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支配の魔術師と名を持たぬ少女  作者: 雪美夜
第一章 『名前のない日々』

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第26話 花祭り③

 料理を食べるたびに、少女は少しずつ反応を変えていた。


 美味しいものには笑う。


 初めてのものには驚く。


 それでも、どれも自分で確かめている。


 少女が最後の一口を食べる。


 皿の上に残っていた料理がなくなった。


「ごちそうさまでした」


 少女が小さく呟く。


「はい。ごちそうさまでした」


 ラフィアも笑う。


 少女は空になった皿を見つめる。


 それから、料理の並んでいる台へ目を向けた。


「……」


 まだ食べていない料理がある。


 少女はしばらく考えていた。


「どうしました?」


 ラフィアが尋ねる。


「……まだ、食べてもいいんですよね?」


「もちろんですよ」


「何度でも?」


「何度でもです」


 少女の目が少し大きくなる。


 もう一度、料理の並ぶ台を見る。


 最初とは違った。


 何があるのか。


 どれが美味しかったのか。


 まだ食べていないものは何なのか。


 少しずつ分かってきている。


「じゃあ……」


 少女が椅子から立ち上がった。


「もう一度、行ってきます」


「はい!」


 ラフィアも立ち上がる。


「今度は、さっき取らなかったものを選んでみるのもいいですね」


「……さっき取らなかったもの」


 二人が料理の並ぶ台へ向かう。


 俺も立ち上がった。


 ローストチキン。


 蒸したタラと野菜。


 パン。


 それから、花飴を一つ。


 コーヒーもおかわりする。


 料理をお盆に乗せ、席へ戻る。


 しばらくして、二人も戻ってきた。


「見てください!」


 ラフィアが嬉しそうにお盆を見せる。


 焼きたてのピザ。


 肉と野菜を餡にしたカリカリの包み焼き。


 味噌を使った汁物。


 焼いた野菜に溶かしたチーズ。


 まだ食べていなかったものを、いくつか選んできたらしい。


「まだまだ食べていないものがありました!」


「……そうか」


 少女も自分のお盆を見ながら、嬉しそうに笑っている。


「では、いただきましょうか」


「はい!」


 二巡目の食事が始まる。


 今度は、少女も料理を選ぶことに迷わなかった。


 ピザを食べ、包み焼きを食べる。


 気になった料理にも少しずつ手を伸ばしていく。


「これも、おいしいです」


「よかったですね」


 ラフィアが笑う。


 それからは、二人とも会話を交わしながら食事を続けた。


 気がつけば、皿の上の料理はほとんどなくなっていた。


「ごちそうさまでした」


 少女が満足そうに言う。


「はい。ごちそうさまでした」


 ラフィアも答える。


 少女は空になった皿を見つめる。


 そして、今度は迷わず口を開いた。


「甘いものを食べたいです」


「甘いものですか?」


「はい!」


「クレープを食べたいです」


「いいですね!」


 ラフィアが嬉しそうに立ち上がる。


「では、行きましょうか」


「はい!」


 俺は椅子に座ったまま、二人を見送る。


 肉も食べた。


 野菜も食べた。


 パンも食べた。


 コーヒーも飲んだ。


「……これくらいで十分だな」


 残ったコーヒーを一口飲み、二人が戻ってくるのを待つことにした。


 二人が向かった台には色とりどりのデザートが並んでいた。


 小さなケーキ。


 プリン。


 クッキー。


 カステラ。


 シュークリーム。


 果物の入ったゼリー。


 どれも一人分ほどの大きさに分けられている。


「私は、これにしましょうか」


 ラフィアがケーキを一つ取る。


「それから、プリンも」


 さらにカステラやゼリーを取った。


「少しずつ、いろいろ食べましょう」


 その手は、次の皿へ、さらにその次へと伸びていく。


 少女はクレープの台へ向かう。


 前に見た露店の料理風景を思い出しながら、自分で作っていく。


 生地を一枚取り、その上に花のジャムを乗せ、クリームと果物を選んでいく。


「これは?」


 少女が小さな器を指差す。


「小豆で作ったあんこですよ」


 ラフィアが答える。


「北の地方で採れる豆を、甘く煮て作ったものです」


「小豆……?」


「ええ。甘いんですよ」


 少女は少し不思議そうにあんこを見る。


「クレープにも合いますよ」


「じゃあ、入れてみます」


 少女は匙であんこをすくい、クレープの上へ乗せる。


 それから、生地を折りたたんだ。


「できました」


「おいしそうですね」


 ラフィアが笑う。


 少女は自分で作ったクレープを見つめる。


 その顔には、料理を選んでいたときとは違う嬉しさが浮かんでいた。


「お待たせしました!」


 二人が戻ってくる。


 二人とも自分のお盆にいくつもの皿を乗せ、デザートで埋めていた。


 ケーキ、プリン、クッキー、カステラ、ゼリー。


 ……その他諸々。


 もう一つひとつ挙げていくのが面倒になるくらい、種類が多い。


 皿の隙間が見えないほど、甘いものが詰め込まれている。


「……」


 俺は二人のお盆を見る。


「お前たち、さっきまであれだけ食べていたよな?」


 料理だけでも、かなりの量だった。


 それなのに、目の前には山のようなデザートが並んでいる。


「……よく入るな」


 ラフィアが笑う。


「甘いものは別腹ですから」


「別腹?」


 少女が首を傾げる。


「はい」


 ラフィアが少女を見る。


「お腹いっぱいでも、甘いものなら食べられるっていう意味ですよ」


「……」


 少女は自分のお腹へ手を当てる。


 少し考えてから、顔を上げた。


「……別腹です!」


「……お前もか」


「はい!」


 少女は真剣な顔で答えた。


「そうか」


 二人とも本気らしい。


「では、いただきましょうか」


「はい!」


 少女はクレープを一口食べる。


「……おいしいです」


「よかったですね」


 ラフィアもケーキを一口食べる。


「こちらもおいしいですよ」


 少女もラフィアと同じケーキを自分の皿から一口食べる。


「本当です」


 その後も、二人は少しずつ甘いものを楽しんだ。


 その笑顔は、今まで食べた料理のときよりも眩しかった。


 こういうのを至福のひと時と言うのかもしれない。


 途中で飲み物も新しく取ってくる。


 二人は、それまで飲んでいたものとは別の種類の果汁入り炭酸水を選んだ。


 俺は変わらずコーヒーをもう一杯。


 やがて、少女の皿からもラフィアの皿からも、甘いものが少しずつ減っていった。


「ごちそうさまでした」


 少女が満足そうに手を合わせる。


「はい。ごちそうさまでした」


 ラフィアも手を合わせながら、笑っている。


 俺もカップを置いた。


「……さすがに、もう食い足りただろ?」


「はい。お腹いっぱいです」


 少女が満足そうに頷く。


「私もです」


 ラフィアも笑いながら、自分のお腹へ手を当てる。


「これだけ食べれば、さすがに満足ですね」


「そうか」


 俺は二人を見る。


 料理を二巡。


 その後にデザートまで食べた。


 これ以上食べるなら、もう食事というより大食いだ。


「なら、行くぞ」


「はい!」


「はい!」


 三人で席を立つ。


 店員へ礼を言い、店を出る。


 外には、まだ昼の明るさが残っていた。


 花で飾られた通りを、多くの人が歩いている。


「おいしかったですね」


 ラフィアが満足そうに息を吐く。


「はい」


 少女も頷く。


「いろんなものを食べました」


「私もちょっと食べすぎたかもしれませんね」


 ラフィアが自分のお腹へ手を当てる。


「……少し体重が心配です」


「体重?」


 少女がラフィアを見る。


「はい。今日は甘いものもたくさん食べましたから」


「私も気にした方がいいですか?」


「お前は気にしなくていい」


 俺は即答する。


「……そうなんですか?」


「ああ」


 俺は少女を見る。


「むしろ、お前はもう少し食べてもいい」


「……」


 少女が少しだけ目を伏せる。


「……そうですか?」


「ああ」


 以前よりは、ずっと顔色がいい。


 毎日の食事も、今では普通に食べられるようになった。


 それでも、まだ細い。


 腕も肩も、以前の名残を残すように細かった。


 あの役人が言っていた言葉を思い出す。


『――まだ体は十分に育っていない』


 確かに、その通りなのだろう。


「別に俺に合わせる必要はない」


「……」


「まだ食えるなら、食えばいい」


「……もっと食べても、いいんですか?」


「ああ」


「……」


「腹が減ってるなら言え」


「……はい」


「もっと欲しいなら、それも言えばいい」


 少女はしばらく俺を見つめていた。


 やがて、小さく頷く。


「……はい」


 その顔には、少し嬉しそうな笑みが浮かんでいた。


 三人はそのまま通りを歩き始めた。


 花で飾られた通りを、多くの人が歩いている。


「おいしかったですね」


 ラフィアが満足そうに息を吐く。


「はい」


 少女も頷く。


「いろんなものを食べました」


「私もちょっと食べすぎたかもしれませんね」


 ラフィアが自分のお腹へ手を当てる。


「……少し体重が心配です」


「体重?」


 少女がラフィアを見る。


「はい。今日は甘いものもたくさん食べましたから」


「私も気にした方がいいですか?」


「お前は気にしなくていい」


 俺は即答する。


「……そうなんですか?」


「ああ」


 俺は少女を見る。


「むしろ、お前はもう少し食べてもいい」


「……」


 少女が少しだけ目を伏せる。


「……そうですか?」


「ああ」


 以前よりは、ずっと顔色がいい。


 毎日の食事も、今では普通に食べられるようになった。


 それでも、まだ細い。


 腕も肩も、以前の名残を残すように細かった。


 あの役人が言っていた言葉を思い出す。


『――まだ体は十分に育っていない』


 確かに、その通りなのだろう。


「別に俺に合わせる必要はない」


「……」


「まだ食えるなら、食えばいい」


「……もっと食べても、いいんですか?」


「ああ」


「……」


「腹が減ってるなら言え」


「……はい」


「もっと欲しいなら、それも言えばいい」


 少女はしばらく俺を見つめていた。


 やがて、小さく頷く。


「……はい」


 その顔には、少し嬉しそうな笑みが浮かんでいた。


 しばらく三人で歩く。


 すると、ラフィアが辺りを見回した。


「さて」


 ラフィアが口を開く。


「これから、どうしましょうか?」


「……」


 少女も辺りを見回す。


 露店。


 人の流れ。


 道沿いに並べられた花。


 祭りのために飾られた色とりどりの花が、あちこちに見える。


 少女は、その花を一つひとつ目で追っていた。


「……」


 しばらく考えている。


「何かしたいことはありますか?」


 ラフィアが尋ねる。


 少女は少し考える。


 それから、道沿いに飾られた花へ目を向けた。


「……もっと、お花を見たいです」


「お花ですか?」


「はい」


 少女が頷く。


「まだ、見ていないお花があると思います」


 ラフィアが微笑む。


「それなら、せっかくの機会ですし、花園区へ行ってみませんか?」


「花園区……」


 少女がその名前を口にする。


 以前、ラフィアから教えてもらった場所だ。


 フローレには、花を育てている一角がある。


 そこでは、様々な花が育てられている。


「いろいろな花がありますよ」


「……」


 少女の目が少し輝く。


「行きたいです」


「では、行ってみましょうか」


「はい!」


 少女が嬉しそうに頷く。


 三人は花で飾られた通りを歩いていく。


 祭りの音は、まだ街のあちこちから聞こえている。


 花祭りの午後は、まだ終わりそうになかった。

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