表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/122

第91章「握手会後の静寂――“3000人の余韻”と、突然こぼれた本音」


会場の撤収がほぼ終わった頃だった。


さっきまで3000人の列が続いていた空間は、もう別の場所のように静かになっている。


照明は一部だけ残され、床にはテープの跡と、かすかな足音の残響だけがあった。


“あの熱”が本当にあったのか疑うほど、現実は急速に冷えていく。



控室の一角。


巳波と琉偉、そしてマネージャーの筒香雷斗が並んで座っていた。


テーブルにはまだ未整理の資料と、今日の動線表。


だが誰もそれに手を伸ばしていない。



最初に口を開いたのは琉偉だった。


「……今日の握手会、正直きつかったと思います」


雷斗が少しだけ視線を上げる。


巳波も静かに聞いている。



琉偉は続ける。


「横で見ていて、3000人って……想像よりずっと重かったです」


少し間を置く。


「同じことをずっと続けるのもそうですけど、“崩れないように維持する”のが一番きついと思いました」



雷斗はゆっくり頷く。


「その通りだよ。あれは普通のイベントじゃない」


巳波は小さく息を吐く。


「でも、ちゃんと終わったよ」



琉偉はその言葉に少しだけ目を細める。


「終わりましたね」



しばらく、沈黙が落ちる。


外からは片付けの音がまだ微かに聞こえる。



雷斗が資料を閉じながら言う。


「数字だけ見れば成功どころじゃない。完全に想定超えてる」


「でも次やるなら……かなり調整が必要だな」



巳波は軽く笑う。


「もう一回はさすがにしんどいかも」



その言葉に、少しだけ空気が柔らかくなる。



だが――


その柔らかさを壊すように、琉偉がぽつりと言った。



「……もうそろそろ、巳波さんとの子供が欲しいです」



一瞬、時間が止まる。



雷斗の手が止まる。


巳波のまばたきも一拍遅れる。



「……は?」


雷斗が思わず声を出す。


完全に素の反応だった。



巳波も一瞬固まる。


「え……今ここで?」



琉偉は変わらない表情のまま、少しだけ首を傾げる。


「タイミング的には、今かなって思いました」



雷斗が額を押さえる。


「いやいやいや……今の流れでその話になるのか?」



巳波は少しだけ顔を赤くしながら、笑いをこらえる。


「ちょっと待って、急すぎるって」



琉偉は真面目なまま続ける。


「今日の握手会見てて思ったんです」


「3000人って……すごいですけど、ずっと一人一人と向き合うのって、人生みたいで」



雷斗は目を細める。


「急に哲学っぽくするな」



琉偉は構わず続ける。


「だから、次の形として……家族の形も考えていいと思ってます」



沈黙。



巳波はしばらく琉偉を見つめて、それからふっと笑う。


「ほんと、そういうとこ変わらないね」



雷斗は完全に呆れたように息を吐く。


「お前ら、握手会の後にする会話じゃないだろ普通」



琉偉は少しだけ首を傾ける。


「でも、今しか言えない気がしました」



巳波はゆっくり立ち上がる。


そして琉偉の前に立つ。


雷斗の存在を一瞬だけ無視するように、静かに言う。



「……そういう話は、もう少し場所選んで」



でも、その声は怒っていない。


むしろ、少しだけ柔らかい。



琉偉は小さく頷く。


「すみません」



雷斗がすかさず言う。


「いや謝るのそこじゃないからな」



空気が一瞬だけ緩む。



巳波は軽く息を吐く。


「でもまぁ……」


少し間を置いてから、続ける。


「考えないわけじゃないよ」



その一言で、琉偉の表情がほんの少しだけ変わる。



雷斗は天井を見上げる。


「……このチーム、ほんとに普通じゃないな」



誰かが笑う。


誰かがため息をつく。


でも、空気は悪くない。



3000人の握手会の後。


まだ熱が残っている部屋の中で、


それぞれの“次”だけが静かに形を持ち始めていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ