表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/122

第94章「ほどける距離――“静かな夜の選択”」


部屋の空気は、さっきより少しだけ柔らかくなっていた。


言葉の数は多くないのに、沈黙が重く感じない。


むしろ、何かを待っているような静けさだった。



巳波は琉偉の目を見ている。


逃げるような視線じゃない。


確かめるような、でも試すような、そんな距離。



「……ほんとに、それだけ?」


巳波がもう一度聞く。


さっきより少しだけ声が低い。



琉偉は一瞬だけ間を置く。


そして、はっきり言う。


「それだけじゃないです」



空気がわずかに動く。



巳波は小さく息を吸う。


「じゃあ、なに?」



琉偉は視線を逸らさない。


「一緒に、ちゃんと前に進みたいです」



その言葉は、握手会の喧騒でも、配信の数字でもない。


ただ一人の人間としての言葉だった。



巳波は少しだけ目を細める。


「前に進むって、どこに?」



琉偉は即答しない。


ほんの少しだけ考える。


そして――


「巳波さんがいる場所です」



その一言で、部屋の温度が少しだけ変わる。



巳波は視線を落とす。


カップのないテーブル。


整いすぎた夜。


その全部が、少しだけ遠く感じる。



「……そういうこと、簡単に言うのやめてほしい」


巳波の声は小さい。


でも、突き放すものではない。



琉偉は一歩近づく。


「簡単じゃないです」


「ずっと考えてます」



その距離はもう、ほとんど意味を失っている。



巳波はゆっくりと息を吐く。


「考えすぎ」



琉偉は少しだけ首を振る。


「でも、やめる理由がないです」



沈黙。



外では車の音が遠くを通り過ぎる。


それだけで、世界が一瞬だけ現実に戻る。


でもすぐに、また二人だけの静けさに戻る。



巳波は琉偉を見つめたまま、少しだけ笑う。


「ほんとに、逃げないね」



琉偉は答える。


「逃げる必要がないので」



その言葉で、巳波の表情が少しだけ変わる。


ほんのわずかに、緊張がほどける。



「……じゃあさ」


巳波が言う。


少しだけ声のトーンが変わる。



「今日は、どうしたいの?」



その問いは、軽いようで軽くない。


選択を委ねるようで、すでに答えを見ているような問い。



琉偉は息を吸う。


そして、静かに言う。



「巳波さんと、ちゃんと向き合いたいです」



一拍。



巳波はその言葉を反芻するように目を伏せる。



そして、小さく笑う。


「……もう十分向き合ってると思うけど」



琉偉は首を横に振る。


「まだ足りないです」



その瞬間、巳波は少しだけ目を見開く。



次の言葉を探すように、ほんの少しだけ間が空く。



そして――


巳波は一歩だけ近づく。


もう距離はほとんどない。



「じゃあ」


巳波は静かに言う。


「ちゃんと向き合いなよ」



その声は、命令でも拒絶でもない。


受け入れる準備の声だった。



琉偉は小さく頷く。


「はい」



その瞬間、


二人の間の最後の“余白”が消える。



どちらからともなく、視線が絡む。


呼吸が近くなる。



そして――


夜は、まだ終わらないまま次の段階へ進んでいく。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ