掃除中だ」
その時、裏口の扉が開いた。
「カナタさん」
アマネが顔を出す。
「掃除、終わりました」
アマネはこちらへ歩いてくる。
そして、ラフィアに気づいた。
「あっ」
「おはようございます、アマネちゃん!」
「ラフィアさん。おはようございます」
「今日は遊びに来ました!」
アマネは嬉しそうに笑う。
「それで、今日は何をするんですか?」
「特に決めていません! 昨日、収納袋を買えたので、今日は少しゆっくりしようと思いまして」
ラフィアは腰の収納袋を撫でる。
「せっかくなので、アマネちゃんとも少しお話ししたいなと思って来ました!」
「そうか」
「はい!」
アマネは収納袋を見る。
「それが、昨日買った収納袋ですか?」
ラフィアは腰から収納袋を外し、両手で持ち上げる。
「そうですよ。買い物の時とか、素材採取の時にも便利なんです。それに、これなら本もたくさん持ち歩けますから!」
「本、ですか?」
アマネの目が少し輝く。
「ラフィアさん、何の本を持っているんですか?」
「今日は持ってきていませんけど、今度持ってきますね!」
「本当ですか?」
「もちろんです!」
二人が話している間に、俺は使い終わった食器を片付ける。
家の中へ戻ると、ラフィアとアマネも続いて入ってきた。
二人はテーブルを挟んで話をしている。
特に何かをするわけではない。
ただ、話をしているだけだ。
こういう時間も悪くないのだろう。
俺はそう思いながら、自分の寝台に座った。
「今日は天気もいいですし、よく乾きそうですね」
「ありがたいことにな」
庭には物干し竿がある。
そこには、洗った服が何着か干され、風で靡いている。
ラフィアは何気なく洗濯物を眺めていた。
そして、視線を止める。
「……あれ?」
「どうしました?」
ラフィアはもう一度、物干し竿を見る。
俺の服。
アマネの服。
その間に、俺の下着も干してある。
けれど、アマネのものはない。
「アマネちゃん」
「はい?」
「自分の下着って、持っていますか?」
「……下着?」
アマネが首を傾げる。
「はい。下着です」
アマネは少し考える。
「持っていません」
「やっぱりですか」
ラフィアは困ったような顔をした。
「カナタさん。アマネちゃんに、下着を買ってあげた方がいいと思います」
「子供にも必要なのか?」
「必要ですよ」
ラフィアは迷いなく答える。
「今まで持っていなかったんですか?」
「ああ。必要だと思っていなかった」
「アマネちゃんは?」
「私も……」
アマネは自分の服を見る。
「下着を使うことは知っています」
「知っているんですか?」
「はい。前に、大人が使っているのを見たことがあります。でも、自分も使うものだとは思っていませんでした」
「そういうことですか」
ラフィアは頷く。
「でも、アマネちゃんにも必要です」
「そうなんですか?」
「はい」
ラフィアは即答した。
「それなら、買いに行きましょう」
「今からか?」
「はい! ちょうど今日は暇ですから」
俺は少し考える。
「……分かった」
「ありがとうございます!」
ラフィアが笑顔になる。
「それで、アマネちゃんって何歳くらいなんですか?」
「年齢か?」
「はい。下着を選ぶなら、だいたいの年齢が分かった方がいいので」
「確か……引き取る時、市役所で八歳くらいだと言われていたな」
「八歳くらい……」
ラフィアはアマネを見る。
「骨格や成長具合で判断したとのことだ」
「そうなんですね……」
ラフィアは少し考えてから、俺を見る。
「……では、カナタさん」
「なんだ?」
「八歳くらいの女の子に、いつ下着を買うつもりだったんですか?」
「……」
答えられない。
「……考えていなかった」
「ですよね」
ラフィアは苦笑した。
「それなら、買いに行きましょう」
「そうか……」
言われてみれば、その通りだった。
「はい! ちょうど今日は暇ですから」
俺は頷く。
「……分かった」
「じゃあ、準備しましょう」
俺は立ち上がる。
出かける前に、家の中を確認する。
竈の火は消してある。
窓も閉めてある。
忘れ物がないことを確認してから、玄関へ向かう。
アマネも身支度を整える。
「準備できました」
「ああ」
三人で外へ出る。
俺は最後に扉を閉め、鍵をかけた。
「それじゃあ、行きましょう!」
ラフィアが歩き始める。
俺とアマネもその後に続く。
朝の街は、すでに人が増え始めていた。
店先では開店の準備をする人がいる。
荷車を引く者や、買い物袋を抱えて歩く者の姿もある。
朝の街は、少しずつ活気を増していた。
俺たちもその中を歩いていく。
「それで、女ものの下着はいくらするんだ?」
俺はラフィアに尋ねる。
「安いものなら、一組で銅貨二枚くらいからありますよ」
「男ものと、さほど変わらないな」
「はい。素材や作りで値段が変わります。少し丈夫なものや、見た目に凝ったものは高くなりますね」
「そういうものなのか」
しばらく歩くと、ラフィアが足を止めた。
「あ、ここです」
ラフィアが一軒の店を指差す。
「私がいつも行っている店です」
三人で店に入る。
「いらっしゃいませ」
女性の店員が朗らかに声をかけてくる。
店内には、男女それぞれの下着が並んでいた。
以前訪れた衣服店とは違い、畳まれた商品だけでなく、木製の人の胴体を模した展示台も置かれている。
そこには商品が一つずつ着せられていた。
棚には値段の違う商品が並んでいる。
白や淡い色のものもあれば、濃い色のものもある。
縁に飾りが付いたものや、花や蔓を模した刺繍が入ったものもあった。
「じゃあ、アマネちゃん。こっちですよ」
「はい」
ラフィアがアマネを連れて、女性用の売り場へ向かう。
その中でも、棚はいくつかの区画に分けられていた。
大人用と子供用に分かれているらしい。
ラフィアは迷うことなく、子供用の棚へ進んでいく。
アマネもその後をついていく。
「これなんかどうでしょう?」
ラフィアが棚から一組を手に取る。
「普段使いするなら、こういうものがいいと思います」
「そうなんですか?」
「あまり飾りが多くないですし、丈夫ですから」
アマネは手渡された下着を見ている。
俺は少し離れたところから、その様子を眺める。
やがて、ラフィアが振り返った。
「カナタさん」
「なんだ?」
「アマネちゃんの下着、五組くらい選んでも大丈夫ですか?」
「ああ」
俺は収納袋から銅貨を取り出す。
(五組なら最低でも二十枚か)
「五組なら、これくらいあれば足りるだろう」
銅貨を三十枚、アマネに渡す。
「これで買ってくるといい」
「……はい」
アマネは両手で銅貨を受け取る。
「俺はその間に財布を見てくる」
「財布ですか?」
「前々から買おうとは思っていたが、いい機会だからな」
「分かりました」
アマネが頷く。
「じゃあ、また後で」
俺は二人に背を向け、店の外へ出た。
か通りには、朝から買い物をする人の姿がある。
俺もその中へ入り、財布を売っている店を探した。
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「続きを見ていきましょうか」
ラフィアさんの一言に、私はもう一度、並んでいる商品を見る。
下着売り場は、値段ごとに棚が分けられていた。
棚の前には、木製の人の胴体を模した展示台が置かれている。
そこには、その棚の商品が一つ、着せられていた。
並べられているだけでは分かりにくい形も、これならよく分かる。
今見ている銅貨二枚の棚には、シンプルな下着が並んでいた。
白や淡い色のものが多い。
飾りも少ない。
私は並んでいる下着を見る。
「ラフィアさん」
「はい?」
「下着って、どうして着るんですか?」
ラフィアさんが少し考える。
「そうですね。下着には、いくつか役割があるんですよ」
「役割?」
「はい。肌を守ったり、汗を吸ったり。それに、服を直接肌に触れさせないことで、服を汚れにくくすることもできます」
「そうなんですか」
「はい。だから、毎日使うものなんです」
私は、もう一度棚を見る。
ただ服の下に着るものだと思っていた。
けれど、ちゃんと理由があるらしい。
「じゃあ、下着は必要なんですね」
「そうですよ」
ラフィアさんが頷く。
「それに、直接肌に触れるものですから、肌触りや動きやすさも大事なんです」
「肌触り……」
「はい。自分に合ったものを選ぶといいですよ」
私は棚の商品を見る。
「隣も見ていいですか?」
「もちろんです。これだけで決めなくて大丈夫ですよ」
一緒に隣の棚へ移動する。
そこには、銅貨三枚の下着が並んでいた。
こちらも上下で一組になっている。
けれど、さっきのものとは少し違う。
布が柔らかそうなものや、小さな飾りが付いたものがある。
花模様や水玉模様が入っているものもあった。
色も、白や淡い色だけではない。
はっきりとした色のものが多く、銅貨二枚のものより華やかに見える。
「こっちは少し違うんですね」
「そうですね。素材や見た目にも少し気を使っているんです」
私は棚を見比べる。
派手なものは、少し落ち着かない。
けれど、小さな模様や飾りがあるものは好きだった。
「……こっちの方が好きです」
気づけば、そう言っていた。
「そうですか」
ラフィアさんが笑う。
「では、こういうものを中心に探してみましょうか」
「はい」
自分が何を好きなのか。
まだ、全部は分からない。
けれど、淡い色や小さな模様を見ると、少し嬉しくなる。
そんなことに、少しずつ気づき始めていた。
「こちらも触ってみてください」
ラフィアさんが一組を手に取り、私に渡す。
指先で布に触れる。
「……柔らかいです」
「こちらは肌触りを大事にしているんです。直接肌に触れるものですから、そこも選ぶ時のポイントになります」
「肌触り……」
私はもう一度、布に触れる。
さっきのものとは、確かに違う。
色や模様だけでなく、触った感じも違うらしい。
「下着って、いろいろあるんですね」
「はい。毎日使うものですから、自分に合うものを選ぶといいですよ」
私は棚に並ぶ商品を見比べる。
色。
模様。
肌触り。
今まで知らなかった違いが、いくつもある。
「……もう少し見てみたいです」
「もちろんです」
ラフィアさんと一緒に、私は棚を見ていった。




